臨床工学技士が支える 〜安心な医療機器メンテナンスと安全な人工心肺操作技術〜

前回の記事(「前回の記事」リンク)から約半年。

臨床工学室から今回は医療機器管理と人工心肺操作がどのようにして安心と安全をお届けしているかを当センターの臨床工学技士3名よりお伝えしていきたいと思います。

使って安全!見て安心!あなたにいちばん近い医療機器

東京ベイのMEセンターでは約1400台(機器稼働率約70%)の医療機器を中央管理しています。
その中央管理されている医療機器たちはどのようにして患者さんへと使われるのでしょうか。
MEセンターでは毎日100台以上の医療機器が点検の為に返却されてきます。
これは一度患者さんへ使われた使用後の機器です。
そう、東京ベイでは医療機器は患者さんへ一度使用されたら必ずMEセンターへ返却され臨床工学技士の手で点検を受けて安全な状態で次の患者さんへ使われます。
使用後の機械は少なからず汚染され、また経年劣化などにより不具合を起こしているかもしれません。
ですから返却毎に
除菌→清掃→日常点検→記録→貸出可
という順路をたどります。

日常点検は機器により最低3項目から最大10項目以上まであり、患者さんがよく目にする点滴に使われるポンプ類を例に挙げると流量測定を毎回行い、メーカー基準値よりも厳しい基準値で点検を通しています。
これに加え、年に2回の定期点検(日常点検よりも更に厳しく、点検項目の多い試験)を行い安全性を担保しています。
これらを行うことは非常に大変で時間がかかりますが、そのおかげで自信を持って患者さんへ安全が担保された医療機器を届けています。
ですから東京ベイの患者さんは安心してこれらの医療機器を用いた治療を受けていただけます。

安全に心臓を止めるプロ!?それが臨床工学技士

人工心肺装置を使う心臓手術をうけるには心臓をいちどピタッと止める(心停止)必要がある場合があります。
意図的に心臓を止め、安全に復活させるプロが我々臨床工学技士です。
心臓を止めるには”心筋保護液”という液体を心臓の血管である冠動脈へ流して心臓を一時的に休眠させます。
その心筋保護液を作成、回路組み立て、ポンプ操作による送液を私達が行っています。
私達は
『自分の家族へ使用する気持ちで』
という意識のもと心筋保護回路や人工心肺装置の準備、操作を行っています。
手術直前にはダブルチェックによるリストを用いた点検を行い、万が一のミスを防止しています。
心筋保護液の組成や効果などは専門的すぎるので割愛しますがその組成や心臓への送り方、ポンプ操作による量やスピード、圧力などを総合的に判断しながらの動作は頭と身体をフル回転させる必要があり、一朝一夕で身につくものではありません。
患者さんのため、安心安全な手術を行うため、担当する技士ひとりひとりが日々スキルアップのための努力を惜しみません。
そのスキルを支えるのが熟練した腕を持つ体外循環技術認定士たちです。
東京ベイでは現在3名の体外循環技術認定士を擁しており、ほぼ全ての症例に認定士を配置することで安全な機械操作の一端を担っています。
“心臓を止める”とは言葉ではたった6文字で書けますがその実際はとても奥が深く、難しいことです。
難しいことをシンプルに安全に患者さんへ届けられるよう邁進いたします。

伊藤雄大/Yudai Ito

ひとこと
「そろそろ家を購入しようか迷う年齢になりました。」

医療機器を安全に患者さんへ届けるために
〜最新機械を使いこなすプロへ!〜

現代医療は日進月歩であり、医療機器もまた当然のごとく進歩し新しいものが出てきます。
最新の医療機器は携帯電話・スマートフォンと同じように高性能・高機能化が進んでいるため、今までできなかった治療や処置、観察を行える一方で安心安全に機能を使いこなすためにはかなりの習熟が必要となります。
もちろん取扱説明書も目を見張るような分厚さは当たり前です。

また、不具合や故障についても機能が煩雑化してきているため単純なものではないこともしばしばあり、簡単なものではありません。
そこで我々は医療機器メーカーから機種ごとにメンテナンス講習を受け、認定証を取得し知識・技術を身につけて患者さんへ安全な医療機器を提供しています。

