MitraClip(マイトラクリップ)、僧帽弁逆流治療の新たな地平〜なによりも患者さんが「最適な選択肢」を選べるように〜

循環器内科 天野 秀生

2018年4月から僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療であるMitraClip(マイトラクリップ)治療が本邦でも施行可能となりました。従来、僧帽弁閉鎖不全症に対する治療としては外科手術が行われますが、約半数は年齢や併存疾患から外科手術のリスクが高く、手術をせずに経過をみられているとの報告もあります。

そういった手術リスクの高い方に行われるのがMitraClip(マイトラクリップ)治療で、足の付け根の血管からカテーテルを挿入して図のような器具を用いて逆流を起こしている弁をつまむことにより逆流を減らす治療です。従来の外科手術と比べて逆流の制御には劣るものの、体への負担が少ないため手術リスクの高い方にも検討できる治療で、2018年4月からの3年間で、日本全国で3200人余り(2021年3月末時点)の患者さんにこの治療が行われています。

MitraClip(マイトラクリップ)治療は、本邦では3年前に施行可能となった比較的新しい治療ですが、この3年の間に様々な研究結果が報告され、2020年4月からは対象となる患者さんの適応が拡大されました(具体的には、当初は左室駆出率[心機能に関する指標の一つで60%以上が正常の値です]が30%以上の患者さんが適応でしたが、2020年4月からは、よりリスクの高い左室駆出率が20%~30%の方も保険適応になりました)。

また、2020年9月からは4種類のサイズバリエーションがある新世代のクリップ(下図)が使用可能になり、患者さん各々の病態に応じた治療が可能になっています。

このようにMitraClip(マイトラクリップ)治療は、比較的新しい治療ですので、日進月歩の分野ですが、みなさんにより良い医療を提供できるようデバイスの進化とともに我々も日々研鑽を積んでいます。

東京ベイの強みは、弁膜症の詳細な評価を担う心エコーのエキスパートや外科手術に習熟した一流の心臓外科医がいることで、このMitraClip(マイトラクリップ)治療でも外科手術(弁形成術)でも治療の選択肢を排除することなく、ひとりひとりの患者さんに最適な治療を提供できるようハートチームで取り組んでいます。

臨床検査室 清水 香痢

僧帽弁閉鎖不全症が疑われる患者さんには、僧帽弁逆流の原因や重症度を調べるためにまず経胸壁心エコー図検査を行います。僧帽弁逆流の原因はいくつかありますが、僧帽弁に強い変性があったり、僧帽弁狭窄症を伴ったりする場合はMitraClip治療が出来ません。

検査時には、逆流の有無やその重症度を評価するだけでなく、僧帽弁のどの部位がどのように悪さをして逆流が生じているかまで出来るだけ詳しく観察しています。また、手術が終わった後にも経胸壁心エコー図検査が必要です。治療後の僧帽弁の状態を観察して逆流が改善しているか、Clipを留置した僧帽弁の開きはどの程度あるか、僧帽弁逆流が改善した後の心臓の大きさや動きがどのように変化しているかを評価するためです。

先日、他院で重症の僧帽弁閉鎖不全症と診断された患者さんが来院されました。「外科的に胸を切って手術することはどうしてもやりたくないが、1年ほど前から布団の上げ下げだけで息が切れる。入院すると症状が軽くなり退院するが、少しするとまた苦しくなり入院になってしまうので困っている。」とのことでした。当センターで施行した経胸壁心エコー図検査でも、重症の僧帽弁閉鎖不全症と診断されました。

左室・左房の拡大によって収縮期に僧帽弁の閉じが悪くなっていることが原因で、弁の隙間から逆流が生じていることが分かりました。僧帽弁自体に大きな変性はなく僧帽弁狭窄症も伴っていないため、MirtaClip適応の可能性ありと判断され、後日エコー医・循環器内科医・心臓血管外科医の参加するハートチームカンファレンスにて話し合われた結果、MitraClipで治療する方針となりました。

これは実際のエコー画像で、僧帽弁逆流を2つの断面で記録したものです。手術前(上段)には重症の僧帽弁逆流(水色部分)を認めていましたが、MitraClip治療後(下段)はClipが僧帽弁をしっかり把持していて、僧帽弁逆流は顕著に改善しています。

このように経胸壁心エコー図検査は、心臓の大きさや動き、弁の状態を多断面から詳しく記録に残すため検査時間が20~30分程度がかかることがあります。また、検査時に心臓に異常がなくとも、正常な状態をきちんと記録に残しておくことで、経時的な変化を正しく追うことができます。MitraClip治療のように心臓病の治療はどんどん進化しています。

私たち検査技師も、ハートチームのコアメンバーとして、腕を磨き、検査精度を高め、患者さんの治療にさらに貢献できるよう、一人一人の心エコー検査に全力を尽くして参ります。

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