目指すべきゴールは「できる」より「暮らしに困らない」日常生活の獲得

リハビリテーション室
作業療法士 松井 洋介

皆さん、こんにちは。作業療法士の松井です。今日は当院において急性期から日常生活動作(以下ADL:Activities of Daily Living)の練習をしていくことの大切さについて話していきたいと思います。

作業療法士の役割として、基本的な運動能力(起きる・座る・立つなど)から、応用的な運動(食事・トイレ・着替えなど)、社会の中に適応する能力(通勤・買い物など)まで、3つの能力を維持・改善し、「その人らしい」生活の獲得を目標に関わっています。

急性期病院である当院では、発症直後の脳梗塞や脳出血などの患者さん、外科手術(整形外科や心臓血管外科など)後の患者さんなどに早期からリハビリテーションの介入をしています。その中で発症、受傷直後の麻痺や手・指の運動機能の改善のための関節可動域訓練や寝ているときのポジショニングなどは、作業療法の主な役割と思われる方が多いかもしれません。

実際、点滴の治療、意識レベル低下、バイタルサインが不安定な状態で介入することがあり、ベッド上で介入することも多くあります。また、寝たきりの患者さんもおられ、褥瘡予防のために介入することもあります。

しかし、急性期の病院だからといって、上記の訓練だけを続けているだけでは、作業療法士としては不十分だと感じています。急性期からADLの改善に取り組むことが大切だと感じています。急性期からも積極的にADL練習をすることで、慢性期の介助必要量が減少するという研究結果もあります。

中でもトイレ動作の自立を希望として訴える患者さんが多くみられます。トイレ動作を獲得することで、早期離床の獲得、ズボンの上げ下げ、後始末をするための手・指の運動機能の改善、立位動作の獲得にもつながります。また、尿道カテーテルの早期抜去による尿路感染のリスク減少や、オムツ内の汚染による褥瘡悪化なども減少することができます。

トイレ動作も「ベッドから起き上がる」、「トイレまで移動する」、「ズボンを上げ下ろしする」、「陰部を拭く」、「後始末をする」、「手を洗う」など多くの工程によって構成されています。そして、1つ1つの動作を評価し、何が問題になっているかを把握し、そこを重点的に練習するような訓練をすることが大事になってきます。

例えば、ズボンの上げ下げができないとき、ただ立位でズボンの上げ下げ動作を練習していても自立にはつながりません。立位でどの姿勢になるとふらつくのか、どこをつかむとスムーズに上げ下げできるのかなどを評価し、作業療法の内容を変えていきます。

患者さんの状態や動作能力が大きく変化する急性期だからこそ、先手を打って毎日の評価・介入が重要です。どの工程の動作を重点的に練習するのか、そこを明確にした上で、適切なアプローチをしていきます。そして、病棟で排泄動作を開始するときは、注意点や介助方法などの情報を病棟看護師など医療チーム内で共有することが重要になります。リハビリテーションの時だけで「できる動作」ではなく、病棟で日常的に「している動作」につなげることが大切です。

そして、患者さんが生活する場所は自分の家になります。自宅に帰ったとき、手伝うのは御家族になります。また、病院と自宅の環境も全然違います。病院の環境で、作業療法士が介助してできたとしても意味がありません。そのため、患者さんが自宅での生活でどのようなことに困りそうなのかを考え、自宅の環境を把握し、ADLの練習をする際に自宅に近い環境で練習することが重要です。このように治療の急性期から「その人らしい暮らし」を想定しながら一人一人の患者さんのリハビリテーションに関わっていきたいと思います。

メニュー