妊婦健診で調べている感染症 ~vo.1 血液検査編~

こんにちは。産婦人科医師です。
妊娠中って、いろいろな検査をしていますよね。超音波検査や尿検査、体重・血圧測定などに加えて、血液検査や産道の細菌検査も妊娠の初期・中期・後期に分けて行っています。さて、今回は妊婦健診で検査している感染症について少し詳しくお話ししたいと思います。

この記事を書いている2021年3月現在、世界中に新型コロナウイルス感染症が蔓延し、多くの人が様々なことに制限を受けながら生活をしています。日々、不安な思いを感じながら妊娠ライフを送っている「おかあさん」、また感染予防のために妊婦健診の付き添いや立ち会い分娩を制限されている「おとうさん」、離れた場所に住んでいるために産まれてきた「赤ちゃん」に未だ会えていない「家族」。いろいろなことが変わってしまった今ですが、これからも皆さんの不安な思いに寄り添いながら妊娠・分娩をサポートしていければと思っています。

なお、新型コロナウイルス感染症関連情報については、日本産科婦人科学会ホームページにも特設サイトが掲載されています。(日本産婦人科感染症学会や厚生労働省のホームページともリンクされています。)ご参照ください。
日本産科婦人科学会ホームページ:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報
http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=10

ちなみに妊婦健診については、以前に「妊婦健診のススメ」という記事を掲載してありますので、時間がありましたらそちらも併せてお読みください。
参考記事「妊婦健診のススメ」2017年6月12日掲載記事
https://tokyobay-mc.jp/obstetrics_gynecology_blog/web04_03/

お母さんから赤ちゃんに何らかの微生物(細菌、ウイルスなど)が感染することを「母子感染」と言い、「母子感染」には、赤ちゃんがおなかの中で感染する「胎内感染」、産道を取るときに感染する「産道感染」、出生後に母乳によって感染する「母乳感染」などがあります。

お母さんにとっては感染による症状が比較的軽い場合であっても、赤ちゃんにとっては重大な合併症をもたらすものがあり、とくに注意が必要なものについて妊娠中に血液検査や産道の細菌検査を行っています(施設によって検査内容に多少の違いがあります)。お母さんが感染していた場合、妊娠中にお母さんの治療をしたり出生後すぐに赤ちゃんの治療をしたりすることで、赤ちゃんへの影響を少なくすることが期待できます。

それでは、血液検査・産道の培養検査の2回に分けてお話ししていきます。

《血液検査》

梅毒、B型肝炎、C型肝炎、HIV、風疹抗体、ヒトT細胞性白血病ウイルス抗体

《梅毒》

梅毒とは梅毒トレポネーマ Treponema pallidumという細菌によって引き起こされる性感染症で、日本では2013年以降急速に感染者数が増加しています。

治療の必要な「活動性梅毒」と治癒状態の「陳旧性梅毒」があり、感染力は時間経過とともに低下するといわれていますが、潜伏梅毒(症状はないが、感染リスクや検査所見などから治療が必要と判断される活動性梅毒)でも、母体から胎盤を介して胎児に感染し、赤ちゃんの神経や骨などに異常をきたす「先天梅毒」を発症する可能性があります。

妊娠中のスクリーニング検査としては、妊娠初期に血液検査を行っています。梅毒は培養法では診断できないためです。検査の結果、治療が必要と判断された場合、ペニシリンが第一選択薬となります。また、性感染症であるためパートナーの治療も必要です。

《ウイルス性肝炎》

ウイルス性肝炎というのは、肝臓がウイルスに感染することで炎症が起こる疾患のことです。肝炎ウイルスにはA、B、C、D、E型などがあり、A型、E型肝炎ウイルスは主に食べ物を介して感染し、B型、C型、D型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染します。妊婦健診では母子感染の可能性があるB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの検査をしています。

《B型肝炎》

B型肝炎は血液や体液を介したB型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって起こり、その感染様式は「一過性感染(感染既往者)」と「持続感染(キャリア)」の2種類があります。

