

ヒトの前腕には親指側に太い橈骨、小指側に比較的細い尺骨があります。転倒などで手をついたときには、橈骨の遠位端(一番遠い所、つまり手関節に近い所)で骨折が多くみられます。また尺骨の先端の骨折を合併することもあります。
橈骨遠位端骨折は、すべての年齢層の患者さんにみられます。小児では、男児に多くスポーツ外傷や遊具からの転落などで起こります。特に5歳から13歳くらいに多く、骨端線(小児に存在する成長線)を損傷しやすいことが特徴です。青壮年では交通外傷やスポーツ外傷や労働災害などの高エネルギー外傷で起こります。高齢者では女性に多くみられ、骨粗鬆症との関連が強く低エネルギー外傷で起こります。転倒しただけも骨折してしまうことが特徴です。
いずれの場合も、適切な治療がなされないと後遺症が遺残し日常生活で不自由になることがあるため、初期の治療方針の決定が重要になります。まずはX線検査で骨折の診断を行います。転位(ズレ)があり、粉砕している場合はCT検査を行うこともあります。治療方法はギプス固定、鋼線(医療用の針金)固定、プレート(医療用の金属の板)固定の中から、年齢や骨折の程度に応じて選択することが一般的です。
「小児の橈骨遠位端骨折の治療法」
小児は、骨癒合が成人より早く、リモデリング(変形を矯正する能力)があるため、ギプス固定による保存治療が行われることが多くなります。しかし転位が強い場合や、骨端線が損傷されている場合は、手術治療となる場合があります。当センターでは、治療に際してなるべく患児に苦痛を与えないように配慮しています。痛みを感じないように、麻酔下に徒手整復(手で引っ張って元の位置に戻す)を行い、再度ずれないように皮膚の上から鋼線固定を行っていますので、皮膚には傷跡も目立ちません。骨癒合も早いので、鋼線は皮膚上に出しておき外来で抜去できます。
「青壮年の橈骨遠位端骨折の治療」
高エネルギー外傷で起こることが多いため、粉砕や転位を伴うことが多いです。手は労働やスポーツ、日常生活でも使用する頻度が高いことから後遺症をできるだけ少なくするために手術治療を選択することが多くなります。手術治療の方法は10年くらい前から大きく変化しました。以前は鋼線固定、背側(手の甲側)のプレート固定、創外固定(骨折部を橋渡しするように骨にワイヤを入れ、皮膚の上で固定する装置)を行ったりすることが主流でした。現在では前腕の掌側(手のひら側)に3-4cmの皮膚切開をおき、整復後にチタン製のプレートを当ててスクリューで固定します。関節面の転位が強くみられる場合は関節鏡視下(小さな内視鏡で関節面を観察する)に整復を行っています。また青壮年者では舟状骨に骨折を起こすことも多く注意が必要です。
「高齢者の橈骨遠位端骨折の治療」
骨粗鬆症との関連があり、転倒しただけで骨折してしまうことがあります。高齢者の場合、利き手や内科的疾患、受傷前の活動性などを考慮して治療方法を決定します。最近は活動性の高い高齢者が増えてきていますので、青壮年に準じた治療を行うことも多くなっています。骨粗鬆症が基盤にありますので、橈骨遠位端骨折を治すだけでは不十分で、将来的な骨折予防のために骨密度検査や骨代謝マーカーを測定し、適切な骨粗鬆症治療が必要です。骨粗鬆症をそのままにすると、脊椎椎体骨折や大腿骨近位部骨折を将来的に起こす可能性があります。骨折治癒後に骨粗鬆症薬の処方のみとなった患者さんは近医クリニックに逆紹介することもあります。
「プレートは骨折治癒後に抜去した方が良いでしょうか?」
必ず抜去しないといけないわけではありません。チタン製なのでMRIも撮影可能です。プレートが骨から浮いていたり、整復位が不良であると、数か月から数年後に屈筋腱(指を曲げる腱)がプレートと干渉して断裂することがあります。プレートの形状が、近年薄く丸く改良されてきています。当センターでは骨癒合後に、プレートの状態や腱との摩擦を考慮し、今後起こりうるリスクを説明し抜去するかどうか相談しています。また骨折部が非常に遠位(手関節に近い所)の場合は、早期のプレート抜去を前提としている場合もあります。
「当センターでの治療について」
小児から高齢者まですべての外傷に対応しており、特に小児では早期手術を考慮いたします。入院治療は2-4日、術後鎮痛の為に超音波下に腕神経叢ブロックを行っています。関節内骨折では手関節鏡を用いており、低侵襲手術を目標にしています。術後は作業療法士のリハビリテーションを受けることができます。
イラスト/写真:日本手外科学会 手外科シリーズより