こんにちは。薬剤室です。寒くなるにつれて、風邪が流行りますね。手洗いとうがいで予防しても、風邪にかかってしまうと数日つらいですね。皆さん、風邪をひいたときはどうされていますか?ひたすら寝て治す、ドラッグストアにかけこむ、病院に受診する、など様々かと思います。寝て治すのも、ドラッグストアで症状に合わせて薬を買うのも良いと思います。でも、やっぱり病院を受診するのが一番だよね!・・・と思いますが、実はその病院に受診するときには注意が必要なのです!それはなぜでしょうか?そもそも、風邪って何か知っていますか・・・?
今回は風邪を理解して、病院を受診して正しくお薬を飲むために、お話をさせていただこうと思います。
そもそも『風邪』ってなんだろう?
そもそも風邪をひくってどのようなことなのでしょうか。風邪は「ウイルス」に感染することで、様々な症状を起こす症候群です。一般的な症状は熱や気道症状で、喉の痛み、鼻水、咳や痰などの症状がみられます。これらの症状は全てそろっている訳ではなく、鼻水のでない人もいますし、熱がない人もいます。「朝起きて何かだるいなあ・・・」と思いながらも頑張って仕事に行く。でも、次第に熱っぽくなってきて、喉の痛み、鼻水、咳や痰などの症状が重なり、夕方には仕事を続けられなくなりはっきりと「ああ引いちゃったな」なんて自覚するのが一般的ではないでしょうか。仕事帰りにドラッグストアで総合感冒薬とスポーツドリンクを買って、食欲は無いけどお粥くらいは食べて薬を飲んで早めに寝ようなんて経験、皆さん一度はあるのではないかと思います。
またこういったことは寒い時期に起こるイメージがありませんか?風邪は特に秋から冬にかけて流行りやすいといわれています。理由は感染源が乾燥した環境で生き延びやすいためです。ただ冬に流行りやすい、というだけで他の季節にもかからないわけではないです。
風邪で病院に行くメリット、デメリット
風邪をひくと、症状が辛くて、病院に行くことを検討する人はたくさんいると思います。でも、病院を受診して良いことや悪いことがあることは、知っておく必要があります。病院を受診して良いことは、症状を緩和するための薬がもらえることだけではなく、風邪だと思っていたけど違う病気だったなんてこともあります。
病院を受診して悪いことは、待ち時間が長いですよね・・・(たかが風邪で1時間も待ちたくない・・・)。あとは残念ながら、風邪なのに抗生物質(抗菌薬)が出されてしまうことがあることです。「え、何が悪いの?むしろ抗生物質もらいに行っているのだけど…」と思っているそこのあなた、時代は変わってきています。
確かにこれまで日本では慣習的に「風邪には抗菌薬」を処方してきた歴史的背景があります。処方する医師も、薬剤を渡す我々薬剤師も、処方される患者も、それに違和感を覚えていませんでした。しかし、これは医学的には誤りなのです。なぜ誤りなのか、次にご説明します。
ただの「風邪」には抗菌薬を使っちゃダメ!?
