「妊娠糖尿病」という病気を聞いたことがありますか?
普通の糖尿病とどこが違うのでしょうか。妊娠糖尿病にはどういう人がなるのでしょうか。おなかの赤ちゃんにはどんな影響があるのでしょうか。妊娠糖尿病の治療はどのようにするのでしょうか。もともと糖尿病の人はどんなことに気をつければよいのでしょうか。出産後はどうなるのでしょうか。
「妊娠糖尿病」は「妊娠中だけ糖尿病に近い状態」であることをいいます。
妊娠が終わると多くの人は糖尿病ではない状態に戻ります。
◯妊娠糖尿病とはなんですか?
- 「妊娠糖尿病」は成人にみられる普通の糖尿病とは違い、妊娠する前や出産後は糖尿病ではなくても「妊娠中だけ糖尿病(に近い)状態」になる病気です。すでに糖尿病になっている人が妊娠した場合(これを「糖尿病合併妊娠」といいます)とはちょっと違います。
- 一般的にほ乳類では、妊娠中は非妊娠時より食後の血糖が高めになる機能が働いています。野生では常に十分な食料があるとは言えないので、より多くの栄養を胎児に与えようとする自然の働きだと考えられています。私たち人間にもこの自然の働きがありますが、それが少し過剰に働いて食後の血糖が上がり過ぎる、つまり食後の血糖を下げるインスリンの作用への抵抗が大きくなり過ぎて血糖が高い状態となってしまうのが「妊娠糖尿病」です。
- 妊娠前から糖尿病である女性が妊娠した場合を「糖尿病合併妊娠」といいます。糖尿病の人は妊娠によりさらにインスリンの作用への抵抗が増し、血糖が上がりやすくなります。出産が終わってもほとんどの場合は糖尿病のままです。
- 妊娠糖尿病になりやすい人、妊娠糖尿病である可能性の高い人とはどういう人でしょうか。
1)糖尿病の家族がいる・いた妊婦
2)肥満妊婦
3)35歳以上の妊婦
4)巨大児(4000g以上)を産んだことがある妊婦
などは普通より可能性が高くなります。
その他,5)原因不明の流早産3回以上、6)原因不明の胎児・新生児死亡がある、7)先天奇形児の分娩歴がある、8)強度の尿糖陽性もしくは2回以上反復する尿糖陽性、9)妊娠高血圧症候群である、10)羊水過多症である、などの妊婦さんの中には妊娠糖尿病である人がいます。
こういう人たちは糖尿病になりやすいので、年齢が上がると糖尿病になる可能性が上がります。糖尿病は年配者の病気のイメージがあるかもしれませんが、なりやすい人は若いうちから発症したり、妊娠すると妊娠糖尿病になったりします。
◯妊娠糖尿病になるとどんな問題がありますか?
- 妊娠糖尿病になると食後の血糖が異常に高くなりやすいので、胎児への糖分の供給量が増えます。胎児は糖尿病ではないので血糖が上がると自分のインスリンを使って糖分を血液中から体内へ取り込み、高くなった血液中の糖分を減らします。しかし母体の高血糖が続くと糖分が引き続き与えられ、胎児は次第に太ってきます。
- 「大きく育って良かったね」という程度を越えて発育すると、今度は普通の体格の妊婦さんでは産めない、出て来られない大きさの胎児になることがあります。そのため分娩に長く時間がかかったり、結果的に帝王切開で産むことになったりします。
- 新生児は母体とへその緒のつながりがなくなると、高血糖だった糖分の供給が急に減るので,生後に低血糖になりやすくなります。また肥満(またはやせすぎ)の新生児は、将来的にいわゆる生活習慣病になりやすくなるということもわかってきました。
◯妊娠糖尿病の治療にはどんなものがありますか?
- 軽症の妊娠糖尿病では、胎児発育に必要な量に考慮された、妊婦さんの体格に応じたカロリー量の「食事療法」を行い、必要以上の糖分摂取を控えます。
- 「運動療法」は妊婦さんには特に妊娠後期で難しいことが多いので、一般的に第1選択ではありません。可能な範囲で行います。
- 「食事療法」や「運動療法」をきちんと行なっても血糖値が上がり過ぎる場合には「薬物療法」が必要です。必要な食事量を摂ることは胎児発育に不可欠なので、血糖を下げるためにといってもそれ以下の食事量にすることはできないからです。
内服の血糖降下薬の多くは胎盤を通って胎児へ移行するので、胎児の低血糖を起こすリスクがあります。インスリンは軽症ではない糖尿病患者さんの治療に使うイメージかもしれませんが、胎盤を通過しにくいので、胎児血糖に影響しないで母体だけの血糖コントロールに使うことができます。ですので妊娠糖尿病に薬を使うとすれば、インスリンということになります。 - 血糖が基準値以内に良好にコントロールされている妊娠糖尿病や糖尿病合併妊婦さんでは、胎児発育や生後の新生児血糖は正常で,正常妊婦さんと同じように分娩に臨めることが知られています。
もともと糖尿病の人が妊娠した場合
妊娠中にさらに血糖が上がってくる可能性があります
◯糖尿病合併妊娠
- 糖尿病の人が妊娠すると普段よりもさらに血糖が上がりやすくなるため、血糖を細かくコントロールしなくてはなりません。
- 糖尿病の人も妊娠中に血糖がきちんとコントロールされていれば、正常妊婦さんと同じように分娩に臨めますから、妊娠初期からの血糖管理が重要です。
- かかりつけの医師に妊娠してよいという許可をもらってから妊娠してください。網膜症、腎症、神経症などが軽症ではない糖尿病の場合は、妊娠許可が難しいことがあるからです。
- インスリンを使って治療していなかった人も、妊娠中はインスリンに切り替えることが普通です。
- 妊娠初期の器官形成期(からだが形作られるのに大切な時期)に高血糖の状態が続くと、胎児に先天性心疾患をはじめとする異常が発生する可能性が通常より高くなることが知られています。妊娠初期からの血糖管理が重要ですので計画的な妊娠が勧められます。
妊娠糖尿病妊婦さんの出産後は?
出産後も引き続き糖尿病である、ない、境界域、などを確認する必要があります。
◯ブドウ糖負荷試験
- 出産後は3か月間で妊娠の影響が消えると言われています。出産後6~12週のあいだに、妊娠糖尿病の状態がどうなったのかを調べるため「ブドウ糖負荷試験」を受けましょう。引き続き糖尿病の状態だった人は内科で糖尿病のフォローアップを受けてください。
- 出産後に糖尿病ではなくなった人も、年齢が上がると普通の人より糖尿病になりやすいことがわかっています。糖尿病を予防するような生活を心がけましょう。