NIPT(非侵襲的出生前検査)って何ですか?〜胎児にリスクのない新しい出生前診断です〜

NIPTとは?

NIPTとは新型出生前(遺伝学的)検査のことです。ときどきTVや新聞にも取り上げられていますね。(NIPT: non-invasive prenatal testing)
当センターではNIPTを行っていませんが、検査の申込みをしようかどうか迷っている人や、単にNIPTって何?と言う人にも情報提供しようと思います。

NIPTってどういうことでしょう?
NIPTでは何がわかるのでしょうか?なんのために検査を受けるのでしょう?
NIPTはいつだれがどこで受けるのでしょうか?
NIPTとはちがう検査もあるのでしょうか?

NIPTってどういうことでしょう?

NIPT: non-invasive prenatal testing、直訳すれば非侵襲的出生前検査です。非侵襲的というのは侵襲的に対する言葉です。侵襲的というのは身体を傷つけると言う意味です。NIPTは身体を傷つけない検査ということになります。この分野での侵襲的検査の代表は羊水穿刺による羊水検査です。羊水検査は母体のお腹の上から子宮の中まで細い針を刺して羊水を採取して、羊水中の胎児細胞から胎児の染色体を調べるものです。結果は確定診断と言える確定的検査です。子宮を刺すので害が無いとは言えず、およそ300〜500回に1回の割合で流産など児を失うリスクがあります。

これに対しNIPTは母体の採血で検査ができるので、胎児には害がありません。母体も採血の痛みだけです。ただし、結果は間違っている可能性はかなり低いのですが確定的とは言えない非確定的検査です。

母体の血液を採血してなぜ胎児の検査ができるのか?と言えば、妊娠中の母体血には胎盤からの胎児側の細胞のDNA断片が混じっているからです。多くの母体細胞からDNA断片と少数の胎児細胞からのDNA断片を、親のものか子のものかはわかりませんがそれぞれ何番の染色体のものかが分析できるようになりました。何番染色体のDNA量は全体のどのくらいという分布は正常染色体数の人では決まっています。胎児も正常染色体数なら「母体からのDNA+胎児からのDNA」の分布の割合は変わりません。もし胎児に染色体数の異常があると「母体からのDNA+胎児からのDNA」の分布が胎児の分だけ何番かの染色体のDNA量が増減します。このわずかな違いを測って(母体は染色体数正常が前提なので)胎児のその番号の染色体数が多い少ないを見つけ出すのです。実際は胎児の何番かの染色体が1本多いことを見つけ出します。

具体的には13番か18番か21番の染色体数が通常より1本多いこと(13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー)につき陽性か陰性かの判定となります。これ以外の染色体異常についてはこのNIPTでは検査しません。1本多いという判定が陽性、正常な数(2本)という判定が陰性として示されます。この結果は非確定的検査と言うように、陽性と出ても実際は正常であるという偽陽性が5%〜10数%(母体年齢により異なります)あるので、本当に染色体異常であるかどうかは羊水検査を行って初めて確認されます。

逆に陰性と出たが、本当は異常であったという偽陰性の率は1/10000位と言われているので、こちらはかなり精度が高いと言えます。

NIPTでは何がわかるのでしょうか?なんのために検査を受けるのでしょう?

いまここで説明している日本のNIPTでわかるのは、13トリソミー、18トリソミー、21トリソミーそれぞれについての陰性か陽性かです(異常が有るか無いかではありません)。21トリソミーが最も産まれてくる頻度が高く、社会で生活している人の数が多く、皆さんに名前で知られていることが多いダウン症です。

これら染色体の数の違いは母体の妊娠時の年齢(卵の年齢)が高くなると起こる可能性が高くなることが知られています。報告者にも依りますが、ダウン症児を妊娠している可能性は20歳代でおよそ1/1000以下、30歳で1/700〜800、35歳で1/280〜300、40歳で1/80〜100と可能性が上昇します。ですから母体年齢が高く妊娠した人は胎児の染色体異常を心配する人が多くなります。ただし、高いと言っても1%程度ですから超高齢でも90数%は正常と言うことになります。1%は高いというのか。20歳代と“比べると”確かに高いという数字をどうとらえるかということです。