B型肝炎のスクリーニング検査も妊娠初期に血液検査で行われ、陽性であった場合には消化器内科でのより詳しい検査をすることになります。もし赤ちゃんに感染したとしても多くは無症状ですが、まれに乳児期に重い肝炎を起こすことがあり、また将来、肝炎、肝硬変、肝臓がんになることもあります。
感染予防のために赤ちゃんには出生後すぐにHBワクチンを投与します。赤ちゃんに対するB型肝炎母子感染予防は現在以下のスケジュールで管理されています。

《C型肝炎》

C型肝炎もC型肝炎ウイルスの血液を介した感染によって起こり、B型肝炎同様に「一過性感染(感染既往者)」と「持続感染(キャリア)」の2種類の感染様式があります。
C型肝炎のスクリーニング検査も妊娠初期に血液検査で行われ、陽性であった場合には消化器内科でのより詳しい検査をすることになります。検査の結果、場合によっては帝王切開分娩を提案されることもありますので、その時は担当の医師や家族とよく話し合って分娩方法を選択してください。

もし赤ちゃんに感染しても多くは無症状ですが、将来、肝炎、肝硬変、肝臓がんになることもあります。C型肝炎に関して、現時点ではワクチンなどの治療は行われていません。

《HIV》

HIVとは、Human Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス)のことで、妊娠初期にスクリーニング検査を行っています。日本のHIV感染妊娠は約0.01%と極めて少なく、陽性と診断された場合には、各地域のエイズ治療拠点病院などで妊娠・分娩管理を行うことになります。HIV母児感染は「胎内感染」、「産道感染」、「母乳感染」のいずれでも感染するため、それぞれに応じた感染予防が必要となります。赤ちゃんに感染した場合、進行するとAIDS(後天性免疫不全症候群)を発症します。

《風疹》

風疹は風疹ウイルスに感染することによって起こる発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とする急性熱性発疹性感染症です。
お母さんが妊娠初期に初めて風疹に感染すると、胎内感染によって赤ちゃんに眼の病気(白内障や緑内障など)、先天性心疾患、聴力障碍などの症状を示す「先天性風疹症候群」を起こすことがあります。
妊娠初期にスクリーニング検査が行われますが、感染しているかどうかを調べる目的のほかに、抗体価の低いお母さんに対して、人ごみや子供の多い場所を避けたり、同居家族に風疹ワクチン接種を勧めたりすることで感染予防を呼び掛けています。

抗体陰性あるいは低抗体価のお母さんには、次回の妊娠で風疹に感染するリスクを減らす目的で、分娩後早期にワクチン接種を勧めています。母乳中にワクチンからのウイルスが検出される場合がありますが、赤ちゃんに感染することはなく授乳中でもワクチン接種は可能です。ただし、風疹ワクチンは、「生ワクチン」という種類に分類され、接種後一時的に体の中でワクチン用に弱められた風疹ウイルスが増えます。その時に妊娠すると胎児に感染する可能性があるため、ワクチン接種後2カ月は避妊するようお願いしています。

《ヒトT細胞性白血病ウイルス》

ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)は成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia:ATL)の原因ウイルスです。また、HTLV-1関連脊髄症(HAM)等の原因ウイルスでもあります。HTLV-1キャリアからのATL発症率は約3~7%で、40歳以上の中高年以降に発症するといわれており、ATLに有効な治療はまだ見つかっていません。
スクリーニング検査は妊娠初期~中期に行われ、主に母乳感染するため人工栄養が勧められます。

HTLV-1に関しては、厚生労働省のホームページに詳しい情報が載っています。
「HTLV-1キャリアのみなさまへ よくわかる 詳しくわかる HTLV-1」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/htlv-1_f.pdf

今回、お話しさせていただいた感染症は一部に過ぎませんが、少しでも不安や心配が解消できたら良いと思います。妊娠中に気を付けなければいけないことが他にもたくさんあります。心配なこと、困った症状などがあった際にはかかりつけの産婦人科医、助産師などに相談してください。

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