もちろんメンテナンスのみではなく、測定技術や適正使用方法についても院内イチ理解しているとこを目標としています。
機器の不具合についても「とにかく動かない!」ではなく「この機器のこのパーツが不具合を起こしている!」「こういった理由で調子が悪い」といった精査・原因追求の力がより安全な機器提供に繋がると考えております。
ですから、医療機器メーカーとしっかりとした情報交換や技術提供を受けることが必須となってきます。
加えて常に学会、論文や機器展示会などに目を光らせての情報収集は欠かせません。
そして、我々臨床工学技士は医療スタッフが医療機器を安全かつ適切に使用していただくため、保守管理業務に加え院内教育・レクチャーにも力を入れています。
必ずしも我々が医療機器を使用するわけではありません、むしろ医師や看護師が使用することが大前提になります。
そこで、医療機器メーカーとも協力しスタッフ教育を行なっています。
正しい知識と技術を医療スタッフ全員がしっかりと把握し医療機器を使いこなすことで安全な医療機器を安心して患者さんへ使用することができています。

宇佐見 直/Usami Sunao

ひとこと
「最近家庭菜園でミニトマトを栽培しはじめたらたくさん採れすぎてしまいました(笑)」

東京ベイの安心で低侵襲な心臓手術とは!?

東京ベイでは2016年1月から12月までに心臓血管外科手術を450例行いました。
これは少なくとも1日1件以上の手術が行われたことになります。
これだけの手術を安全に、かつ患者さんに安心して受けていただけるのは何故でしょう?
その理由の一つに我々臨床工学技士の存在がそこにもあります。

心臓手術には大きく分けて
・心臓を止めずに行う(心拍動下)手術
・心臓を止めて行う(心停止下)手術

に分けられます。

後者において我々臨床工学技士が人工心肺装置を用いて、患者さんの命を手術の間お預かりしています。
そんな人工心肺装置を用いる手術のなかでも東京ベイが最も得意としている
低侵襲心臓手術 通称:MICS(ミックス)
についてどのようにして手術を安心で安全なものにしているのかをお話します。

低侵襲心臓手術MICS(ミックス)では通常の心臓手術と比較してキズが小さくなる為、患者さんへの負担も少なくメリットの高い手術です。
ですがその反面、術者には高い技術が必要となり我々臨床工学技士が操作する人工心肺も操作技術の難易度が高くなります。
難易度の高い人工心肺の操作を安全に行うには術前準備が最も重要だと考えています。
具体的に、人工心肺では血管にカニューレという管を挿入した後、カニューレと人工心肺装置を接続し、全身へ酸素化した血液を循環させます。
MICS(ミックス)では先に述べたようにキズが小さい為、首と足の血管を体外循環に用います。
これは通常の心臓手術に使用する血管よりも細い血管であり、この細い血管にカニューレ(管)を挿入しなければいけません。
細いカニューレを使用する問題点は、太いカニューレよりも血液を取りだしづらくなります(ストローでジュースを飲む時に細いストローでは太いストローに比べ吸い上げる時に強い力が必要になるのを想像してみてください)。
血液が取りだしづらくなると、全身への酸素化した血液の供給が不十分になり、生命活動に支障をきたす可能性が高まります。
その為、カニューレの選択とカニューレの位置を適切に行う必要があります。
手術前のCT検査所見からどのサイズのカニューレが必要か、心臓血管外科医と協議し、カニューレ挿入時も経食道エコー装置で麻酔科医に位置を確認してもらいながら行います。
このようにMICS(ミックス)では術前準備を最大限行うことによって安全な手術が可能になり、患者さんへ安心を届けることができると考えます。

2016年MICS(ミックス)は54症例(全国的にみても多い症例数)と豊富な経験があります。
また、1症例ごとに省察(振り返り)を行い、より安全な人工心肺操作につなげられるように努力しています。

長嶋耕平/Nagashima Kohei

ひとこと
「最近ハマっていることは子育てです!」

臨床工学室からは今年度は今月が最後となりますがいかがでしたか。
患者さんからはあまり聞き慣れない職種が、医療現場からどのように安心と安全をお届けしているかが垣間見えたとしたら、とても嬉しく思います。

文責:伊藤雄大 宇佐見直 長嶋耕平

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 臨床工学室

メニュー