当センターホームページをご覧いただいている皆さん、こんにちは。
産婦人科部長の坂井です。
今日は「妊婦健診のススメ」と題して、もうすぐお父さん、お母さんになられる方向けにお話をさせていただきます。
妊娠して赤ちゃんが育ってきていることが確認されたら、母子手帳をもらって妊婦健診を定期的に受けます。
お産になるまで妊婦健診は続きます。
特別におススメしなくても妊婦健診を受けるということはほとんどの方が知っていますが、ここでは妊婦健診や母子手帳についてお話しします。
母子手帳
母子手帳をもらう。
妊婦健診のスタートです。
妊娠反応が陽性になってから妊娠初期に流産(生きて育っている赤ちゃんがいない)になる割合は母体の年齢が高くなるほど上がりますが、全体的には10〜20%程度です。
もっと流産は少ないことだと思っていましたか?
流産になる率は意外に高いものだと思う人が多いようです。
心拍が確認されるところまで行かないで終わる流産が最多ですが、赤ちゃんの心拍が確認されたら、その後に心臓が止まってしまう(流産です)率は5%未満に減ります。
妊娠9週位まで育ってくれば流産率は3%未満、12週まで行けば1%程度に下がりますがその後は最後まで0%にはなりません。
初期の流産の原因は大半が胎児にあるため多くの場合母体の努力で防げるものではありません。
受精して細胞分裂が始まった時から染色体は決まりますから、大げさに言えばその後の運命はもうその時点でかなり決まっていると言うことです。
流産になったからと言って自分を責めることではありません。
母子手帳をもらうのは心拍が確認されてからが普通ですから、1つハードルを越えたことになります。
母子手帳は住んでいる市町村が発行しています。
住民票のある市町村の地域の保健センターや市役所、出張所に行き妊娠届出書を書いて母子手帳をもらいます。
東京ベイ・浦安市川医療センター周辺の市役所・区役所・町役場では母子手帳の発行に病院が出した妊娠の証明書などは不要です。
認印を持って行き、母子手帳が欲しいと言い、分娩予定日がいつかを記入します。
予定日に実際に産まれる人は少ないのであとで日付が多少変わっても構いません。
病院で言われた予定日を記入すればよいのです。
あと最近はマイナンバーの記載が必要になったそうです。
母子手帳には妊婦健診(正式には妊婦健康診査といいます)の記録や赤ちゃんが産まれたときの出産の記録、赤ちゃんの乳幼児健診(乳幼児健康診査)の記録や訪問指導・保健指導などのサービスを受けたときの記録、各種予防接種の内容・日付等の記録、その時々のお母さん(あなた)の気持ちや考えを書く欄などがあります。
赤ちゃんが産まれる前から出産、赤ちゃんが育っていく間の成長の記録、小学校に入るまでの記録が記されます。
母子手帳と一緒に別冊として受診券(数種類で計14回分程度)が渡されます。
妊娠の診療は正常経過なら妊婦健診もお産のための入院、分娩も自費です。
妊婦健診や正常分娩については保険診療の費用の規定というものがありませんから保険診療にできません。
もともとは全額自己負担ですから市民の自己負担をなるべく減らすように、市町村がそれぞれ決めた額の助成金を受診券の形でくれるのです。
市町村により助成額は多少異なりますが千葉県内はほぼ同額です。
妊娠出産をススメる少子化対策の一環ですね。
切迫早産、妊娠高血圧、妊娠糖尿病、帝王切開、などの外来・入院診療は異常(病気)の扱いになりますので健康保険(保険証を使って)で行います(一部自費)。
その他にも行政が住民に行うサービス、制度があるので必要な時はご相談ください。
加入している健康保険組合から出産後に出産手当金が出ますがそれを直接自分がもらわずに病院へ直接払いをしてもらい、出産後退院時に窓口で支払う金額を自分で立て替えなくても(手当金が自分に払い込まれるまで自分で全額を用意しなくても)済む制度などがあります。
妊婦健診
妊婦健診の中身
予約した日時に病院へ来て診察券を再診機に通し再診受付を済ませたら⑨番の中央処置室で尿検査(尿タンパク、尿糖)を提出して、産婦人科外来受付に到着を告げて診察を待ちます。
妊婦健診では何をするのかというと、母子手帳に記録するところがありますが、血圧、体重、子宮底長などと下腿のむくみをみます。
超音波診断装置で子宮内の様子をみて胎児心拍、胎動、羊水量、胎児の発育の程度を診察します。
妊娠37週以降の正期産期では子宮口の内診、胎児心拍数モニタリングなどが加わります。
