こんにちは。東京ベイの小児外科です。
外来でお話を伺うと、男の子の泌尿器系の病気に対しては、異性としてハードルを感じるお母さん方が多く、とくに、男のお子さんがひとりの場合は身近な比較対象がなくて困るようです。そして、同性であるお父さん方にとっては、ご自分たちの小さい頃を思い出して比べることは意外と難しいようです。
今回は、そんな男の子の泌尿器系の病気についてお話ししたいと思います。
男の子の泌尿器疾患とは
男の子の「泌尿器系の病気」といえば、精巣(いわゆる「タマ」です)、陰嚢(精巣をいれているふくろ)、陰茎(おちんちん)に関するものとなりますが、どんな病気が思い当たりますか?それぞれについて順に取り上げていきましょう。
1.精巣のこと
●精巣が陰嚢のなかに入っていない…停留精巣、移動性精巣
健診などで精巣の位置が高いことを指摘されても、ふだん陰嚢のなかに入っているのかいないのかがよく分からない、と言われることがあります。お子さんが緊張していたり、寒かったりすると、精巣は陰嚢の付け根から下腹部にもぐり込みやすくなってしまうため、お風呂で温まったあとなどのリラックスしているときに観察してみましょう。
まずは陰嚢の見た目がふっくらしているか(→入っていそう)、縮こまって平らに近いかんじになっているか(→入っていなさそう)。次にそっと触ってみて、精巣が実際に陰嚢内に確認できるかどうか。精巣が触れにくい場合、放置すると精巣の発育に影響する可能性があり要注意ですので、ぜひご相談ください。
治療の詳細については、以前の掲載記事もご参照ください。
参考記事「停留精巣と移動性精巣 ~ご自分のお子さんのおちんちんをしっかりと見たことはありますか??~」
https://tokyobay-mc.jp/pediatric_surgery_blog/web04_04_02/
●突然精巣のあたりを痛がるようになった…精巣捻転
精巣につながっている血管が突然ねじれて、精巣への血液の流れが遮断されてしまうことがあります。痛みを我慢していると、だんだん痛みが強くなってきて、陰嚢が赤く腫れて歩きづらくなってきます。
精巣への血液の流れが遮断された時間が長くなればなるほど精巣へのダメージが大きくなり、精巣が真っ黒に腐ってしまう可能性もあるため、緊急手術を行い血管のねじれを戻してあげる必要があります。疑わしいと思ったら迷わずすぐに小児外科のある病院を受診されてください(もし精巣捻転であれば数時間以内の手術が必要です)。
詳細については、以前の掲載記事もご参照ください。
参考記事「~お子さんのおちんちんの玉が突然痛くなったら~ 小児外科からみた精巣捻転症のリスク」
https://tokyobay-mc.jp/pediatric_surgery_blog/web07_21/
●精巣が硬く腫れているが痛みはない…精巣腫瘍
精巣の大きさは必ずしも左右対称ではありませんが、片方の精巣が反対側の精巣に比べて明らかに大きくなっている場合、精巣腫瘍の可能性があり、要注意です。硬く腫れて大きくなっていても、触られても痛がらないことがあります。
気になる左右差があるときは、念のため受診をして、超音波検査で腫れている原因を調べましょう。腫瘍が疑われる場合はさらに詳しい検査をして、手術を検討しなければなりません。
2.陰嚢のこと
●陰嚢が腫れている…陰嚢水腫
陰嚢の中に水が溜まって水風船のように膨らんだ状態です。片側もしくは両側の陰嚢全体が大きく腫れていることもありますが、精巣とは別に第3のタマのように陰嚢内にもうひとつふくらみを触れることもあります。弾力のあるやわらかさで、触れられても痛がらないことがほとんどです。腫れている大きさは1日中変わらないこともあれば、朝と夜では大きさが違うこともあります。また、ある日突然腫れが出現することがあります。
