糖尿病って言われたときに出てくるHbA1cってそもそも何ですか?〜内科医がお答えするHbA1cと血糖値の関係〜

みなさまこんにちは。東京ベイ・浦安市川医療センター 腎臓・内分泌・糖尿病内科の北村です。「糖尿病って言われたときに出てくるHbA1cってそもそも何ですか?」、これは我々内科医がよく診察室で患者さんから受ける質問です。今日はこのよくある質問に対し、HbA1c自体がどんな物質であるのか、そしてそれが血糖値をどのように反映しているのか、糖尿病の診断と治療にどのように使われるのかをお話したいと思います。

1 HbA1cとは

まずそもそもこれが一体何を意味するのかと思われる方もいるかもしれません。おそらく特に病院に通院したこともなく聞いたことすらない人もいるかと思います。糖尿病の診療の上で現在、HbA1cは欠かすことはできない指標となっています。HbA1cは「ヘモグロビンエーワンシー」と呼びます。よく診察室では「A(患者)さんのエーワンシーは6.8ですので、経過良いですね。」「B(患者)さんのエーワンシーと状況から考えると糖尿病ですね」などと言い方を一部省略して使われています。

ではHbA1cとは一体何か。血液中には赤血球がありその中にヘモグロビンという酸素を運ぶための物質がありヘムとグロビンからなります。そのヘモグロビンに血糖が結合したものをHbA1cと呼びます。HbA1cが高いということは多くの糖がヘモグロビンに結合していることを指し、血糖が高いということを示します(図1参照)。

図1:赤血球と糖の関係

(https://fenfuro.com/hba1c-everything-you-need-to-know-about-it/より参照)

より専門的には図2参照のように、ヘモグロビンA0(血液中で酸素を運ぶ働き)の安定型の糖化産物であり、採血した時点から過去1,2ヶ月の平均血糖値を反映しています。その時瞬間の血糖の値を反映している訳ではないことに注意が必要です。簡単に覚えるなら、HbA1cは「過去2ヶ月程度の血糖値の推移を間接的に評価しているもの」と思ってもらえると良いかと思います。医療の現場においては、診断の際だけでなく、最近の糖尿病の治療が上手くいっているかどうかの指標に多用されています。

図2:血糖とHbA1cの関係

健常者の基準値は大まかに4.6-5.8%と言われています。ただ、この数値は血糖値以外に赤血球寿命からも影響を受けるため、HbA1cが実際の最近の血糖値に対して高めにでる場合や低めとなる場合があり注意が必要です。少し専門的な話になるので、簡単に表1で示します。ただ、HbA1cが高めになった場合は理由はなんであれ、病院受診を強くお勧めします。

表1:HbA1cが高くなる状況、低くなる状況

HbA1cが高めにでるHbA1cが低めにでるどちらにもなりうる
・急速に改善した糖尿病
・鉄欠乏状態
・急速に発症、増悪した糖尿病
・鉄欠乏性貧血の回復期
・溶血性貧血
・失血後、輸血後
・腎不全で増血剤(エリスロポエチン)使用者
・肝硬変患者
・異常ヘモグロビン症

もしHbA1cに馴染みが持てない場合は、平均血糖と比べて参考にしてみるとイメージが湧きやすいかと思います。ただこれも「平均」血糖であり、その時々の血糖ではないことに注意が必要です。

表2:HbA1cと平均血糖の関係

HbA1c %平均血糖 mg/dl
10240
9.5226
9212
8.5197
8183
7.5169
7154
6.5140
6126

(https://professional.diabetes.org/diapro/glucose_calcを参照)

では次に2つ目の質問である、「HbA1cが高いって、糖尿病ってことですか?」を考えていきましょう。結論からお答えすると、「HbA1cのみでは糖尿病と完全には言い切れませんが、糖尿病である可能性が高い」と言えます。

2 糖尿病の診断

表題にあるHbA1cが高いとはいくつからのことを指すのでしょうか。この背景には糖尿病がどうやって診断されているのかを知ることが重要です。

糖尿病とはインスリン(血糖を下げる体の中にあるホルモン)の作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝症候群と定義されています。よって糖尿病の診断のためには、高血糖が慢性に持続していることを証明することが必要です。また糖尿病は診断されたら今後生涯に渡ってうまく付き合っていかなければならない、即ち完治する病気ではないため、確定診断は慎重に行われます。

糖尿病の診断のフローチャートを図3に示します。糖尿病の診断のために重要なことは患者さんの自覚症状、血糖値、HbA1cです。例外が少なからず存在しますが、患者さんの多くは慢性の高血糖状態であるため、体からもたくさん糖を外へ出そうと、尿の中に糖が出るようになります(糖尿病という名前の由来です)。尿に糖分が含まれるようになると、尿自体が濃くなってしまいますが、体は尿の濃度もある程度一定に保つ機能が備わっているために、糖が尿にあるとその分水分もその分多めに含まれるようになり、結果的に一日の尿の量が増えてきます(多尿と呼ばれます)。その結果、いわゆる脱水状態になって喉が渇いたり(口渇)、その分水分をたくさん摂取する(多飲)などの症状を起こします。さらに血糖値が悪化すると体重減少まで来たします。

つまり、肥満傾向の方で、最近ダイエットしているわけでもないのにやせてきたな、というのは実は糖尿病などの病気が隠れていないか注意が必要な可能性があります。多くの患者さんはこのような症状を呈し病院へ来院されます。そこで受診いただいて血糖やHbA1cを測定させていただき、高値だと糖尿病と診断されることが多いです。

ただ図3にある通り、1回の診察のみで糖尿病と診断される方もいれば、複数回の受診を要する方もいます。

図3:糖尿病の診断のフローチャート

なお、糖尿病の診断において、数字上ではHbA1c 6.5%以上を「高い」と表現します。ただし、図3を見ればご覧の通り、HbA1cが正常範囲内であっても糖尿病と診断できてしまう可能性があります。また妊娠糖尿病のようにそもそも診断のためにHbA1cを必要としない場合もあり、HbA1cのみでは糖尿病の診断をすることはできないということも理解しておく必要があります。

糖尿病と診断されたら、合併症がないか、また生活習慣の改善以外に内服を行うのか、注射を行うのかなど様々なことを決めていく必要があります。ただ早期に発見し早期に介入すれば大きな制限なく治療していくことができる病気でもあります。ただ高血糖、HbA1cが高いままにしておくと、糖尿病による全身血管の合併症、代表的には神経障害(足の痺れなど)、網膜症(失明のリスクあり)、腎症(最終的に透析を必要とする場合もあり)が進行し、臓器障害の果てに生活の質まで著しく低下させてしまう恐れがあります。

3 最後に〜東京ベイ・浦安市川医療センターの内科医師から患者さんへ〜

今回はHbA1cを理解していただくことと、HbA1cから糖尿病の診断の一般論について説明しました。これまで糖尿病ないしその予備軍となった患者さんの中には、普段とは異なる症状があった方や、血液検査で血糖やHbA1cが高いと言われて来院された方など様々です。この文章を読まれた時点で健康に不安を感じている方がいらっしゃれば、是非、病院に相談してみて下さい。みなさまが健康に生活できるように手助けをさせてもらえればと思います。

参考文献:糖尿病診療ガイド 日本糖尿病学会編

文責:腎臓・内分泌・糖尿病内科 北村 浩一

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 腎臓・内分泌・糖尿病内科

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