妊娠高血圧とは?〜知っておいて欲しい妊婦さんの血圧のこと〜

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妊娠高血圧とはかつては「妊娠中毒症」と言われていた病気です。妊娠高血圧では血圧が正常かむしろ低めの妊婦さんが妊娠の途中から高血圧になる場合が多く、母体や胎盤、胎児に悪影響が起こりやすくなります。妊娠中に起こるかもしれないリスクとして最も有名と言えるほどで、多くの妊婦さんに起こり、悪影響も大きいので是非知っておくのが良いでしょう。

■血圧が正常だった妊婦さんが高血圧になる場合

誰でも妊娠高血圧になる可能性があります。

◯妊娠高血圧症候群とはなんですか?

  • 妊娠前や妊娠初期は血圧が高くなかったのに、妊娠の途中から上がり始め140/90mmHgを超えてくるのが妊娠高血圧の典型です。妊娠末期に近づくほど起こりやすくなります。少しずつ、あるいは急に血圧上昇がひどくなるので、早く発症するほど最後は重症になりやすく、赤ちゃんにも悪影響が出やすくなります。
  • 妊娠高血圧には腎機能が大きく関わっています。妊娠自体が腎臓に負担をかけるものですが、妊娠高血圧では腎臓からタンパク質が漏れてタンパク尿になることが多くなります。この状態を「妊娠高血圧腎症」と呼び、妊娠高血圧症候群の1つのタイプです。高血圧のみの妊娠高血圧より重症と考えてよいでしょう。
  • もともと高血圧だった女性が妊娠した場合も、妊娠高血圧症候群の1つのタイプとなります(後述)。
  • このように妊娠高血圧症候群は、いくつかのタイプの妊娠高血圧が含まれる「症候群」です。

◯妊娠高血圧になると何が危険なのですか?

  • 妊娠高血圧になった場合には、まず「脳出血」のリスクがあります。まだ老人ではないので簡単に脳出血は起こりませんが、脳動脈瘤や脳動静脈奇形がある人(自分にあるのかは知らないのが普通です)の血圧が上がると、くも膜下出血などの脳出血を起こしやすいことが知られています。
  • 妊娠中は妊娠高血圧にともなう特有の病気である「子癇(しかん)」(意識消失と痙攣の発作)のリスクとなり、胎盤早期剥離も半数は妊娠高血圧の妊婦さんに起こるリスクの一つです。
  • 妊娠高血圧では胎盤機能が低下し、胎児への酸素や栄養の供給が低下して、胎児発育不全や胎児低酸素が起こりやすくなります。母体だけではなく胎児の状態も悪くなるのが妊娠高血圧です。
  • 妊娠高血圧腎症になると悪化することが多く、HELLP症候群、子癇、急性妊娠脂肪肝などの重篤な合併症が起こりやすくなります。それぞれの詳細はここでは省略しますが、妊娠を終わらせるなど早く治療をする必要があります。

◯妊娠高血圧の治療にはどんなものがありますか?

  • 妊娠高血圧の「傾向がみられる」という程度なら外来で経過観察ができますが、明らかな妊娠高血圧となれば入院して注意深く様子を見ることが多くなります。
  • 血圧が高くなるなら降圧薬を使えば良いのでは?と考えるかもしれません。降圧薬はある程度は効果がありますが、母体の血圧が下がると子宮へ流入する酸素を含んだ動脈血の量が減少するため、胎児が低酸素・低栄養状態となる可能性があります。そのため降圧薬の使い方は単純ではなく、微妙な調節が必要になります。また急激な血圧上昇では、降圧剤のみの治療では有益で無いことがあります。
  • 見方を変えれば、低下した胎盤機能のもとで胎児への酸素や栄養の供給を保つために、子宮に動脈血を多く送るために血圧が上昇しているとも考えられます。
  • 妊娠高血圧は妊娠の状態がなくなれば治ってきます。薬の効果が出にくい急激で重症の妊娠高血圧では、多くの場合、緊急帝王切開などで分娩することにより治療するという手段がとられます。結果的に胎児にとっては早産になってしまうことが多く起こるわけです。このため、新生児集中治療室がある周産期センターにまず妊娠母体が搬送され、そこで早産児、未熟児として誕生し、お子さんの管理も行われることになります。
  • 血圧上昇が穏やかだったり、重症にならずに正期産期まで経過できれば、早産にならずにすみます。
  • 胎児も発育が不良にならずに状態が悪くならなければ妊娠を続けられます。
  • 正期産期に入ったら、妊娠高血圧がある場合は少し早めの分娩を検討します。重症度により急いだり待機したりしますが、軽症でも予定日を過ぎない程度の時期までの分娩が勧められています。
  • 子癇発作では痙攣を抑える投薬がされて、妊娠を終わりにしなくてはなりません。胎盤早期剥離も母体と胎児の生命を守るために早急な妊娠の終了が必要となります。帝王切開が選択されることが多いですが、状況によっては陣痛を起こして急いで経腟分娩する場合もあります。

