うでの“しびれ”について

私たち医師が日常診療をしていると非常に多くの患者さんが訴える症状の一つに“しびれ”があります。手足の“しびれ”でお悩みの方は多いのではないでしょうか。また、“しびれ”で病院を受診される際には何科を受診されますか?内科?脳神経外科?整形外科?神経内科?初めての方は悩まれるかもしれません。今回はしびれのなかでも上肢のしびれに絞って、整形外科の関与することの多い疾患を中心に取り上げてみたいと思います。

“しびれ”とは

“しびれ”とは自覚的な感覚障害であり、多くは不快なじんじんとした異常感覚を言いますが、人によっては思うように動かなくなる運動麻痺を指すこともあります。私たちはしびれを訴える患者さんを診察するときには主に以下のことに注目します。

  1. 発症様式:交通事故や転倒などのきっかけがなかったかどうか、仕事や日常生活で手を酷使する習慣がないかなどをチェックします。
  2. 経過:急な発症なのか、徐々に強くなってきたものなのかは診断の足しになります。一時的にでも構音障害や片側上下肢の脱力、歩行障害などのエピソードがあった場合は脳血管障害を考えます。
  3. 部位:一側上肢に限局しているのか、両側なのか。肩や肩甲骨から指先までのどの部位の症状なのか、指はどの指なのかに注目します。
  4. 種類:“しびれ”とは感覚低下なのか、感覚過敏なのか、異常感覚であるのか、筋力低下なのかを確認します。
  5. 背景:既往歴を確認します。神経系の疾患や骨・関節系の疾患のほかに、糖尿病や透析などの内分泌疾患や代謝疾患でもしびれを発症することも多く、また、悪性腫瘍が原因となることもありますので既往歴はかならず確認します。

上肢のしびれや痛みの原因となる主な疾患

1. 頚椎変性疾患(けいついへんせいしっかん)
上肢の痛みやしびれの原因として多い疾患です。加齢性変化による骨棘と呼ばれる骨の突出や椎間板の膨隆により神経が圧迫される状態です。
脊髄性と神経根性に分けられ、脊髄の圧迫される脊髄症状では手足のしびれのほかに手指の動きが悪くなる巧緻運動障害や歩行障害も生じます。神経の枝である神経根性の症状は、しびれよりも痛みの訴えが強く、頚部や肩甲骨周囲、一側上肢に限局されることが多いのが特徴です。また、頭部を症状側に傾けると症状が強く誘発される「スパーリングテスト」が診断に役立ちます。

2. 非圧迫性頚椎疾患
脊髄の炎症性疾患や感染性疾患、脊椎腫瘍や脊髄腫瘍などの腫瘍性疾患が含まれます。症状は多彩で、血液検査やX線、MRIなどの各種画像検査が診断のもとになります。

3. 頭蓋内疾患
先天性疾患や腫瘍性疾患もありますが、多くは脳梗塞やくも膜下出血などの脳血管障害で、いずれの脳血管障害でも痛みやしびれを来たす可能性があります。

4. 末梢神経障害
1)絞扼性神経障害
手関節で正中神経が圧迫を受ける『手根管症候群』と、肘関節で尺骨神経が障害される『肘関節症候群』が多い疾患です。『手根管症候群』では正中神経が支配する親指から薬指の中指側までの領域でしびれが生じます。
手関節の掌側をたたくとしびれが放散するtinel(ティネル)徴候が診断に有用で、夜間のしびれを訴えることが多いのも特徴的です。手を酷使する習慣のある方や妊娠や更年期などホルモンバランスの変調をきたす時期の女性、透析を受けている方に多いことも知られています。長く患っていると母指球(親指の付け根の筋肉)が痩せて、ものをつまむことが不自由になります。

一方、『肘部管症候群』は肘関節の内側を通る尺骨神経が障害を受けるので、尺骨神経の支配領域である前腕の尺側(小指側)と薬指の小指側、小指にかけてしびれが生じます。神経を固定している靭帯やガングリオンなどの腫瘤による圧迫、加齢に伴う肘の変形、子供の時の骨折による肘の変形、野球や柔道などのスポーツなどが原因として多く挙げられます。手根管症候群と同様に肘部管症候群でも肘関節の内側をたたくとしびれが走るtinel徴候がみられます。症状が長引くと小指球(掌の小指側の筋肉)が痩せたり、薬指や小指の変形が生じます(かぎ指変形)。

2)代謝性末梢神経障害
「糖尿病性神経障害」は「糖尿病性網膜症」、「糖尿病性腎症」と並んで糖尿病の3大合併症に挙げられますが、最も頻度が高く、早期に症状が現れます。手足にピリピリ、ジンジンといったしびれが左右対称に生じるのが特徴です。そのほかにアルコール過剰摂取、ビタミンB欠乏症、尿毒症など全身の代謝異常によって末梢神経障害が生じます。

5. 胸郭出口症候群
上肢や肩周囲の運動や感覚を支配する神経である腕神経叢と上肢へ分布する血流の基部である鎖骨下動脈は、①首の側面を走行する斜角筋の間、②鎖骨と第1肋骨の間の肋鎖間隙、③小胸筋(胸の筋肉)の後ろを走行しますが、それぞれの部位で締め付けられたり、圧迫されたりする可能性があり、症状を呈した場合は総称して胸郭出口症候群と言います。
症状は多彩ですが、電車のつり革や物干し作業など手を挙げている姿勢や、重いものを持って手が下方にけん引されるときに手のしびれや脱力が誘発されます。
血管性と神経性がありますが、多くは神経性で、腕神経叢が胸郭出口において圧迫あるいはけん引的刺激要因により過敏状態となり、首・肩・腕の痛みやしびれを引き起こした疾患群と言えます。なで肩の女性や重いものを持ち運ぶ労働者などに多く見られます。

以上、整形外科が関与することの多い疾患を中心に代表的な疾患を挙げましたが、上肢のしびれをきたす疾患は数多く、すべてを網羅することはできません。「過換気症」でも「四十肩」あるいは「テニス肘」でも上肢のしびれを訴えることもあり、いろいろ検査を重ねても残念ながら確定診断に至らないこともあります。冒頭にも述べましたが“しびれ”自体が個々人によってとらえ方が様々ですので、症状の詳細、経過、発症様式、既往症などを患者さん自身も整理しておくことが大いに診断の足しになりますので、病院受診の際にはご協力いただければ幸いです。
今回は上肢のしびれのみをご紹介しました。下肢のしびれやしびれの治療に関しては見送りますが、いずれ改めてご紹介したいと思います。

イラスト:日本整形外科学会HP資料より

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 整形外科

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