たかが便、されど便
「おはようございます。今日の体調はいかがですか?」
「あまり良くないわね。ベンの調子が良くないから。」
「そうですよね、心臓に弁のご病気ですもんね。息切れしますか?」
「息切れ? いやーねー、便よ便!そっちの弁じゃないわよ!便! お通じよ。」
「えっ?お通じ? あっ“弁”じゃなくて“便”の方でしたかー。あははー。」
私の働く心臓血管外科の病棟には、心臓弁膜症で手術を受けられる患者さんがたくさんいます。そのため、こんな勘違いのやりとりが年に数回起きてしまいます。嘘みたいな本当の話です。でも排便に悩んでいる患者さんのホント多いことといったら。(かくいう私の便秘に悩む一人でありますが)
特に心臓疾患を抱える患者さんは、排便コントロールが重要です。便秘に対する急激ないきみ(怒責)は血圧や脈拍を上昇させ、心臓に負担をかけるからです。一方で下痢が長く続くような場合は電解質の喪失や脱水が起こり、ひどいときには不整脈や腎機能低下などの原因になりえます。そしてなによりも、患者さん自身が感じる不快感はストレスや生活の質の低下をもたらしますし、数種類以上の下剤や整腸剤を重複内服している患者さんもいて、それを飲むだけでも一苦労している様子をお見受けします。また困ったことに、排便習慣や排便に関する快/不快の感じ方は個々で異なります。医療者が他覚的に判断しにくい面もあります。たかが便、されど便なのです。
人知れず便に悩んでいる??
2016年度の国民生活基礎調査によると、日本における便秘の有訴者率(人口1,000対)は男性24.5、女性45.7、下痢については男性18.2、女性14.8ということですから、排便問題に悩まされている患者さんが多いのもうなずけます。そんな状況があるからでしょうか、便秘に関しては昨年10月に国内初の「慢性便秘症診療ガイドライン2017」が発表されました。治療薬も従来使用されていた刺激性下剤、浸透圧性下剤に加え、最近では上皮機能変容薬といった薬剤も登場し、科学的根拠のある診断と治療が推奨されています。
排便事情からNPとして考えていること
私たち診療看護師は、医師とともに来院のきっかけとなった疾患に対する診療やケアを行うのがメインの仕事ですが、それと同時に回復を促進させるための食や排便、睡眠といった基本的な生活と、それに伴う患者さんの快/不快といった状況に目を向けることを大切にしています。ありふれた症状だけに見過ごされがち、でも実は悩みの多い排便事情。私たち診療看護師はそんなところもすかさず掘り下げ、患者さんが快適、快便に過ごせるためのアプローチを行っていきたいと考えています。