妊娠中に卵巣嚢腫・子宮筋腫が合併しているときの対応は?~妊娠前からの定期的なチェックも大切です~

当センターは腹腔鏡手術に力を入れており、妊娠初期にたまたま見つかった卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)(卵巣腫瘍)の治療目的でご紹介をいただく機会が多いです。今回は、妊娠中に合併することの多い、卵巣嚢腫と子宮筋腫についてお話します。

・妊娠中に「卵巣嚢腫」があるときは?

卵巣嚢腫が妊娠中に発見される頻度は0.01~1%です。まずは超音波検査で大きさ・悪性を疑う所見の有無・性状を確認します。

卵巣嚢腫の種類は、

  • ①漿液性嚢胞
  • ②粘液性嚢胞
  • ③成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)
  • ④内膜症性嚢胞
  • ⑤機能性嚢胞(妊娠中の変化)
  • ⑥その他(悪性を疑うものを含む)

に分けられます。そのうち10cmを超えるものや、6cm以上でも多房性の漿液性嚢胞(①)および粘液性嚢胞(②)、充実部を認める成熟嚢胞性奇形腫(③)およびその他のもの(⑥)では、MRIで詳しく調べたあとに手術が考慮されます。

手術時期は妊娠12週以降が望ましいとされています。妊娠週数が経過するほど児は成長しているため、流産の危険性や麻酔薬・抗菌薬などの薬物による児への影響が軽減されます。しかし児が成長して子宮が大きくなるほど、腹腔鏡手術では見える範囲が狭くなるために、手術が難しくなってきます。そこで当センターでは、妊娠12~16週頃に腹腔鏡手術ができるように計画しています。当センターでの最近の手術待ち期間は1~2か月程度ですので、妊娠初期に見つかり次第ご紹介されると、MRIによる精密検査を含めて余裕を持って腹腔鏡手術の計画をたてることができます。一方、悪性が疑われる場合や、妊娠週数が経過しており卵巣嚢腫の茎捻転や破裂等により緊急手術が必要となった場合は、腹腔鏡ではなく開腹して手術をします。

妊娠中に手術が必要になる理由としては、以下の4つが挙げられます。

  • ①妊娠中に卵巣嚢腫の破裂する危険性がある
  • ②分娩時の障害となる可能性、すなわち経膣分娩が不可能となる可能性がある
  • ③捻転、すなわち下腹部に激痛がおこる可能性がある
  • ④悪性腫瘍の可能性を否定しなければならないとき

手術した後は、原則として通常の妊娠・分娩管理となり、経腟分娩が基本となります。

・妊娠中に「子宮筋腫」があるときは?

妊娠の高齢化と超音波検査の診断技術の向上に伴い、0.5cm以上の子宮筋腫を認めた例は10.7%と、合併妊娠は増加傾向にあります。
妊娠・分娩・産褥予後は比較的良好であるとされますが、子宮筋腫の大きさや部位により

  • ①切迫流早産
  • ②児の胎位異常
  • ③前置胎盤
  • ④常位胎盤早期剥離
  • ⑤羊水量の異常
  • ⑥妊娠高血圧症候群
  • ⑦前期破水の頻度

が増加します。子宮筋腫の大きさ・部位・個数によっては、早産児や低出生体重児などにも対応できる新生児集中治療室の付属する総合周産期施設での妊娠・分娩管理が必要となります(当センターでは妊娠36週未満での出産、推定体重が2000g未満の児の出産には対応ができません)。
また子宮筋腫の変性や感染のため、12.6~28%が妊娠中に筋腫部位に一致した強い疼痛あるいは下腹部痛を経験します。疼痛の持続期間は2週間程度とされますが、痛みをおさえるために入院管理が必要となることがあります。

妊娠中に子宮筋腫の大きさが増大することもあります。胎位異常や子宮筋腫が児頭より先進していた場合には、分娩の障害となるために帝王切開となります。分娩経過中に陣痛異常・異常出血・分娩停止・帝王切開の頻度も増加するため、注意して管理する必要があります。

・さいごに

卵巣嚢腫・子宮筋腫の合併妊娠は珍しいものではなくなりました。しかし妊娠中では、緊急時の対応が難しくなることが多いため、妊娠前の定期的な子宮頸がん検診にあわせた早期発見・治療をお勧めいたします。
なお、自治体の子宮頸がん検診では、子宮頸部細胞診のみ施行している場合もありますので、検査の内容については受診機関にご確認ください。

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 産婦人科

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