脳下垂体腫瘍 〜その目のかすみ、実は脳腫瘍かも!?〜

脳下垂体腫瘍 〜その目のかすみ、実は脳腫瘍かも!?〜

脳下垂体は全身のホルモンのコントロールセンター

脳下垂体は、その名前の通り脳の底から“ぶら下がっている”、女性の小指の先ほどの小さな器官です。脳とは細い茎(下垂体茎)でつながっています。鼻の奥の“トルコ鞍”という頭蓋骨のポケットのようなところに納まっていて、頭蓋内のほぼ中央に位置しています。様々なホルモンを作る細胞がたくさん集まっていて、全身のホルモンをコントロールする役割を担っています。
下垂体は前葉と後葉に分かれていて、その容積の多くを前葉が占めています。前葉からは、成長ホルモン、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン等が、後葉からは、抗利尿ホルモン、子宮収縮ホルモンが分泌され、身体の様々なバランスを調整しています。

脳腫瘍では3番目に多い下垂体腺腫

下垂体から発生する腫瘍は数種類ありますが、その中の大半を占めるのが“下垂体腺腫”です。下垂体腺腫は、下垂体前葉から発生し、大半が良性で、20~60歳の成人に多く、脳腫瘍の中で3番目に多い腫瘍です。下垂体近傍から発生するその他の腫瘍には、頭蓋咽頭腫、ラトケのう胞、胚細胞腫、髄膜腫等が存在します。

下垂体腺腫は体の色々な症状をきっかけに見つかります

「新聞や本が読みづらくなった、目が疲れやすい気がする」
「よく壁や人にぶつかる、横から来た車に気がつかなかった」
このような目の見えにくさに関する症状から下垂体腺腫が見つかる場合があります。

「あご、唇、舌などが大きくなって顔貌が変わってきた、手足の先端が肥大して靴や指輪が入らなくなった」(成長ホルモン産生腺腫)
「妊娠していないのに生理が来なくなったり、乳汁分泌が見られるようになった」(プロラクチン産生腺腫)
「よく汗をかくようになり、体重が減ってきて、胸がドキドキする気がする」(甲状腺刺激ホルモン産生腺腫)
「顔やおなか周りだけ丸く太ってきた、ニキビが出やすくなったり体毛が濃くなった」(副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫)
下垂体腺腫の種類によっては、これらのように特徴的な症状を呈することもあります。

下垂体腺腫には、ホルモンを産生するタイプ(ホルモン産生腺腫)と、産生しないタイプ(非機能性下垂体腺腫)が存在します。ホルモン産生腺腫は、産生されるホルモンの種類によってそれぞれ特徴的な症状がみられるようになるため、腫瘍が大きくなる前に受診して発見されることが多いです。非機能性下垂体腺腫は腫瘍が大きくなると、下垂体のすぐ近くにある視神経が圧迫されることで、主に両眼の外側の視野障害や、視力が低下することで発見されます。ホルモンは、身体にとって大切な役割をしていますが、多過ぎても少な過ぎても身体に悪影響を及ぼすのです。

低侵襲の神経内視鏡手術で治療ができます

薬物治療が効果的なプロラクチン産生腫瘍以外は、基本的に手術での腫瘍摘出術が第一選択です。下垂体腺腫の手術方法は大きく分けて2つ、Hardy手術(経蝶形骨洞手術)と開頭手術があります。
*Hardy手術(経蝶形骨洞手術)とは、鼻からアプローチして、下垂体が納まっているポケットの壁を開いて腫瘍を摘出する方法です(最近多くは内視鏡的手術)。

下垂体腺腫が巨大で頭蓋内に大きく広がっている場合を除き、基本的に内視鏡手術が可能です。内視鏡手術の場合、目に見える部分の皮膚を切開しないため、傷が目立ちません。また開頭手術に比べ低侵襲であり、脳や全身に対する負担が少ないため高齢者でも手術が可能です。社会復帰も早くできます。


巨大下垂体腺腫に対する内視鏡手術の一例

30歳男性で、甲状腺機能亢進症があり、CT、MRI検査で非常に大きな下垂体腺腫を認めました。血液検査で甲状腺刺激ホルモンが上昇しており、甲状腺刺激ホルモン産生下垂体腺腫と診断し、経蝶形骨洞手術(Hardy手術)を行いました。本例は巨大な腫瘍でしたが、低侵襲の内視鏡手術で摘出ができました。


◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 脳神経外科

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