中高年以降、膝が痛くなって腫れたり、治ったかと思ったらずいぶん経ってからぶり返したり、正座ができない、なんだかO脚になってきた・・。そんな症状に悩む方はとてもたくさんいます。病院に行ってレントゲンを撮ってもらったら「軟骨がすり減っています。痛み止めとシップを出しましょう。ひどくなると手術が必要になるかもしれません。」と言われた方も多いでしょう。

関節の軟骨とは?
関節の骨の表面はしっとりとなめらかで弾力がある軟骨で覆われており、関節が傷つかずにスムーズに動くよう助けています。骨付きの唐揚げの端に、つるりと丸い軟骨が見えますがあんな感じです。人の膝だと厚みは5-7㎜あり、氷同士を滑らせるよりも摩擦が少ないといわれています。いろいろな原因でこれが壊れてくると、困った症状が出てきます。

どうしてすり減るの?
軟骨がいたんでくる原因はいろいろあります。加齢によって水分量やしなやかさが徐々に失われるのはお肌やほかの組織と同様ですが、お年で肌がシワシワになっても関節の軟骨はきれいに保たれている方も少なくないので、それだけではありません。お肌の質が人それぞれなのと同様に遺伝的な質に違いがありますし、これに加えて機械的な刺激、表面が強く押されたりこすられたりし続けることが大きな要因となります。立ち仕事やたくさん歩いたり、重いものを持つなどの労働、激しいスポーツ、体重の増加、昔のケガによる変形、膝周囲の股関節や足関節、足指の問題、背骨の変形などの変形や痛みによって膝の特定の場所に負担が集中することなどです。また、運動不足は重労働とは正反対に思えますが、筋力の低下により膝の支えが不安定になることで関節にアンバランスな負担がかかります。その他に関節の感染や、関節リウマチなどの疾患によって軟骨がいたんでくることもあります。

◎まずどうすればいい?(保存治療=手術によらない治療)
【薬】痛みを和らげる対症療法としては、消炎鎮痛作用のあるシップや塗り薬、内服薬が挙げられます。まだ初期の軽い炎症であれば一定時期使用すると症状は治まります。痛みがなくなったら薬を飲み続ける必要はありません。

ヒアルロン酸の関節注射の役割は潤滑油です。自転車がきしんだら油をさすのに似ています。関節の中を滑らかにし、痛みや炎症が収まるのを助けます。天然の関節液に近く、しばらくすると吸収されてしまいます。しかし変形が進むと効果が出づらくなります。
【痛くなる原因を可能な限り減らす】現在の症状を和らげるのと同時に、将来の悪化を少しでも防止、軽減します。
【安静】痛みがある間はスポーツなどを一時お休みする、長く立ったり歩くことや階段の使用を避け、重い荷物を持たないようにする、正座やかがんでする作業を避ける工夫をします。
【体重管理】
症状の緩和にも、予防にもとても大切です。1㎏体重が増えると、歩く時の膝の負担は2-3㎏増えます。高度肥満でなくとも、短期間に何キロも増えると途端にひざが痛くなる、ということもよく見られます。ただし、絶食だけで減量しようとして筋肉を弱くしてしまうことは逆効果となります。また、特定の物をたくさん食べると軟骨が生えてくるということはありません。バランスの良い食事を心がけましょう。

【筋力強化】
体幹、膝周囲の筋力を強化し、関節を安定させることもとても大切です。一朝一夕には効果が見えませんが、継続することで確実に結果がついてきます。一方鍛えようと無理な運動をしてひざを痛めてしまうことは頑張り屋さんに時々見られます。膝に体重の負担のかからない運動(水中や、座ったり寝てする運動など)にする必要がありますので、スポーツインストラクターや医療機関で指導を受けるようにして下さい。


【負担を減らす道具】
歩きやすい靴を履く、杖やカートを使うことで膝の負担を減らす、必要があれば装具を使用するなどです。

◎手術治療
どんな場合に手術になるのか?
これは何歳になったら、とか軟骨が何ミリ減ったら、曲がる角度が何度になったらと数字で決まるものではありません。ひどく変形してあまり曲がらなくても、それほど困らずに畑仕事もしていて手術はいらない、という方もいれば、変形は軽度でも痛みが強く早めに手術をする方もいます。
画像上の変形がある程度進行し、上記の保存治療をしても症状が残って生活に支障をきたし、ご本人が手術を希望される場合で、かつ手術を妨げるような合併症がない場合に手術を検討します。年齢とともに内科の疾患は増えてきますので、心臓や腎臓が悪い、糖尿病でインスリンを使用している、血液サラサラの薬を飲んでいるといった方は多いですが、病状がある程度コントロールされていれば手術は可能です。そのような場合は主治医の先生との情報のやり取りの上検討します。
どんな手術がありますか?
【骨切り術】
変形が軽度―中等度である程度膝の機能が保たれている場合、変形を戻すように骨(脛骨や大腿骨)に切り込みを入れて矯正することで、膝の内側(時には外側)に集中していた負担を均等にかかるようにし、症状を軽減する手術です。自分の関節が温存されること、曲げ伸ばしの角度が比較的よく保たれること、将来他の手術が必要になっても可能であること、感染した場合の治療が人工関節よりもしやすいことなどが利点です。
一方、術後約2週間は松葉杖または歩行器での荷重制限が必要で、日常生活に戻るまでに人工関節よりは時間がかかります。変形が高度である場合や、骨が弱い場合、関節が固すぎたり不安定な場合、リハビリが難しい方には適応されません。また1年後にプレートを抜く手術が必要です。

【人工膝関節】
変形、変性した膝の両端の骨や周辺組織を切除し、金属とポリエチレンで人工関節に入れ替えます。高度な変形でも対応可能なこと、翌日から体重をかけて歩く練習ができること、関節のこすれる痛みから解放されること、などが利点です。
一方、手術の負担が骨切り術より大きいこと、輸血が必要になる場合もあること(当センターでは片側の場合は輸血をしない場合が多いです)、感染や周囲の骨折が起こった時の治療が長期化する可能性があること、耐久性は15-20年と言われているが個人差がありそれより長い場合、短い場合があることなどです。

【そのほかの手術】
鏡視下デブリードマンー関節鏡で関節内の掃除をすることで痛みや炎症を緩和する手術が一時期多く行われました。効果があっても一時的であり長期的な差はないといわれています。半月板の引っ掛かりなどが痛みの原因の場合は有効な場合もあります。
軟骨再生ー減ってしまった軟骨は通常再生が難しいですが、培養した軟骨を植える、軟骨になりやすい細胞を注入するといった先進医療が少しずつ行われるようになってきました。まだまだ有効なケースが限られること、実施している施設が限定されていることもあり、将来にわたり期待の分野です。