日本における小児の食物アレルギー患者さんは近年増加傾向にあり、2015年までの報告で乳児期の5-10%、3歳の時点で10%弱に認められると言われています。簡単に計算すると3歳前後までのお子さんの10人に1人は食物アレルギーがあるということになりますが、年齢が大きくなるとともに食べられるお子さんが多くなることもわかっており、小学生から高校生までの食物アレルギー患者さんは2%程度と言われています。
<それって本当に食物アレルギー?>
そもそも、食物アレルギーとはどのように診断されるのでしょうか。
食物アレルギーと思いがちな症状が出ても以下のような場合には本当の食物アレルギーではないこともあります。
・実際には食物アレルギーではないかもしれないケース
①「卵おじやを食べさせたら口の周りが赤くなった」
②「牛乳を飲ませたら下痢をした」
③「少し前に買ったサバを食べさせたら蕁麻疹が出た」
①は接触性皮膚炎(かぶれ)、②は乳糖不耐症、③は魚に起因するヒスタミン中毒などの可能性があり、実際には食物アレルギーでない場合があります。または「離乳食を始める前に念のため行った血液検査でIgE値が高かったため、その食べ物を除去し始め、そのまま評価することなく除去し続けている」というお子さんも少なからずお見かけします。これらの方々の中には実際には摂取可能で食物アレルギーではない場合も多く含まれており、本当に食物アレルギーかどうかは以下で述べるような詳しい検査をして確実な診断が必要だと考えます。
・本当の食物アレルギーが疑わしいケース
ではどのようなエピソードは食物アレルギーの可能性が高いのでしょうか。
④「初めてソバを食べたら10分後に体に蕁麻疹が出た」
⑤「半熟オムライスを食べたら直後にゼイゼイして、15分後に嘔吐した」
⑥「普段は小麦製品で症状が出ないが、風邪薬を飲んでいるときにうどんを食べてマラソンをしたら15分後に全身の蕁麻疹が出て咳込み始めた」
これらの場合、④は初回のソバ摂取による即時型アレルギー反応、⑤は加熱不十分な卵摂取によるアナフィラキシー(急激で重いアレルギー症状を起こすこと)、⑥は小麦による食物依存性運動誘発アナフィラキシーなどが考えられ、食物アレルギーが否かを正確に診断するための詳しい検査が必要となります。
<食物アレルギーの正しい診断方法 -特定の食べ物がアレルギー症状や免疫反応を引き起こすか?->
①特定の食物を摂取することにより症状が引き起こされること
②それが特異的IgE抗体など免疫学的機序を介する可能性があること
この2点が診断方法ですが、食物を摂取するためには実際に食べてみる負荷試験が必要になります。
当センターでは毎週金曜日(夏・冬休みは木曜日も)に1日3名ずつ食物負荷試験を行っています。主な目的は診断確定というよりも摂取できるかどうか安全な状況で確認するということになりますが、小さい子では9-10ヶ月から大きい子では中学生まで様々です。負荷する食材はある程度の基準はありますが、卵かけご飯やプリンが食べたいというご本人の希望に沿える内容で行う場合もあります。
<食物負荷試験とは -食物アレルギーが疑わしい食べ物を少量から食べてみる検査->
食物負荷試験は、実際に疑わしい食べ物を食べてみるという検査です。具体的には、疑わしい食べ物を少量から3回程度に分けて30分程度の間隔をあけて食べるという方法が多いです。ここで注意する点は、もともとのアトピー性皮膚炎や気管支喘息がきちんとコンロトールされているということです。コントロール不良な状態で食物負荷試験を行うと、負荷試験で起こった症状なのか区別がつかなかったり、本来であれば症状が出ない量でも症状が誘発されてしまうことがあるからです。
<食物アレルギーと診断されたら –東京ベイでは小児アレルギーの専門家が治療をサポートします ->
写真提供:一般社団法人エーエルサイン(http://www.alsign.org/)
負荷試験や実際の症状などから食物アレルギーの診断が確定した後、完全除去が必要になる場合と、少量ずつ食べていく場合があります。完全除去の場合は誤食をしないよう注意をすることが必要ですが、本人が周囲の人々に上手く伝えられない場合には上記のカードを服や持ち物などにつけておけば誤食を予防することができます。
少量ずつ食べていく場合、摂取可能な最大量を摂取し続けることが、やがて摂取でき得る量を増やすことにつながるとされていますが、飽きてしまうなど継続していく際には様々な問題があります。食物アレルギーに限らず、アレルギーのあるお子さんには日々の生活にアレルギー対応が必要であり、このような困りごとのお役に立てる小児アレルギーエデュケーター(pediatric allergy educator, PAE)という資格があります。当センターにもまもなく小児アレルギーエデュケーターが誕生する予定ですので、アレルギー診療が益々充実したものとなると期待しております。
食事は本来楽しいものであり家族や友人との団らんの場でもあるはずです。その中で食物アレルギーのあるお子さんが孤立してしまわないよう、また食事を作り食べさせていくご家族の負担にならないよう続けられることが最も大事です。患児のご家族からのレシピのご相談も含め、ご家庭で美味しく楽しい食卓を囲むために何らかのお手伝いできることがあるかと思いますので、お困りの際にはぜひ小児アレルギーの専門家にご相談下さい。