「おちんちんの玉が突然痛くなった!」...急性陰嚢症(きゅうせいいんのうしょう)の多くの方が、この訴えのために救急外来を受診されることになります。急性陰嚢症とは陰嚢が急に痛み、腫れる病気の総称で、精巣捻転症・精巣垂捻転症・精巣上体炎などの病気によって引き起こされます。これからそれぞれの病気について解説をします。
精巣捻転症とは?
精巣捻転症(せいそうねんてんしょう)は読んで字の如く、精巣が急に自然にねじれてしまう病気です。急性陰嚢症のうち約30%を占めます。症状は、陰嚢の痛み・腫れだけでなく、腹痛・鼠径部痛・嘔吐などの症状が出ることもあります。当初はお腹の病気が疑われて受診したものの、念のためパンツを下ろして陰嚢を確認してみたら、陰嚢が腫れていて精巣捻転症に気づかれたということもあります。年齢は、12~18歳の思春期に多く発症します。思春期に多い理由は男性ホルモン(アンドロゲン)の分泌が思春期に増加することで、精巣が急激に大きくなるため、この時期に精巣捻転症を起こしやすくなると言われています。
急に陰嚢が腫れて痛みがある場合は、急いで小児外科もしくは泌尿器科のある救急病院を受診してください。精巣がねじれたまま8時間以上放置してしまうと、精巣の機能を回復できない、つまり、片方の精巣をとらないといけなくなる可能性があります。精巣捻転症は夜間・明け方に発症することが多いため、夜間救急外来しか開いていない場合が多くあります。その際は、まずお近くの救急病院を受診してください。
精巣垂捻転症・精巣上体垂捻転症とは?
精巣垂(せいそうすい)・精巣上体垂(せいそうじょうたいすい)は精巣付属器とも呼ばれ、精巣垂捻転症・精巣上体垂捻転症は精巣付属器捻転症とも呼ばれます。この病気はあまり知られていませんが、急性陰嚢症の中で約30%程度を占める病気です。症状は、精巣捻転症と同じく、急に陰嚢が腫れて痛みを伴います。ねじれた精巣垂・精巣上体垂が皮膚を通して青く見えることがあるため、その特徴をBlue dot sign(ブルー・ドット・サイン)と医学的には呼んでいます。年齢は、精巣捻転症と比較すると少し低年齢で発症することが多く、思春期前の8~11歳頃の急性陰嚢症は精巣垂捻転症・精巣上体垂捻転症であることが多いです。精巣垂捻転症・精巣上体垂捻転症と診断が確定できれば、手術をせずに経過をみることが可能です。しかし、熟練の小児外科医でもその二つの病気を見分けるのが難しいことがあります。
精巣上体炎とは?
精巣上体炎(せいそうじょうたいえん)は、何らかの風邪症状やおたふくかぜなどの後に、陰嚢が腫れてきた場合に疑われる病気です。また、発熱や尿路感染症(尿のバイ菌による感染症)に伴って発症することが多いです。精巣上体炎は両側の陰嚢が腫れることも多く、その点が他の病気と見極める際に重要となります。
どのように診断しますか?
急性陰嚢症の診断は、診察と超音波検査(エコー)で行います。診察では挙睾筋反射(きょこうきんはんしゃ)をみます。挙睾筋反射とは、足の太ももの内側を触ると自然に精巣があがる生理的な反射のことで、精巣捻転症ではその反射がなくなります。精巣捻転症の約90%で挙睾筋反射がなくなると言われており、とても重要な診察法といえます。
超音波検査は、急性陰嚢症の診断の決め手となります。精巣への血流が減少しているかどうかで精巣捻転症の有無を検討できます。また精巣の周囲に腫瘤がある場合は、精巣垂捻転・精巣上体垂捻転が疑われます。一方で精巣上体炎では、精巣の周りに水がたまっていることが多く、精巣上体の炎症により、精巣への血流は増加しています。
治療について
少しでも精巣捻転症が疑われる場合は、試験切開の意味を含めて緊急手術を行って精巣の状態を確認する必要があります。捻転している場合は、捻転を解除して精巣の色調が良くなれば、精巣を温存します。精巣の捻転を解除しても精巣の色調が改善されなければ、精巣を摘出し、反対側の精巣を温存します。精巣の温存とは、再びねじれないように、精巣を陰嚢内に糸で固定することです。
精巣垂捻転・精巣上体垂捻転症であった場合は、捻転した精巣垂もしくは精巣上体垂を摘出します。その後に陰嚢内に精巣を糸で固定します。
精巣上体炎が疑わしい場合は、痛み止めのみで経過観察することが可能です。
当センターでの急性陰嚢症について
当センターでは日中・夜間を問わず、急に精巣が痛くなった患者さんを受け入れております。夜間・休日の時間帯では救急科医師が初期対応を行い、小児外科医師がその後の診察および治療方針を決定します。もし急にお子さんの精巣や陰嚢が痛くなった場合には、当センターにご連絡ください。