「うちの子のおちんちんの玉がはっきりわからない」
この言葉が、停留精巣もしくは移動性精巣に関して診察時にご家族様より良く頂く訴えです。
しかし、多くのご家族はおちんちんの玉をよく見ることは少なく、健診等で指摘を受け受診されるケースがほとんどです。
おちんちんの玉(睾丸)は子孫繁栄のため、かけがえのないお子様の大事な臓器でありますので今回は停留精巣・移動性精巣のことに関してお話ししたいと思います。
1. 停留精巣と移動性精巣の違い
精巣はお子様がお母様のお腹の中にいる胎児期に徐々に陰嚢に降りてくる臓器です。
妊娠初期は腎臓の下に存在しますが、、妊娠後期(30週前後)には陰嚢内に下降してきます。
そして、妊娠35週頃には陰嚢の下に精巣が固定されるのが通常の発達段階です。
しかし、この精巣の下降が自然に停まってしまう症状が停留精巣です。
停留精巣は3ヶ月・6ヶ月・1歳健診で停留精巣が疑われ、近医小児科よりご紹介頂いて受診されるケースがほとんどです。
また精巣の下降は生まれた後にも起こります。生後3−6ヶ月程度までは精巣の自然下降が望める時期で、生まれてすぐには精巣が陰嚢内に存在しないお子さんでも自然下降することもあります。
しかし生後6ヶ月以降に陰嚢内に精巣が降りていないお子様は、停留精巣が改善されない可能性が高いと言えます。
一方で精巣の下降は正常であったものの、妊娠後期の精巣の陰嚢への固定が不良なため引き起こされる異常が移動性精巣です。
太ももを触ると生理的な反射で精巣は陰嚢の上の方まで挙上し、同様に冷たいものにふれる時も 精巣は陰嚢の上まで挙がる現象を挙睾筋反射と呼ばれていますが、この挙睾筋反射が過剰となってしまうことも移動性精巣の一つの原因と言われております。
2. どのようなリスクがありますか?
停留精巣は精巣が陰嚢内に存在しないため、精巣の温度が陰嚢内(33−34度)と比較し1-2度高くなるため、精巣の精子をつくる機能が1歳以降から低下し始めると言われています。
また、精巣腫瘍になるリスクが5-10倍高くなるとも言われておりますので、停留精巣は放置してはいけない病気と考えられます。
一方で、移動性精巣は精巣が下降しているため、悪性化の報告はきわめて少なく、悪性化のリスクは正常精巣と変わりません。
しかし、移動性精巣は精巣が固定されていないため、精巣捻転のリスクが高まっています。
精巣捻転を6-8時間以上放置してしまうと精巣が壊死(腐る)してしまうと言われております。
このため、精巣捻転が疑われる際(精巣の痛みや陰嚢が赤黒くなる時)は早急に病院を受診し、医師の指示を仰いでください。
3. 手術は必要でしょうか?
停留精巣は、精巣の機能温存の為に早期に手術が必要な病気です。
小児泌尿器科学会で作成されました停留精巣の診療ガイドラインでは、1歳−2歳の手術が推奨されております。
近年、海外からの報告では精巣の機能温存を考慮して6−12ヶ月の手術時期が適切とも言われております。
一方で移動性精巣に関しては、手術適応に関して一律な基準は規定されておらず施設によって手術適応が異なる状況です。
挙上精巣といって乳幼児期は精巣が下降していたにも関わらず、精巣が年齢と共に徐々に挙上し、精巣を挙上させる筋肉が発達する5歳頃から停留精巣の状態となる場合があります。
移動性精巣を放置していると2-45%の割合でこの挙上精巣となると言われており、一般的には2歳以降で移動性精巣があるお子様には手術を念頭に外来で手術を検討させて頂いております。
また、移動性精巣のお子さんで精巣が下降している時間が少なく、陰嚢が小さい方に関しては精巣の発達を考慮して手術をお勧めさせて頂いております。
4. 術後はどうすれば良いですか?
停留精巣や移動性精巣について、当センターでは入院期間2泊3日で治療を行なっております。
退院後1週間で外来に来て頂き、術後チェックを行います。
陰部は比較的雑菌が繁殖しやすいため、傷の感染が起こり易い状況があります。
また術後の合併症として精巣が再度挙上してしまうことや、精巣が小さくなってしまうこともあるため定期的(半年に1回程度)に受診して頂いて、精巣の位置・サイズを触診・超音波検査で確認を行っております。
実際には停留精巣のお子様では思春期の時期まで精巣の発達を外来で観察をさせて頂いております。
東京ベイ浦安市川医療センター小児外科では年間約100例の停留精巣もしくは移動性精巣の手術を行なっておりますので、お子様のおちんちんの袋を見て何か変だなと感じられました際には是非お気軽にご相談ください。
文責:小児外科部長 末吉 亮