※写真はご家族の許可を頂いた上で掲載させて頂いております。
こんにちは。東京ベイの産婦人科医師です。
今日はお母さんのお腹を切開して赤ちゃんを取り上げる「帝王切開分娩」についてお話をします。
おそらく妊娠したお母さんたちはみんな少なくとも一度は考えるのではないでしょうか?
「もし帝王切開になったらどうしよう…」って。
「手術室なんて入ったこともないし…不安…」
「おなかを切るなんて痛そうだな…大丈夫かな…」
「どんなときに帝王切開が必要になるんだろう…」
そんな不安や疑問の声に少しでも応えられたらいいなあと思います。
さあ、それでは始めましょう。
はじめに‥
質問です。
帝王切開術で産まれてくる赤ちゃんは、どのくらいいるでしょう?
2017年の厚生労働省のデータによると、帝王切開率は一般病院で25.8%、一般診療所で14.0%、全体で20.4%を占め、年々増加傾向にあります。
つまり、およそ5人に1人は帝王切開術で産まれているということになります。
思っていたより多かったですか? それとも案外少なかったですか?
帝王切開術とは
帝王切開術とは、お母さんのおなかと子宮を切開して、直接赤ちゃんを取り出す方法のことです。経腟分娩
(=下からの分娩のことです)が難しいと判断された場合に、あらかじめ日程(だいたい妊娠38週頃に行われることが多いです)を決めて計画的に行う「選択的(予定)帝王切開術」と、お母さんや赤ちゃんに何らかの問題が起きたために、おなかの中から赤ちゃんを早く出さないといけない場合に行う「緊急帝王切開術」があります。
帝王切開術の適応
帝王切開術が必要となる理由を、いくつか挙げてみます。
(注:全てではありません。また、当センターでは対応できない症例も含んでいます。)
1) お母さん側の問題
- 子宮手術の既往
妊娠前に子宮筋腫に対して筋腫核出術を行った場合や、以前に帝王切開分娩を行った場合などがこれに当てはまります。
(以前に帝王切開術を行った場合を「既往帝切後妊娠」ということがあります) - 児頭骨盤不均衡
赤ちゃんの頭が大きくて、もしくはお母さんの骨盤が狭くて、赤ちゃんがお母さんの骨盤を通ることができない状態のことを「児頭骨盤不均衡」といいます。内診や 骨盤のX線撮影などで判断します。 - 前置胎盤
胎盤の一部もしくは全体が子宮の出口を覆っている状態のことを「前置胎盤」といいます。経腟分娩では、「赤ちゃん」→「胎盤」の順に出てきますが、前置胎盤の場合、胎盤の方が赤ちゃんより下にあるため、赤ちゃんが出る前に胎盤が出てしまうことになります。そうなると、出血も多くなり、赤ちゃんは胎盤から栄養や酸素をもらうことができない状態になってしまうため、前置胎盤の場合には選択的帝王切開術を行います。 - 重症妊娠高血圧症候群
妊娠中(妊娠20週以降、分娩後12週までの間)に高血圧を認める場合を「妊娠高血圧症候群」といって、時に尿蛋白や全身の臓器障害を伴うこともあるため慎重な管理が必要となります。血圧がどんどん上昇してコントロール不良となったり、お母さんの全身状態が悪化したりすると、場合によっては帝王切開分娩となることがあります。 - 常位胎盤早期剥離
子宮の中の正常な位置に付着している胎盤が、赤ちゃんが出てくる前に剥がれてしまう状態を「常位胎盤早期剥離」といいます。出血や激しい腹痛が起こり、ショック状態になることがあり、すぐに緊急帝王切開術を行う必要があります。 - 分娩停止
有効な陣痛(=痛みを伴う規則的な子宮収縮)はあるものの2時間以上分娩が進行しない状態(=子宮の出口が開かない、赤ちゃんの頭が下がってこない等)を「分娩停止」といいます。陣痛促進剤(=陣痛を強める薬)を使用したり、吸引分娩(=赤ちゃんの頭に吸引カップを密着させて陣痛発作に合わせて引っ張り出す方法)・鉗子分娩(=鉗子といわれる器具を赤ちゃんの頭をかけて陣痛発作に合わせて引っ張り出す方法)を行ったりしますが、子宮の出口の開き具合や赤ちゃんの頭の位置によっては、帝王切開術が必要となる場合があります。
2) 赤ちゃん側の問題
- 胎児機能不全
分娩中は分娩監視装置をお母さんのおなかにつけて、陣痛の間隔や強さ、赤ちゃんの心拍数波形の変化を記録します。赤ちゃんの心拍数波形を5段階に分類し、高度な異常波形が続くような場合には帝王切開術を行うことがあります。 - 臍帯脱出
破水前に赤ちゃんの先進部位の横もしくは下に臍帯(=へその緒のこと)がある状態を「臍帯下垂」といい、破水後で腟の中や腟の外に臍帯が下がってきた状態を「臍帯脱出」といいます。赤ちゃん自身によって臍帯が圧迫され、赤ちゃんが胎盤から栄養や酸素をもらうことができない状態になってしまうため、速やかに帝王切開術を行う必要があります。 - 多胎妊娠
