お産のリスクってどんなことでしょう?(1) 〜陣痛が始まる前の異常〜

お産のリスクってどんなことでしょう?

「案ずるより産むが易し」と言われますが、お産には良くないことや危険なことも起こりうるとわかっているからこそ「案ずる」ことがあるのでしょうし、「案ずる」ひとがいるのでしょう。「リスクの無い分娩は無い」というのも事実です。妊婦さんによって、そのリスクが小さいものか大きいものか、少ないか多くあるかの違いだけです。

気になるけど怖くて心配になるから考えるのを避けているかも、病院にかかっているのだから大丈夫だろうと考えているかも、マタニティー雑誌やサイトにも時々みかけるけれど、病気や異常の話はまとまって見てみたことはないかもしれません。あまりリスクの話ばかり見ると怖くなって心配になるかもしれないけれど、少しは知っていた方が医者が何を心配しているのか、警戒しているのかわかり、自分にそれが起こったときの病気の理解度が増して、正しく病気を捉えられる利点があると考えられます。そこで、あえてここでは「分娩時(陣痛開始後〜分娩後)に起こり得る異常」をいくつも並べて簡単に説明します。

分娩中に発症する異常、病気の主なもの

◯前期破水

  • 陣痛が始まる前に破水が起こることを前期破水といいます。
  • 破水すると24時間以内に半数くらいの産婦さんで陣痛が始まります。妊娠37週以降のお産の約3割は破水から始まります。普通のお産の始まり方のひとつと思ってよいです。
  • ただし破水すると子宮内に細菌が入るルートができたことにもなるので、時間経過とともに子宮内感染のリスクが上がってきます。破水すると分娩が終了するまでの制限時間も生じるということになります。24時間以内に産まれると理想的ですが、感染の徴候が無ければさらに24時間くらいは大丈夫なこともしばしばあります。

◯微弱陣痛

  • 陣痛ははじまったが分娩が進行するほど陣痛が強くない、あるいは進行が極めてゆっくりでしかない、というのが微弱陣痛です。
  • 陣痛は多くの場合最初は弱く、次の痛みまでの間隔が長く、それが徐々に強く、間隔が短くなってくるものです。長時間にわたり間隔が長かったり、痛みが弱かったりするままなのが微弱陣痛です。分娩進行の途中から微弱陣痛になってしまうこともあります。
  • 程度にもよりますが産婦さんの20〜40%前後におこる、よくみられる産科異常です。
  • 微弱陣痛では痛みはあるので休んだり眠ったり出来ないが、分娩は進行せず産まれないということが問題となります。
  • 経過をみて必要なら陣痛を促進する処置(薬の点滴など)を受けて、正常な分娩進行にすることで正常分娩を目指すようにします。

◯子宮内感染

  • 破水後に時間が経過して、時には破水もしていないのに細菌が子宮内に入って感染を起こし、炎症が起こることを子宮内感染といいます。
  • 母体の白血球数増多や発熱、血液炎症反応上昇、胎児心拍数の上昇、安心な胎児心拍数変化からの悪化、子宮の痛み、羊水の混濁・悪臭などが症状として知られています。
  • 妊娠中の子宮内感染の進行は子宮内にいる胎児にとっても、子宮の持ち主の母体にとっても危険が生じます。
  • 胎児や母体の状態があまり悪化する前に胎児の娩出、母体の治療が必要になります。緊急帝王切開もこの治療のひとつとして行われることがあります。
  • 胎児や母体に抗菌薬による治療が行われますが効果は十分でないこともあり、治療が長びくこともあります。

◯胎児機能不全

  • 昔は「胎児仮死」や「胎児切迫仮死」などと呼ばれていた、胎児の状態の悪化をいいます。多くは胎児の酸素不足が起こっているか起こりつつあります。
  • 胎児心拍数モニタリングで胎児の心拍数変化が、正常な安心できるパターンから一過性胎児徐脈の繰り返しなど安心できないパターンへ変化することで判断されることが多いです。
  • 様々な原因があり、母体の問題(妊娠高血圧、妊娠糖尿病、破水、子宮内感染、その他の母体合併症、等)や胎児・胎盤の問題(胎盤機能低下、臍帯圧迫などの臍帯血流障害、胎児発育不全、胎盤早期剥離、胎児先天性疾患、胎児母体輸血症候群、等)などがそれらの一例です。
  • 胎児の状態が悪化しつつあるとわかったら、あまり悪化する前に分娩を終わらさねばなりません。分娩を急ぐ方法は状況により選択されますが、鉗子・吸引分娩、緊急帝王切開などはその一例です。

◯分娩停止

  • 陣痛はあるのに分娩が進行しない状態が続くことをいいます。
  • 微弱陣痛なら陣痛を促進しても産まれない状態です。
  • 胎児が母体(産道)の大きさに比べて大きすぎる、同じことで産道が胎児の大きさに比べて狭すぎる、変形している、胎児の頭の向きが良い方向に向いていない、など原因はいろいろあり得ます。
  • 産まれるように陣痛を強めたり、母体の姿勢や向きを変えたり、陣痛に合わせて息んでもらったり、いろいろ試みても進行しない場合には産まれる方法として、鉗子・吸引分娩やこれとお腹を息みに合わせて少し押す方法や、子宮口が十分開く前の段階なら帝王切開が行われることがあります。

