こんにちは。診療看護師(NP)2年目の広田です。
本日は私が救急外来研修中に経験したちょっと変わった症状について紹介します。
ある日の早朝、左側腹部痛を主訴に、特に既往歴のない70歳代の男性が来院しました。
どうやら受診する前日の朝から嘔気があったため胃腸炎と思い、自身で意図的に数回嘔吐したようです。そして同日の昼頃から左側腹部痛を自覚しました。疼痛の場所は変化せず、だんだん痛みが悪化したため救急外来を受診しました。
主訴を腹痛とする疾患は多くあるため、疼痛の部位や性状を確認することが診断の鍵になります。右上腹部であれば肝臓や胆嚢の疾患、右下腹部であれば虫垂炎などの可能性が高くなるのはイメージがつきやすいと思います。では左側腹部となるとどうでしょうか?
左上腹部であれば胃や膵臓、脾臓などありますが、左下腹部となると主要な臓器がなくなるため、憩室炎やS状結腸捻転、鼠径ヘルニア、腎盂腎炎などが鑑別疾患として挙がります。しかし、完全に診断することは難しいため、緊急度の高い疾患を除外した後は憩室炎疑いなどとして経過観察することになる印象があります。
いずれにしても、より詳しい情報が欲しかったため問診と身体診察、腹部エコー検査を行いました。
患者さんの顔色や全身状態は悪くない印象で、自立歩行で診察室に入室してきました。ただ、腹痛のため座位でいるのは辛く、診察台に横になることを希望されました。診察台の上では仰臥位でいるほうが、腹痛が一番少ない様子でした。バイタルサインは安定しており、意識清明でコミュニケーションも特に問題なく取れました。そこで症状について確認すると、嘔気はあるものの自身で嘔吐した以外の嘔吐はなく、便秘や下痢はなく、生ものなどの摂取もなく、同居家族に同様の症状の方はいませんでした。
腹痛の性状について確認すると臥位でチクチク、立位でズキンズキンと引っ張られるような疼痛に変化するとの発言がありました。そこで身体診察の際に診察台をヘッドアップしてみると、再現性を持って座位・立位になった姿勢で腹痛が増悪しました。さらに腹部診察を進め、左CVAを叩いてみると腹部よりも背中の方が痛いことに気が付きました。腹部のエコーでは腹水貯留や腸管浮腫、腎盂の拡大など有意な所見はありませんでした。
左上腹部と聞くと真っ先に思い浮かぶ臓器は膵臓ですが、膵炎にしては痛みが比較的軽い印象でした。そして一番気になった点は体勢によって痛みの性状が変わるという訴えです。皆さんはどのような疾患を思い浮かべますか?また、どのような検査をするでしょうか?
私と指導医は積極的には疑わないものの、見逃すと重症となってしまう膵炎を否定するため、リパーゼを含む血液検査を行いました。また、体位で変化する腹痛については横隔膜の位置が体勢で変わることに由来するためではないかと考え、横隔膜に隣接する臓器に腹痛の原因があるのではないかと考えました。数回嘔吐した経緯も踏まえて食道破裂も鑑別として単純CTを撮影することにしました。
その結果は、、、リパーゼの上昇なく、膵炎及び食道破裂の所見も認めませんでした!
さて、どうしたものか。。。となりましたが、身体所見は裏切りません。
左上腹部にある横隔膜に隣接した臓器、そう脾臓です。脾梗塞も腹痛の鑑別疾患の一つであり、追加で造影CTを撮影したところ、脾臓に造影不良を認め、脾梗塞の診断にいたりました。
「そうか!脾梗塞からの腹痛だったんだ!原因がはっきりしてよかった!」と安心したと同時に、指導医から「ところでどうして脾梗塞になったんだろうね?」と発問がありました。。。さあ、皆さん、もう少しお付き合いください。
脾梗塞の原因として心房細動(Af)による血栓塞栓は有名ですが、患者さん来院時の心電図ではAfを認めませんでした。そこでさらに詳しく患者さんの話を聞くと、1ヶ月前に歯科治療を受けたことがわかりました。そこで血液培養を3セット採取すると翌日にはGPC chain陽性となり、心エコーで僧帽弁に疣贅を認めました。そう、脾梗塞の原因は感染性心内膜炎でした。
その後の治療内容や経過についてはここでは割愛しますが、患者さんは最終的に元気に退院したようです。

腹痛の原因については、検査をしてもよく分からないことをしばしば経験します。しかし、丁寧な問診で得た情報や身体所見と解剖学的な知識を合わせることで、症状の原因となる臓器がある程度推察できると実感した症例でした。
当院の診療看護師(NP)研修では、指導医の先生達からOJTで手厚い指導が受けられ、安心して多くの症例を経験でき、医学的な思考プロセスを学べます。興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
東京ベイでは、医師も診療看護師(NP)もその他の医療職も、スタッフ全員が「1人を全員で診る」の姿勢で治療にあたっています。
患者さんの「小さな声」に耳を傾け、わかりにくい異常や病気を見逃さないという気持ちこそ、今回のような難しい症例を適切に治療するために最も必要なことだと思います。
自分や自分の大切な人の命も安心して任せられる、「1人を全員で診る」チーム医療を目指していきますので、皆様これからも東京ベイ・浦安市川医療センターをよろしくお願い致します。