双胎妊娠(=双子のことです)や品胎妊娠(=三つ子のことです)など、2人以上の赤ちゃんを同時に妊娠することを「多胎妊娠」といいます。双胎妊娠の場合、条件を満たせば経腟分娩も可能な施設もありますが、多くの場合は帝王切開分娩が選択されます。 - 骨盤位
子宮の中で赤ちゃんの下半身(=足やおしり)が下に来ている状態を「骨盤位」といいます。逆子とも呼びます。条件によっては経腟分娩を行っている施設もありますが、破水が起こると赤ちゃんの足の間から臍帯が先に出てきたり、赤ちゃんの頭が出てくるまでに時間がかかったりするおそれがあるため、帝王切開術を選択される場合が多いです。 - 胎児発育不全
赤ちゃんの体重が妊娠週数の推定体重の標準よりも極端に小さい場合を胎児発育不全といいます。お母さん、赤ちゃん、胎盤や臍帯などに原因がある場合もありますが、原因がわからないことも多いです。分娩には慎重な管理が必要となり、場合によって帝王切開分娩となることがあります。
帝王切開術:入院中のスケジュール(当センターの場合)
入院してから退院するまでのスケジュールについてお話します。
手術前日
- 病棟の説明を行ったあと、お母さんや赤ちゃんの状態を確認します。
- 麻酔科の先生の術前診察、手術室看護師の訪問などがあります。
- 不安なことや心配なことがあればスタッフや医師に伝えてください。
手術当日~手術室に行くまで
- 食事は0時まで、水分は7時まで摂ることが可能です。
- 術衣に着替えたり、弾性ストッキングを着用したりして手術に備えます。
- 手術の前にあらかじめ病棟で点滴をとります。
- 助産師と共に手術室に行き、手術室の入口で同意書などの確認作業を行います。
手術室の中はこんな感じになっています!
- こちらは病棟の中にある分娩手術室の写真です。
- こんなところで、手術を行っています。
手術の準備
- 手術室に入ったら手術台の上に横になり血圧や脈拍などを測ります。
- 麻酔は、麻酔科の先生が行います。
- 「脊髄くも膜下麻酔」といわれる麻酔を行います。
脊髄くも膜下麻酔は「脊椎麻酔」、「腰椎麻酔」とも呼ばれることがあります。背中(腰のあたり)から脊髄くも膜下腔に細い針を刺して薬を投与します。 - お母さんは意識がある状態で手術が始まります。
- 麻酔科の先生や手術室看護師がそばについているので、何か気になることがあれば教えてください。
いざ、手術!
- 手術は通常、産婦人科医2名(もしくは3名)で行います。
- 下腹部の皮膚を横切開します。
(前回、縦切開の場合や緊急帝王切開の場合には縦に切開することもあります。) - 子宮を切開して赤ちゃんを取り出します。
- 産まれた赤ちゃんは、小児科の先生と助産師で全身のチェックを行います。
元気なことが確認されたら、手術室内で母子のご対面をしていただけます。
(赤ちゃんは先に病棟へ帰ります。) - 子宮を縫い合わせ、おなかの中を確認します。
- 異常がないこと、出血が止まっていることを確認したら、最後におなかの傷を縫って手術終了です。
手術当日~手術室から病棟に帰ってきてから
- お母さんの状態を確認して、問題なければ病棟へ帰ります。
- 病棟へ帰ってから3時間たったら、水分をとることができます。
- 手術当日は基本的にはベッドの上で安静に過ごしていただいています。
手術翌日からのスケジュール
《術後1日目》
- 朝から食事が始まります。
- 少しずつ立ったり歩いたりして体を動かすよう促していきます。
- 尿道カテーテル(=尿道に入っているおしっこの管)は、トイレまで歩けることを確認した後で抜きます。
- お母さんの体調が良ければ、赤ちゃんに授乳をすることもできます。
《術後2日目から》
- お母さんの体の回復に合わせながら、本格的に赤ちゃんのお世話がはじまります。
- 授乳をしたり、赤ちゃんのおむつを替えたり、排泄の回数をチェックしたり、沐浴をしたりして過ごします。
- 入院中の生活や赤ちゃんのお世話などで分からないことや手伝ってほしいことがあったら、助産師に声をかけてください。
《術後6日目》
- 退院前に主治医による診察があります。おなかの傷や、子宮・悪露の様子を観察し退院できるかどうかの判断をします。
最後に・・
ここに記載したことは、ほんの一部にしか過ぎません。
実際に赤ちゃんを産んだお母さんの数だけ、お産の形があると思います。経腟分娩であったとしても、帝王切開分娩であったとしても、それぞれのお母さんと赤ちゃんにとって(そしてお父さんにとっても)一番いい形でのお産になるよう、我々もサポートしていきたいと思います。