大腿骨頚部骨折
下肢の外傷でも非常に多いのが大腿骨の頚部骨折、股関節周囲の骨折です。当センターでもだいたい毎週何人か入院し、手術をしています。
大腿骨頚部ってどこでしょう?

図にもあるように、足の付け根が骨盤に繋がっている部分が股関節です。その関節の丸い骨(骨頭:こっとう)のすぐ下のくびれているところが、まるで頭の下の首(頚)のように見えるので頚部(けいぶ)と呼ばれています。いろいろな角度で全体重を支えることができる、大きくて丈夫な骨です。
どんな風にけがをする?


最も多いのは転倒です。元々強い骨ですが、年齢と共に骨が弱くなってくると、ちょっとした転倒でも折れてしまうようになります。転倒もしていないのにベッドの上で体をひねっただけで折れることもあります。些細な力で折れるので、まさか骨折しているとは思わなかったと驚かれる方も多いです。

また、まだまだ骨が丈夫な若年者や中高年でも、スキーなどのスポーツでの転倒や、高所からの転落、交通事故などの大きな力が加わることで折れることがあります。
どんな症状が出ますか?


足の付け根が痛くて動けない、歩けない。股関節の角度が一定の向きから動かせないといった症状が最も多いです。ほとんど動けずに救急車で来る方が多い一方、あまりズレがない場合は頑張れば歩けてしまうこともあり、歩いて外来に来る方もいます。そういう場合「歩けるんだから骨折ではないだろう」、と無理をしてしまうことで骨がずれてしまい、大がかりな手術が必要になってしまうことがあります。また数日家で様子を見ているうちに食欲が落ち、脱水や肺炎、尿路感染などを起こして全身状態が悪化して搬送されてくる方もよく見られます。歩くのが大変なぐらい足の付け根が痛くなった場合は無理をせず、すぐに整形外科を受診しましょう。
治療は?

骨折が部分的でほとんどずれていないような場合を除いて、ほとんどの場合手術治療となります。折れている部分を金属のネジで固定するか、癒合が望めないタイプの折れ方の場合は人工骨頭に入れ替えます。ネジで留める手術は30分から1時間、人工骨頭置換術も1時間程度の手術です。入れた金属は高齢者の場合は抜く必要はありません。若い方の場合はネジは1年後ぐらいに抜去することが多いです。
手術のリスクは?
手術中の急変はきわめてまれで、当センターでは今のところそういう例はありません。出血や、麻酔の呼吸器のチューブによるのどの症状、肺炎、深部静脈血栓症、術後の肺炎、食欲の低下、認知症の進行といった内科疾患の続発等があります。創の感染は起こりにくい場所でまれですが、糖尿病や低栄養の方等に起こることがあります。人工骨頭置換術の場合、以前は脱臼をしないための姿勢の制限がありましたが、当センターの術式では術後の制限はありません。内科疾患の続発は手術特有のリスクではなく、手術をしない保存治療でも起こりえます。
どれぐらいで歩けるようになる?

他の足の骨折の手術と比べても特徴的なのは、翌日からすぐにベッドから出てリハビリが可能で、ほとんどの場合、翌日から立って歩く練習ができるという点です。折れ方が複雑な場合は数週間制限がある場合もありますが、その場合でも車いすに乗ることができます。元々歩いて普通に生活できていた方の場合は、2-3週間で杖歩行で退院されることが多いですが、体力のない方やご高齢で歩行の獲得に時間がかかる場合は、リハビリ病院に転院してリハビリを続けます。けがをする前より多少筋力や体力が落ちることが多いですが、その程度には個人差があり、回復して自転車を乗り回せるようになる方から、歩行が不安定になって介護度が増す方まで色々です。
高齢で持病もあるけど手術をしても大丈夫?
これもとても多いご質問です。結論から言えば、ご高齢であるほど、弱っている方ほど早く手術をしたほうが良いといえます。早期に激しい疼痛から解放されること、起きて食事をとったりトイレに行けるようになることで、寝たきりや全身状態の悪化、認知症の進行のリスクを減らすことが可能だからです。もちろん他のご病気が重い場合はまず術前に治療をし、なるべく早く、1-2週間である程度落ち着いた状態にしてから手術をします。1年に1人か2人、きわめて全身状態が悪いなどの理由で手術をしないで保存治療(2ヶ月程度、体重をかけないようにベッド上で過ごす)になる方がいらっしゃいますが、疼痛が長く続き、動きが制限されることで手術治療に比べて苦痛が大きく、治療期間が長引くことで筋力の低下や続発症が出やすくなってしまうため予後も不良になります。
予防方法はありますか?


骨がもろくなること、転んでしまうことがおもな原因となりますのでこれを防ぐことが主眼となります。骨粗鬆症の検査を定期的に受け、骨密度が低いようであれば食事や運動を見直すほか、必要であればお薬による治療を開始して下さい。筋力の低下、バランス能力の低下を防ぐために適度な運動を日常習慣に取り入れましょう。


サンダルやスリッパでの転倒も多いです。履きやすく安定した靴をはくようにしましょう。


また、住環境も大切です。危ないところには手すりをつける、段差や敷物の縁などに注意し、直せるところは直しておく、床に物が散らかっている状態を避ける、暗くて足下が見づらい場所は明かりを足す、荷物の出し入れをしやすい位置に整理しておくといったことも有効です。これらは快適に楽しく過ごせるための工夫でもあり、また万が一、ケガをしてしまった場合もスムーズに自宅の生活に戻れる準備になります。