■もともと血圧の高い人が妊娠した場合

妊娠中にさらに血圧が上がると問題となります。

◯高血圧合併妊娠

  • 高血圧のある人が妊娠した場合が「高血圧合併妊娠」です。妊娠してから高血圧になる多くの妊娠高血圧とは少し違いますが、広く妊娠高血圧症候群に含まれます。
  • 妊娠中も内服できる降圧剤が何種類かありますので、もともと高血圧の人も血圧が正常化できている場合には妊娠が可能です。
  • 高血圧合併妊娠のほうが急激に血圧上昇を起こすことが少なく、薬の調節により血圧が高めでも安定していれば、正期産期まで到達できます。
  • それでもさらに血圧が上昇したり、胎児発育が不良になるリスクはあります。妊娠高血圧と同様の対応になることがあります。

◯白衣高血圧とは?

  • 「白衣高血圧」とは、病院に来て診察室などで血圧を測ると高血圧になってしまうことを言います。たいていは自宅での血圧はそれほど高くなく、真の高血圧よりは軽症で過ごせることが多いですが、精神的な緊張などにより容易に血圧が上がりやすい人だと言えます。
  • 妊娠中の白衣高血圧もあります。自宅で血圧を測っていただき、病院以外ではあまり血圧が高くないことが確認されれば、本当の妊娠高血圧よりはリスクが低いと考えられます。
  • 途中から本当の妊娠高血圧になることもあります。自宅でも血圧を毎日測ることが勧められます。

■妊娠高血圧の原因は?

実ははっきりとはわかっていません。

◯妊娠高血圧になりやすい人

  • 高齢妊娠、肥満、もともと血圧が高い人、前回の妊娠で妊娠高血圧になった人、腎疾患の人、糖尿病の人、双子以上(多胎妊娠)などです。

◯妊娠高血圧の原因

  • 妊娠高血圧は血管が傷む病気と考えられています。様々な原因が考えられ、はっきりしていないことも多くありますが、妊娠高血圧のいろいろな症状が血管に障害が起こることで説明されます。
  • 上に挙げた妊娠高血圧になりやすい人は血管が傷みやすい人でもあります。血管が痛むと血液中の水分が漏れやすくなり、むくみが出たり、胸やお腹に水がたまりやすくなり、腎臓はタンパク質を漏らしやすくなります。また、血管や胎盤の傷んだ部分で小さな血の塊(微小血栓)ができやすくなり、血小板や凝固因子が消費されて減ります。
  • 傷んだ血管からは血管を収縮させる物質が出てそれで血圧が上がるとも考えられています。また、肝臓などへ行く血管が異常収縮すれば溶血性貧血、肝機能異常、血小板減少といったHELLP症候群様の症状が、脳血管が異常に収縮すれば痙攣(子癇発作)が起こると考えられています。
  • 胎盤ができるときに胎盤の血管がうまく発達しないことも原因とされています。機能の悪い胎盤ができて、胎児に酸素や栄養が不足して胎児発育不良となります。胎盤に多くの血流を回そうとして血圧が上がるとも考えられています。

◯妊娠高血圧は遺伝しますか?

自分の親が高血圧である妊婦さんは、妊娠すると血圧が上がりやすい、すなわち妊娠高血圧になりやすいことが知られています。高血圧は遺伝する要素が大きい疾患だからです。それに加えて家族で同じような食生活をしているので、生活環境としても家族は同じ状態になりやすく、「遺伝+環境」の要因で「家族で高血圧」になりやすいと考えられます。遺伝の部分は変えられませんが、食生活などの環境部分は努力により変えられます。減塩と適度な運動、肥満の解消は妊娠前からできるその一歩です。

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 産婦人科

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