妊婦健診は妊娠24週頃までは4週間ごと、以後は2週ごと、妊娠36週以降は産まれるまで毎週行います。
妊娠中には原則として初期・中期・後期の3回の血液検査と中期・後期に産道の菌の検査が2種類あります。
検査の時期と項目は全国おおよそ共通ですが病院により多少の違いがあります。
便秘やお腹の張りなど妊婦さんに起こりやすい症状に対して診察、処方をします。
切迫流早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧、その他の母体の合併症などの妊娠中の異常がないかチェックし、あれば検査・治療・指導などの対応をします。
医師の診察と並行して数回の健診に1回の割合で助産師の妊娠経過や分娩準備、入院の案内、母親学級・プレバース(両親学級)の案内、保健指導が行われます。
未受診妊婦
未受診分娩のリスク
未受診妊婦問題というものがあります。
妊娠に気づかない?、妊娠はしたと思うが産むかどうか迷って受診しないままでいる、パートナーに親に妊娠したことを告げられないでいる、経済的理由・家庭環境から受診困難などの理由で妊娠末期になって初めて産婦人科に受診、あるいは陣痛が始まって初めて受診というパターンが少数ですが見られます。
ほとんどの産科医院や病院はその段階からでは受け入れてくれません。
当センターも分娩予約した方のみの分娩を扱っています。
千葉県では周産期母子医療センターに指定された病院に受診して頂くことになります。
妊婦健診を受けていない妊婦さんは妊娠週数が何週なのか(予定日がいつなのか)わからず、そうなると胎児推定体重は計測できてもその時期の正常な大きさに発育しているのか判断できず、胎児に異常があってもわからず、前置胎盤や母体に妊娠高血圧や妊娠糖尿病などの異常が起こっているのかもわからず、いきなり分娩に望むことになると情報が無いことは大きなリスク因子となります。
実際に未受診妊婦の分娩で母体や胎児、新生児に問題が起こる例が発生しています。
妊婦健診のススメ
妊婦健診を受ける意義、メリット
妊婦健診で何をしているのかを前に書きました。
特に何かの異常を治療している訳ではありません。
たしかに正常が続くなら受診しなくても母児の健康に問題が生じる訳ではありません。
しかし、未受診妊婦問題の項に書いているように妊婦健診は妊娠が正常に経過しているのかチェックし、異常が発生したら早めに見つけ対策を行うことに役立ちます。
妊娠初期は各種血液検査を行い、血液型の確認、B型・C型肝炎ウイルスキャリアーでないか、HIV感染既往者でないか、糖尿病であることを知らずに妊娠していないか、風疹やトキソプラズマに感染する可能性を持っているかなどを確認します。
中期は子宮内の胎盤の位置の確認、胎児発育の評価、羊水量の異常の有無、クラミジア感染の有無などがわかります。
中期採血で妊娠貧血の有無、妊娠糖尿病の疑いがないかの糖負荷試験、産まれた児に感染させる可能性のある成人T細胞性ウイルスの抗体有無の検査をします。
随時切迫早産徴候はチェックします。
希望すれば特に詳しく超音波で胎児異常の有無をチェックする超音波胎児スクリーニングを受けられます。
妊婦健診で経過をみている途中に異常な症状や所見が生じた場合にはいつでも受診して診察・検査・治療が受けられるわけです。
後期には切迫早産徴候や妊娠高血圧の徴候、産道の細菌検査、早産期が過ぎれば胎児発育評価、内診で子宮口の出産に向けての変化の診察、胎児心拍数モニタリングで胎児の元気さの確認などを行い、分娩の日を待ちます。
産科医療も進歩を続け、周産期死亡率、分娩による母体死亡は世界的にも低いレベルになっていますがゼロではありません。
それをさらに低くし安全にお産を終えて頂くためにチェックすべきとされる項目は以前に比べ増えてきています。
以前より産科の管理が厳しくなっていますし、世間の産科医療に対する目も厳しくなっていると言えます。
妊婦健診を受けるのと受けないのとの差は大きくなっているのです。
母子手帳:つづき
母子手帳は生涯役立つ貴重な記録になります
母子手帳の情報は学校に上がってからも、時には大人になってからも参考とされるその人の貴重な記録になります。
よくあとから使われる記録は各種の予防接種・ワクチンの記録です。
もちろんお母さんと我が子の両方のことが書いてある思い出の記録にもなります。
大切にとっておきましょう。