前回(昨年9月)の連載では、当センターの脳血管内治療に関してご紹介させていただきました。今回は私ども脳神経外科が2012年の当センター開院時から心がけている、低侵襲治療に関してご紹介させていただきます。
完全無剃毛手術〜術後の外見はもちろん、感染防止にも優れる髪を一切剃らない低侵襲手術~
当センターで採用している完全無剃毛手術では、文字通り全く頭髪を剃ることなく開頭手術を行います。女性の長い髪でも短く切ったりしません。これにより頭部の傷は頭髪に隠れてほとんど見えなくなります。髪の毛を剃らないで手術をするなんて…、頭の中に菌が入らないかと心配される方もいらっしゃると思います。
ところが当センター開院以来、術後の感染率はわずか0.53%と極めて低い数字を維持しています。アメリカ合衆国の統計で、剃毛した場合の術後感染率5.6%と比べてもいかに低い感染率かわかります。もちろん術後感染を予防すべくそのほか様々な配慮や工夫を行っておりますが、無剃毛手術そのものに感染予防効果があると考えられます。全国的にも完全無剃毛手術を採用している病院は約15%程度とまだまだ少数です。
当センターで手術を受けられた患者さんからは、退院後美容的に気にすることなく、より早く社会復帰できたとご好評いただいております。
内視鏡手術〜小切開で可能な低侵襲脳外科手術〜
近年あらゆる医療分野において内視鏡により診断・治療がおこなわれているのは周知のとおりです。内視鏡本体はもちろん高精細のモニターなど周辺機器の進歩もあり、急速な勢いで普及してきました。脳神経外科領域でも内視鏡は低侵襲手術における重要なアイテムとして位置づけられています。
例えば脳出血(脳溢血)の手術では一般的に開頭手術が行われますが、当センターでは出血の状態により内視鏡手術も積極的に選択しています。
内視鏡手術の最大の特徴は、通常の開頭手術と異なり傷が小さくてすむ、つまり侵襲が少ないことにあります。脳出血に対する神経内視鏡手術では通常約3~4㎝の皮膚切開で頭蓋骨には1円玉程度の大きさの穴を開けて行います。
当センターでは、高齢者で全身状態の悪い患者さんの脳出血や、脳室という脳脊髄液で満たされた空間の中に広がった出血(脳室内出血)などを神経内視鏡手術の対象として低侵襲の脳外科治療に取り組んでおります。
当センターで内視鏡手術をおこなった77歳女性の頭部CT写真です。脳室内出血を合併した脳出血は、内視鏡手術により術後ほとんど除去されているのがわかります。