◯子宮破裂

  • 陣痛により子宮が破れてしまうことで、子宮に傷跡がなければ数万人に一人のきわめて稀な事態です。
  • 帝王切開の既往、子宮筋腫を取る手術後など、子宮に傷跡があると発生率は1%〜数%の可能性と高くなります。
  • 東京ベイでは子宮に傷跡のある既往歴の場合は原則として帝王切開分娩の方針にしています。

◯羊水塞栓

  • 陣痛により羊水が胎盤や子宮の血管から母体の血液中に注入され、異物に対する反応で血液凝固が起きて血栓が臓器血管に詰まったり(血栓症、塞栓症)、血液凝固因子が消費されて減り血が固まらなく(止まらなく)なるため子宮やあちこちから大出血となる重篤な疾患です。
  • 1〜3万人に一人とまれな発症であることが知られています。

分娩後に発症する異常、病気の主なもの

多くが出血多量となるものです

◯弛緩出血

  • 赤ちゃんが産まれた後の子宮は引き続き収縮して、胎盤が剥がれ押し出されます。胎盤が剥がれた部位からは出血しますが、さらに子宮は収縮して自らの出血を止める働きをします。この子宮収縮が不良だと子宮筋が緩んで多量に出血する弛緩出血が起こります。分娩の数%に起こることで稀ではありません。
  • 双子、巨大児、羊水過多など子宮壁が引き延ばされ過ぎた時は弛緩出血が起こりやすくなります。微弱陣痛や分娩遷延などで子宮筋が疲労して収縮不全となる場合にも起こりやすくなります。陣痛開始から2、3時間で産まれてしまう、いわゆる急産でも起こりやすいことが知られています。
  • 子宮をお腹の上からマッサージ刺激したり、子宮収縮剤を増量・追加したり、お腹の上と子宮口の両方向から圧迫して止血を試みるなどの治療を行います。
  • それでも出血が止まらない場合は子宮内へバルーンやガーゼを詰めて止血を試みたり、腿の動脈からカテーテルを入れて子宮へ行く動脈を詰めて出血を減らす試みもあります。
  • 出血量が増えると輸血が必要となる場合が増えます。一般に分娩では200〜300人に一人が輸血を受けている計算になります。
  • どうしても子宮からの出血が止まらない場合は最終手段として開腹手術で子宮を取ることで止血させることがあります。

◯頸管裂傷

  • 分娩が急速に進行するなどして、子宮の口が裂けてしまうことです。数%の分娩に起こります。大きくて出血多量となることは1%以下です。
  • 赤ちゃんが産まれた後に多量の出血が続き、最初は弛緩出血と似たような多量出血となります。診察で頸管裂傷がみつかると、針・糸で縫合をします。
  • 非常に大きく深くさけた場合は出血も多量となり輸血が必要なことがあります。
  • ごく稀に子宮の中まで裂けると子宮を取らざるをえないことがあります。

◯外陰・腟壁血腫

  • 分娩後に会陰切開や会陰裂傷の縫合部や全く傷のない腟壁・外陰部に皮膚・粘膜の下で多量の出血が起こり、血の塊ができて膨らみ、強い痛みを起こします。
  • 表面的には傷がない部位でも、大きな児頭などが通過したときに引き延ばされた腟壁の中を走る血管が切れて内出血が起こるものです。
  • 多くの場合に強い痛みを取るために、皮膚や粘膜に切開を入れて内部の血腫(血の塊)を取り除き止血する処置・手術をすることが必要です。

◯癒着胎盤

  • 胎盤が付着部位の子宮壁の筋肉に付着するだけでなく、胎盤組織が筋層内に食い込んで剥がれなくなっている状態です。胎盤は剥がせないか、部分的な癒着の場合は胎盤の大部分が普通に剥がれて癒着部分だけ剥がれずちぎれて子宮壁に残り、そこからの出血が止まらなくなります。1%未満の発生頻度です。
  • 止血処置を試みますが止血が難しい場合は子宮摘出による止血となる場合があります。輸血も必要なことが多くなります。
  • 分娩前に超音波やMRI検査で調べても癒着があるかどうかは判断が難しいことが多く、誰にでも起こることがあります。
  • 全体的な頻度はわずかですが、帝王切開の既往がある人の方に起こることが多く、子宮の帝王切開の傷跡に胎盤が付いている場合はさらに起こりやすくなります。

◯子宮内反症

  • 分娩後に胎盤が娩出される時などに子宮壁が裏返って内面が子宮口から外に出てきてしまうものです。数千から1万人に一人の稀な異常です。
  • 子宮壁が裏返る(内反)時には子宮は緩んでいると考えられます。内反した後に子宮が収縮すると自然には元に戻らなくなり、出血が多量に持続します。
  • 早い内に手で押して内反を直せれば直ぐに治りますが、難しいと麻酔を掛けて開腹手術で直す必要があります。

お産のリスク:最後に

  • 分娩周辺におこるかもしれない、いろいろな異常を列挙しました。起こりうる問題は他にもあるでしょうが、一回に紹介できる範囲も限られますので今回はこれだけにします。
  • 予防できないものも多く、稀なものもあり、心配ばかりしてもメリットがありません。こういった異常もあるんだということを知っていてもらえばそれで良いと思います。説明が理解しやすくなると思います。医療スタッフはこれらの異常の発生を警戒し、観察しています。起こったときの準備をして皆さんのお産を待っています。
  • それぞれの異常の詳しいことについては妊婦健診の時に質問して頂ければお答えします。
  • 「リスクの無い分娩は無い」ので「お産は命がけ」は本当ですが「案ずるより産むが易し」です。

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 産婦人科

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