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ソケイヘルニアとは?
鼠径へルニア(ソケイヘルニア)という病気を聞いたことがありますか?
聞いたことが無い方は、脱腸という言葉は聞いたことがありますか?
ソケイヘルニアは足の付け根(ソケイ部)が腫れる病気であり、小児外科で手術する病気の中で最も頻度の多い病気であります。
頻度は約20人に1人のお子さんに起こり、生まれた時の体重が少ないお子さん、早産で生まれたお子さんはさらに発生率が上がります。
男の子に発症する頻度が女の子と比較し、約2-3倍多いです。
ソケイヘルニアの原因は?
大人のソケイヘルニアは後天的に起こりますが、子供のソケイヘルニアは先天的にソケイ部の腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)と呼ばれる部分が開いたままになってしまった為に、足の付け根(ソケイ部)が腫れます。
男の子では腸管、女の子では腸管・卵巣・卵管などが出っ張ってしまったために引き起こされます。
腹膜鞘状突起とは何かというと、子供が生まれてくるまでに男の子では精巣がお腹の中(腎臓の下)からおちんちんの袋(陰嚢)まで降りてくるルートとなる管状の構造物であり、お腹全体を覆っている腹膜から一続きに繋がった膜であります。
女の子では精巣の下降自体はないのですが、腹膜鞘状突起は男の子と同様に認めます。
通常は生まれるまでの発生段階(精巣が陰嚢まで下降した後)でこの膜が自然に閉じるのですが、ソケイヘルニアのお子さんはこの膜が開いたままになっております。
これがソケイヘルニアの原因と言われています。
自然に治るのか?
外来ではご家族から自然に治らないのですか?と質問されます。
この質問に対する答えは「自然に治ることもあります。」が正しいです。
しかし生後数ヶ月で発症したソケイヘルニアは自然に治ることがありますが、生後6ヶ月以降に症状がでた、もしくは6ヶ月以降までソケイ部が腫れているお子さんが自然に治ることは非常に稀であります。
経過を診ていると徐々にソケイ部の出っ張りが大きくなってきましたというお子さんがほとんどであります。
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どういう時に病院を受診すればよいか?
ソケイヘルニアのお子さんで病院を受診しないといけない状態はソケイヘルニアの嵌頓(かんとん)を起こした時です。
嵌頓(かんとん)とはお腹の中からみると穴となっているソケイヘルニアの門に腸や卵巣がはまり込んだまま、お腹の中に戻らなくなってしまった状態です。
そのまま放置してしまうと腸が腐って、腸を切除する緊急手術が必要となる可能性もあります。
また卵巣の嵌頓では卵巣の機能が落ちてしまうこともあります。
• 不機嫌に泣き続ける
• 何回も吐いてしまう
• ソケイ部が赤黒く腫れて堅くなっている
上記の症状がある場合は、ヘルニア嵌頓となっている可能性があるため、腫れているソケイ部を押してお腹の中にはまりこんだものが戻るかどうか試してみて下さい。
そして、戻らないようであれば、暖かいタオルをソケイ部にあててお腹の筋肉をリラックスさせてはまり込んだ臓器がお腹の中に戻ることを期待しながら、至急医師の診察を依頼した方がよいです。
どんな治療法があるか?
ソケイヘルニアは手術で治療する病気であります。
現在のところ、飲み薬や点滴で治る病気ではありません。
手術法は従来から行われている①ソケイ部切開法と②腹腔鏡下ソケイヘルニア根治術の2つの方法があります。
① ソケイ部切開法: ソケイ部(足の付け根の部位)を約2cm程度の傷で腹壁の筋肉を切開した後にソケイヘルニアの袋(上記の腹膜鞘状突起の部位)を見つけます。その袋をお腹の中からの臓器が出ないようにソケイ部の根元を糸で縛る方法(高位結紮)であります。すべて吸収される糸で手術を行うため、抜糸の必要はありません。
② 腹腔鏡下ソケイヘルニア根治術(Laparoscopic percutaneous extraperitoneal closure: LPEC 法): 当センターでは臍に3mm、右の側腹部に2mmの計2カ所の傷でお腹の中からヘルニアの穴を観察します。糸をつけた針でソケイヘルニアの袋の裏のスペースを通して、糸がソケイヘルニアの穴の周り360度を包む状態になってから、その糸を体の外から結んでヘルニアの穴を閉じる方法であります。
<LPEC法の長所>
・ 手術創が小さい
・ 症状の無い側のヘルニアの存在がわかるので手術後の反対側発生を予防できる
鼠径部切開法では反対側が手術後同様のソケイヘルニアを呈する確率が5-10%ある
・ 臍ヘルニア(でべそ)がある場合は、同時に臍ヘルニアの手術ができる
<LPEC法の短所>
・ 手術後の悪心、嘔吐の症状がソケイ部切開法と比較して多い
<手術内容>
・ お臍に3mmのカメラが入る穴を作り、二酸化炭素でおなかを膨らましておなかの中を観
察します
・ 右脇腹に2mmの鉗子(マジックハンドのようなもの)が入る穴を作り、その鉗子で鼠径ヘ
ルニアの穴を確認します
・鼠径部(ヘルニアが出ていた部分)から糸をつけた針(写真1)を刺して、おなかの膜の間に針を進めます。針糸がヘルニアの穴の下半分を通過したら、糸のみを残して置いておきます(写真2)。
・そして残りのヘルニアの穴の上半分に針を通して、その針で置いていた糸をつり上げてくることで(写真3)、糸がヘルニアの穴を一周してくることになります(写真4)。そしてその糸をしばることでヘルニアの穴は閉じます(写真5)。
どちらの方法も全身麻酔を行いながら、手術を行っています。
当センターでは患者さんの状況に応じてどちらの方法の手術も行っています。