風邪は最初にお話ししたように、「風邪ウイルス」が主な原因です。風邪ウイルス、とっても小さいくせに感染すると数日間は苦しめられる何とも厄介な微生物です。風邪を引いてしまったら、どうやってウイルスを排除するのでしょうか。
ここで頼りたくなるのが薬の存在ですが、残念ながら風邪の原因となるウイルスに効果があるお薬は今のところありません。(インフルエンザウイルスは例外で治療薬が存在します。)自分の免疫力で治るのを待つしかありません。抗菌薬は“抗「菌」薬”なので「細菌」を殺す薬です。なので、もちろん抗菌薬はウイルスには全く効かないのです。したがって、風邪のときに抗菌薬は不要です。
でも、抗菌薬を病院でもらって飲んだら風邪が良くなるけど?と思うかもしれません。これは実は錯覚です。風邪をひくと、数日以内に症状が強くなり、その症状が強い時に病院を受診する人が多いと思います。この時に抗菌薬をもらって飲みますね。風邪はだんだん勝手に良くなります。すると・・・まるで風邪が抗菌薬で良くなっているように見えますね!なので、風邪をひいて抗菌薬を飲むとすごく効く!という錯覚に陥るわけです。実は、抗菌薬をもらってももらわなくても、自然に治っていたにも関わらず・・・。一度成功体験があると、人はそれを繰り返すのが自然です。なので、次も抗菌薬が欲しくなって・・・ということになりかねないのです。
結果的に風邪が治るのならば抗菌薬も念のため飲んだって良いじゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、風邪で抗菌薬を服用することはご法度なのです。
図引用:「AMR臨床リファレンスセンター」
風邪で抗菌薬をのむのをやめよう
なぜ、抗菌薬は服用しないほうが良いのでしょうか。理由は、大きく分けて4つあります。
1つ目は、耐性菌の問題です。
抗菌薬をむやみに服用すると、使用した抗菌薬に打ち勝つ強い菌(薬剤耐性菌)が生まれやすくなってしまうことが知られています。その人が仮に本当に抗菌薬が必要な疾患にかかった時に使える薬の選択肢が減ってしまう可能性があるのです。
2つ目は、費用の問題です。
要らない抗菌薬を、お金を払ってまで処方してもらうのは何とももったいないと思います。また病院で処方される抗菌薬の飲み薬は、中には飲んでも吸収されずに大部分が便として出てきてしまうものも多くあります(なぜそんな薬が売られているのでしょうか…)。このように吸収が悪い薬剤は、本来は注射薬として直接血管の中に入れないといけないのですが、飲み薬として世に流通してしまっているのが現状です。当センターでは、ウイルスが原因の風邪に対しては不必要な抗菌薬の処方が行われないよう、感染症専門医や薬剤師による対策も講じられています。
3つ目は、副作用の問題です。
抗菌薬を飲むと、腸内細菌がダメージを受けて下痢が起きやすくなったり、初めて飲む薬ではアレルギー反応が起ったりする可能性などもあります。
4つ目は、実は風邪だと思っていたが、風邪ではなかった場合、診断が遅れてしまう可能性があることです。
風邪のような症状で、実は細菌感染症であることもあります。細菌感染症は、培養検査で原因となる菌を捕まえることが治療をする上で非常に大事になります。しかし、風邪だということで抗菌薬を内服してしまい、後から見た医師が「これは違う!」となっていざ培養検査を出そうとしても、すでに抗菌薬を飲んでいるので、検査が偽陰性(嘘の陰性)になってしまい、診断や治療が難しくなってしまうことにつながってしまうのです。抗菌薬を飲まなかったら適切な診断や治療ができていたのに…。
つまり『風邪に抗菌薬を使う』ということは、自然に治癒する病気に対して、効かないもの(=抗菌薬)を長い待ち時間を費やし、お金を払って手に入れて、副作用を起こすかもしれなくて、しかも実は風邪じゃなかった時に何の病気だかわからなくなり、なんと最終的にいざ使いたい時には効かなくなっている、という状況を自ら作り出しているという、なんとも言えない残酷な物語が完成するのです。ですので、これをお読みいただいた皆さん、今後風邪をひいたときに「そういえば、前に風邪でもらった抗菌薬があった!」と思い出しても、むやみに飲まないようにしてくださいね。
風邪をひかないためには、やはり日頃からの予防も重要だと思います。当センター薬剤室のスタッフも手洗い、マスク、うがいの励行を心がけています。よく食べよく寝てよく動き免疫力をつけ、そして予防をして風邪から体を守りましょう!風邪かな?と思ったときにはマスクをして感染の拡大予防に努めることも大切ですね。また、風邪にみえて怖い病気が隠れていることもあります。熱が長引いた時や、持病があり具合の悪い方など、判断が難しく心配な場合には「抗菌薬を飲む前に」病院の受診も検討してくださいね。
文責:薬剤師 島岡 藍・・・・・・.
監修:感染症内科 医長 織田 錬太郎