転倒予防への取り組みと移乗講習会 ~リハビリと病棟看護の連携~

皆さん、寒さ厳しい毎日ですがいかがお過ごしでしょうか。皆様のご健康を心よりお祈り申し上げます。
今回、転倒予防をテーマとして、リハビリテーション室の“連携×安全”についてご紹介したいと思います。

〇転倒予防の重要性

転倒という言葉は最近テレビでもよく取り上げられるようになってきました。定義としては外力や意識消失によるものではなく、不注意によって倒れてしまう事をいいます。皆さんも小さい頃に一度は不注意で転倒を経験しているかと思います。多くはすり傷程度で済むのではないでしょうか。一方、ご病気を抱えている場合、あるいは年齢を重ねている人の場合、転倒はその人の予後(将来)に悪影響を及ぼす可能性もあるのです。厚生労働省が調査した内容(平成25年国民生活基礎調査)によりますと、要介護ならびに要支援になる原因のうち約10%が転倒・骨折によるものと報告されています。特に、高齢になるほど転倒による骨折発生率は高くなり、骨折が生じてしまえば歩行に限らず生活するための能力が著しく低下する可能性が高いという報告もされています。

では、そもそも転倒の原因はなんでしょうか?年齢によるものだけとは限りません。まず、身体機能的な要因、例えば筋力低下やバランス機能低下があります。実は、運動機能が低い方だけに起こるとは限らず、運動神経に自信がある方も入院中は転倒する可能性があります。というのも、入院中は活動範囲が入院前の生活と比べて狭くなり、さらに、疾患によっては安静を必要とするものもあるからです。安静時間が長くなり活動できる時間が少なくなればなるほど筋力やバランス機能は低下していくのです。

続いて、環境的な要因があります。ここでいう環境とは入院後の自身の状態や身辺の環境のことをいいます。例えば、骨折等でギブスを装着しており腕や足がうまく動かせない状況だったら、あるいは多くの点滴等により動作が少しでも制限されている状態だったら、どうでしょうか。周辺の環境や自身の状態が少し変わるだけでも、今まで通り注意が十分向けられるとは限りません。注意が十分向けられなければ、それだけ転倒する可能性も高くなります。

転倒には身体機能的要因と環境的要因がある。(スタッフによる実演)

〇入院中の転倒予防には“運動療法”“動作指導”そして“情報共有”

リハビリテーションで行う運動療法、これは低下した運動機能を改善させる効果があります。適切な筋力訓練、バランス保持訓練、動作訓練等を行うことで運動機能や移動能力は向上し、さらに転倒リスクを軽減できることも可能です。また、入院されている方の身辺環境に合わせて動作訓練を行う事は、周囲へ注意を向ける練習にもなりますので、これもリハビリテーションとしては大変重要となります。

しかし、入院生活に占めるリハビリテーションの時間はごく一部ですし、それをリハビリ以外の入院生活の中に反映することが大切です。また、普段の生活で移動そのものができなければ活動量も少なくなり、運動機能はより一層低下するでしょう。ただし、運動機能や移動能力が低下した状態での移動はかえって転倒リスクが高いことも事実です。

実際の入院生活では病棟看護師が付き添いや介助を行います。ここで重要なのは、どれくらいの介助がいるのか、どのような介助がその人にとって妥当なのか、という事を情報共有することです。

リハビリテーションスタッフの役割のひとつは運動療法や環境設定にだけでなく、動作を評価した上で介助量や介助方法について入院患者と病棟看護師に“動作指導”を行う事です。その指導した動作や介助量が妥当だったかどうかも病棟看護師からリハビリテーションスタッフへ伝わります。このように、お互いの情報共有で転倒リスクがを減らし、入院される方が安心かつ安全でいられるよう、当センターでは努めています。

移乗講習会の様子

〇当センターのリハビリテーション室の工夫 ~移乗講習会の開催~

当センターリハビリテーション室では、病棟看護師を対象とした移乗講習会を定期的に開催しており、リハビリテーションスタッフの行う動作指導やポイントについて情報を共有しています。ちなみに、移乗とはベッドと車椅子との間の移動、トイレと車椅子との間の移動など、こうした乗り移り動作のことをいいます。重心移動を行いますので、脚に力が入らない、注意が別に向くといった場合には転倒する可能性は高くなります。介助の方法はその人の体格や運動機能に大きく左右されますので、移乗介助が難しいと感じる方も少なくありませんが、ポイントをしっかり押さえることが大切です。

まず一つ目のポイントは、立ち上がる時、座り込む時の重心移動を理解することです。重心移動を無視して力で持ち上げようとすれば、介助される側は十分に力が発揮できませんし、なにより介助者も腰を悪くしてしまいます。

そして二つ目のポイントは介助する側と、される側とのタイミングです。タイミングを合わせることで、介助される側の力を引き出せますので、お互い負担をかけ過ぎずにできます。移乗介助に特別な方法や魔法のような方法はありませんし、基本的なことを忠実に行えばだれでもできるようになります。ただし、頭で考るだけではできるようにはなりませんので、実践して覚えることが必要です。百聞は一見にしかず、です。

なお、介助とはいっても、必ずしも1対1で行うわけではなく、複数人で一人の方を移乗する方法もあります。全身をほとんど動かすことができない、集中管理等で多くの点滴等があり一人では難しい場合もあるからです。こうした方法についても講習会では紹介しています。

当センターの移乗講習会では、移乗の際のポイントを理解してもらったうえで実践(実技)をおこなってもらう形式で行っています。また、必要に応じて症例を提示しながら、こういう人にはどのような移乗動作が適切なのかをディスカッションしてもらうこともあります。入院される方の運動機能は多種多様ですので、様々なシナリオを設定して講習を行っています。

〇転倒予防に向けての役割

「転ばぬ先の杖」という有名なことわざがあります。大事にいたる前に前もって準備や対策を行っておく必要がある、という意味です。当センターリハビリテーションスタッフは、入院される方が転倒せず安心、安全でいられるように“杖”の役割も担っていると考えています。また、入院される方に限らず、来院される皆様に安心を与えられるような、病院全体にとっての“杖”となれるよう、今後とも努めていきます。

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター  リハビリテーション室

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