「最初はお臍の周りが痛かったけど、段々右下の方が痛くなって・・・」
というのが急性虫垂炎(世間では盲腸と呼ばれる)の典型的な痛みの訴えであります。
“盲腸”という俗称があるくらい急性虫垂炎は非常に有名な病気でありながら、様々な症状を呈すること・他の病気と比べて手術の合併症率が高いことから、小児外科の病気としては問題点が多い病気とも言えます。
そこで、今回急性虫垂炎に関しての当センターでの受診から退院までの内容をご説明します。
どんな症状だと急性虫垂炎が疑われるのでしょうか??
嘔吐・吐き気
嘔吐・下痢による消化液の喪失により、脱水や身体の中の電解質異常を呈することがあります。
胃腸炎と診断されていて経過をみていたところ、症状が悪化し、急性虫垂炎に至る率は約40%(急性虫垂炎の発症形式の中で)と高率であります。
腹痛
上記のように急性虫垂炎の腹痛は当初はお臍の周り(臍周囲)やみぞおち(心窩部)の痛みから、半日くらいすると痛みの部位が右下腹部に移動してくるというのが特徴的です。
もちろん、最初から右下腹部が痛むこともあります。
また、右下腹部の痛みの場所はマックバーネー点(臍と右側の腰骨とを結んだ線の外側1/3)に限局することが多いです。
また腹部を手で押した時の痛みよりも、手を離した時の痛みの方が強いことを反跳痛と呼んでおります。
反跳痛が陽性の場合はその部位のお腹の壁に炎症が及んでいることを意味し、腹膜炎が存在しているといえます。
発熱
虫垂炎の患者さんの多くが発熱を伴って受診します。
発熱がない場合は虫垂炎が軽度である、もしくは他の病気である可能性が高いと考えられます。
下痢・便秘
子供の虫垂炎では胃腸炎の症状から発症してくる場合も多いため、初回の診察時に下痢症状があるお子さんも多いです。
また、便秘症状が続き便秘による腹痛ということで虫垂炎の診断が遅れることも頻繁にあります。
急性虫垂炎にはどういう診断方法があるでしょうか??
腹部診察
腹部のどの場所をどの程度痛がっているかというのが急性虫垂炎を診断するにあたり、大きな情報源となります。
先ほど記載したマックバーネー点(臍と右側の腰骨とを結んだ線の外側1/3)という場所を押して痛みがあるかというのが、虫垂炎を疑う際の手がかりとなります。
また反跳痛が存在するかどうかも重要な情報となります。
腹部エコー
エコーは子供にとって被爆の影響がなく、痛みもなく、安全な検査であります。
大人と比較し、子供は脂肪が少ないためエコー検査により、良い画像を得やすい傾向にあります。
しかし、痛みの強い乳幼児は痛みにより身体を動かしてしまうことから検査自体が難しいこともあります。
腹部CT
エコーと比較して、脂肪の影響や身体の動きによる悪影響が少なく、1回の検査による情報量が多い検査であります。
但し、頻回な腹部CT撮影は被爆による悪影響を考慮して撮影を判断させてもらっております。
上記2つの画像診断にて虫垂(下図参照)が6mm以上に太くなっていることを虫垂腫大と定義しており、腹痛などの他の症状を伴えば虫垂炎と判断致します。
また、虫垂の中に便の塊である糞石を伴っている場合は虫垂が破れるリスクが高く、手術をしない抗生剤の治療だけでは再発する率が高いため、手術が必要な虫垂炎と考えられます。
また、虫垂の周りに糞石がある場合は既に虫垂が破れている可能性が高いといえます。
血液データ
虫垂炎では血液の中の炎症反応が高くなるため、虫垂炎の重症度を判断する基準として頻用されております。
白血球(血液データの結果表ではWBCと記載されているもの)とCRP(炎症反応のマーカー)であります。
急性虫垂炎の治療法はどうなるのでしょうか??
急性虫垂炎の治療パターンは3つあります。
1.緊急に手術を行う場合
痛みが強く、発熱が続いている状態のお子さんは、虫垂炎が非常に進んでおり、緊急に手術が必要と考えられます。
2.抗生剤による治療を行う場合
発熱などがなく、症状が比較的軽い場合は手術ではなく、抗生剤により治療が可能なケースが多いです。
この抗生剤による治療を医学的には保存的治療と呼んでおります。
俗にいう抗生剤で散らすと表現されるものです。
しかし、虫垂炎の状態にもよりますが保存的治療の後の虫垂炎の再発率は約30%と言われており、保存的治療により症状が改善した後も再発症状に注意していく必要があります。
3.抗生剤によって治療を行なった後に、待機的に手術を行う場合
上記のように保存的治療を行なって症状を改善させた際は症状が落ち着いたら一度退院となります。
しかし、再発症状が懸念されるためにお子さんの行事予定やご家族のご都合に合わせて、予定手術として虫垂炎の手術及び入院を予約させて頂く場合があります。
当センターでは上記の3つの治療法に関してお子さんの状態により、ご家族と相談しながら一人一人のお子さんに最適な治療方針を決定いたします。
急性虫垂炎に対してどのような手術を行うのでしょうか??
腹腔鏡下虫垂切除術
当センターではお腹にカメラを入れて虫垂を切除する腹腔鏡下虫垂切除術にてお子さんの手術を行わせて頂きます。
お腹の中の炎症が比較的軽い場合はお臍のみの傷で虫垂を摘出する単孔式腹腔鏡下虫垂切除術にて手術を行わせて頂いております。
虫垂炎が重度の場合はお腹の中の膿を外に出してあげる必要があるため、ドレーンという管を入れさせて頂きます。
また、膿(うみ)の溜まりをお腹の中に作っている場合は虫垂の周りに腸(小腸・大腸)やお腹の脂肪(大網)がくっついている状態となるため、通常の3つの傷で行う腹腔鏡下虫垂切除術を選択させて頂いております。
手術時間は重症度にもよりますが、1−2時間であります。
術後〜退院までの流れはどうでしょうか??
お腹の動きが改善したことの判断基準として術後におならが出てから水分や食事を開始させて頂いておりますので、お子さんによって、虫垂炎の重症度によって入院期間は異なります。
通常、入院期間は5日〜10日前後で退院を迎えております。
腹腔鏡による手術は創部の痛みが軽度であり、創部感染の発生率の低さから、以前の開腹術と比較し大きなメリットがある治療法であります。
最後に、小児の虫垂炎は大人と比較し、虫垂が破れるまでの時間が早いと言われております。
症状が出てから24時間以上経った場合の虫垂の破れている率(穿孔率)は約30−40%という報告もあります。
穿孔している虫垂炎は手術後に膿がお腹の中に残ってしまう率も軽症の虫垂炎と比較して高率となります。
お子さんに腹痛・嘔吐・下痢などがある際は早めの病院での受診をお勧め致します。
文責:小児外科部長 末吉 亮
【参考記事:停留精巣と移動性精巣】
https://tokyobay-mc.jp/pediatric_surgery_blog/web04_04_02/