NIPTだけでなく、羊水検査でも母体血清マーカー(クアトロテストなど)でもそうですが、検査を受けるのならばなぜ検査を受けるのかを自分なりにはっきりさせようとしてみることは重要です。NIPTでわかるような染色体異常の赤ちゃんを、妊娠する前にはわからないのだから、既にお腹の中にいる赤ちゃんに染色体異常がないことを望んでいるとしても、そういう児が産まれてはいけない訳ではないというのが今の日本の社会であり、どこまで自分としてはそれを知る必要があるのか?せっかく妊娠した我が子は病気があっても産んで育てたいと思うから検査はしなくてよい、という声はよく聞きます。また、障がいがあったらとても育てられないと言う人もいます。ただ同じ病名でも症状の軽重は様々でその違いまではわかりません。考え方・とらえ方は極めて個人的なことで多様性がある内容であり、個人の自由であり、医師やスタッフもどう考えるのが正しいなどとは決められない内容ですが、実際にそういう児をもって一緒に暮らしている人はたくさんいて、その児は自分のことをどう思っているのか、家族はどう思っているのか、そういうことも少し考えてみるのは良いことと思われます(書籍、ネット、友の会など)。検査の説明はもちろんですが検査の意味を知り、自分(夫婦)の考えを確認し、検査を受けるかどうかを自分達で決める手助け、結果を聞いてどう判断するかの手助けをするのがNIPTを受ける前後に行われる遺伝カウンセリングというものです。

また、NIPTでわかる情報は児の持つかもしれない疾患のごく一部であり、超音波など他の方法でなければわからない異常や、産まれてくるまではわからない病気などのほうが多いこと、そもそも人間は産まれた時に100人のうち3〜5人は何らかの異常を持っているものであることなど、いろいろな情報、価値観に触れて考えてみるのが良いと思います。

NIPTはいつだれがどこで受けるのでしょうか?

現在「NIPTコンソーシアム」という組織があり、各学会の指針やガイドラインを遵守して基準を満たしている施設を日本医学会が認定してNIPTコンソーシアムが公表していますので認定施設で受けることが安心です。施設毎にホームページなどで受付の方法を案内しています。
およそ妊娠9〜10週以降14週頃までに採血です。各施設、初診から採血、結果開示、開示後の判断まで3、4回のカウンセリングを行いますので早めの受診問い合わせや予約が勧められます。費用はおよそ20数万円です。

NIPTの検査を受けられる妊婦さんは、多くの施設で次のようです。

  1. 高齢妊娠(35歳以上)
  2. 超音波検査や母体血清マーカー検査で胎児に染色体数的異常の可能性を言われた。
  3. 以前に染色体数的異常の胎児を妊娠した既往がある。
  4. 夫婦のいずれかが均衡型ロバートソン転座を持ち胎児が13または18トリソミーとなる可能性が示唆される。

上記のいずれかの妊婦さんです。

最近、産婦人科ではない無認定のクリニックなどで十分な説明もなく、NIPT認定施設が契約する検査会社とは違う国の検査会社を使って、安価にNIPTを検査するところがあり、結果は郵送のみで説明無しや、結果が陽性のようなので説明を求めて受診するとどこか他の産婦人科へ行くように言われるだけだったりと不適切な対応をする施設があることが問題とされています。

NIPTとはちがう検査もあるのでしょうか?

前にも書いている羊水検査や母体血清マーカー検査がどの地域でも比較的アクセス可能な検査でしょう。詳しくは当科で使用している検査説明書を参考に見られます。

羊水検査確定的検査で結果は診断となる。

妊娠15週頃以降に行う。
母体のおなかから針を子宮内まで刺して羊水を採取する侵襲的検査
羊水穿刺をしたことによる流産、破水、出血、感染、胎児死亡などの児を失うリスクが1/300〜500程度ある。
費用は11〜15万円が多い。
羊水検査説明書 (PDF)

母体血清マーカー検査:クアトロテストについて

ダウン症を主として、他に18トリソミーと二分脊椎・髄膜瘤などの可能性が“何分の一”と確率で示される検査。ダウン症は1/295より高いと陽性、低いと陰性と示される。
それらの疾患で有るか無いかはわからない非確定的検査
母体の採血だけで済む胎児にとっては非侵襲的検査
妊娠15週から検査可能。
費用は2〜3万円。
母体血清マーカー検査説明書 (PDF)

正常染色体でも先天性疾患はあり得ます。超音波胎児スクリーニングは全ての疾患を網羅できませんが妊娠20週前後でわかる範囲の画像的検査を行います。当科でも行えます。
リンク:超音波外来
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