痛みはなくても、念のため受診をして、超音波検査で腫れている原因を調べましょう。陰嚢水腫であれば通常緊急性はありませんが、しばらく様子をみても腫れが変わらない場合には手術を検討します。手術は鼡径ヘルニアと同じ方法で行います。
●陰嚢の表面に血管が浮き出ている…精巣静脈瘤
思春期以降の男の子で、陰嚢の付け根付近で表面に血管(静脈)が浮き出てもこもこと隆起して見えるようになることがあります。この隆起は腹圧をかけたときにさらに大きくなり、また、ときに痛みを伴うことがあります。隆起が大きくなると、ときに精巣の大きさに左右差を生じたり、将来不妊の原因になったりすることがあるため、要注意です。気になる場合には、受診してご相談ください。
3.陰茎のこと
●おちんちんの皮がむけない…包茎
●皮の先が赤く腫れて痛む…包皮炎
通常、思春期前の男の子が包茎の状態でおちんちんの皮(包皮といいます)の先端がきつくてむけなくても、必ずしも病的なものではありません。ただし、包皮の先端に炎症を起こして、赤く腫れて痛くなることを繰り返していると、包皮が硬くなってむけにくくなってしまうことがあります。また、包茎のために炎症をおこしやすいお子さんもいますので、包皮炎を繰り返す場合にはご相談ください。
包皮炎自体は、包皮の先端がすこし赤くなる程度のものから、膿が出るものや、陰茎全体がむくんで腫れてしまうものまでさまざまです。腫れがひどいときは尿が出にくくなることもありますので、要注意です。早めに受診をしましょう。
●皮をむいたあと戻らなくなり腫れて痛い…嵌頓包茎(カントン包茎)
包皮をむいたあとそのまま戻さずにいると、包皮先端のまだきつい部分で陰茎が締め付けられるかたちになり、包皮がむくんで腫れてきてさらに戻りにくくなったり、露出されている亀頭の色が悪くなってきたりします。とくに、いままでむけなかったのが急にするっとむけたときは、むくんでいなくても戻しにくいことが多いので要注意です。痛みも強いので、むけたまま戻せなくなってしまったときには早めに受診をして、包皮を戻してもらう必要があります。また、嵌頓を起こした場合は、むくみが引いたあとの状態を確認した上で、包茎に対する手術を行う必要があるかどうか検討します。
●尿の出口の横にみずぶくれのようなものがある…外尿道口嚢腫
包皮がむけるようになってきたときに、尿の出口(外尿道口といいます)のすぐ横に直径数mmの小さなみずぶくれのようなしこりができていることに気付かれることがあります。痛みはなく、排尿の妨げにもならないため緊急性はないのですが、自然にはなくならないので切除を検討します。気になる場合には、受診してご相談ください。
●尿の出口が亀頭にあいていない…尿道下裂
外尿道口が亀頭ではなく、陰茎の途中や付け根にあいていることがあります。新生児は包茎であるのがふつうなので、通常外尿道口は観察しにくい状態なのですが、尿道下裂のお子さんは亀頭が露出されていることが多く、外尿道口の位置の異常に気付かれやすいです。また、陰茎そのものがおじぎするように前屈みになっていることも多いです。外尿道口を亀頭につくりなおし、陰茎をまっすぐにのばすための手術が必要となりますが、こちらはかなり専門的で高度な技術が必要なものです。
4.緊急性があり、とくに受診を急ぐものは
今回ご紹介した男の子の泌尿器系の病気のなかでは、
- 精巣捻転を疑うような強い痛みが続いている
- 包皮炎の腫れと痛みが強くて排尿ができない
- 嵌頓包茎でむいた包皮を元に戻すことができない
などの場合には、早急に受診をしましょう。

以上、精巣、陰嚢、陰茎にみられる、男の子の主な泌尿器系の病気についてお話ししました。緊急性があるものは早急に受診することをお勧めしますが、緊急性のないものであっても、気になる場合には一度受診をしてぜひご相談ください。