Ⅰ. はじめに
国内の慢性透析患者数は増加の一途をたどっており、2015年12月の時点で32万4000人を超えています1)。
透析が必要になる末期腎不全への進展を阻止するためには、腎臓の異常を早期に発見することが大切です。
そのために母子保健法、1歳6ヶ月健康診査、学校保健法、労働安全衛生法、老人保健法などに基づいて検尿が行われています。
検尿は簡単な検査ですが、将来の腎不全の発症を占う上で非常に重要な検査です。
ところで、みなさんは検尿の検査結果について、正しい知識を持っていますか?
検尿の異常があっても、体の異常を自覚することは実は少ないのです。
潜血や蛋白尿が出ていても、「また来年異常が出たら、その時調べよう」という風になっていませんか?
今回は検尿、特に尿潜血や蛋白尿の意義、それらが陽性になった時にするべきことなどについてお話ししたいと思います。
Ⅱ. 腎臓の働き
腎臓の機能が正常である場合、尿素、クレアチニン、尿酸など体の老廃物を尿中に排泄し、それらの体内での濃度を一定に保ってくれます。
また、水分や塩分などのバランスの適正化も担っています。
これは腎臓に存在する糸球体(ろ紙のようなものを想像してください)で1日100 L以上の血液をろ過し、その99%程度をその後再吸収し、残りの1%程度を尿として排泄するという腎臓の精緻な働きによって支えられています。
尿酸が蓄積すれば人によっては痛風発作という形で現れ、水分や塩分の排泄がうまくいかなければ、むくみという形で現れることになります。
また、腎臓は体内で働く様々なホルモンの産生や活性化を担っており、これらは全身の臓器に作用しています。
つまり、腎臓は全身のバランスを整えており、その機能の低下により全身に様々な障害を起こしうる臓器ということになります。
高血圧症や糖尿病、膠原病などの病気がある場合、前述の糸球体やその他腎臓の組織へダメージを与えてしまいます。
その結果、将来透析が必要になるような腎機能の低下をきたすこともあります。
そのような異常を検出するために検尿、とりわけ尿潜血や蛋白尿の有無を確認することが重要になります。
Ⅲ. 尿潜血・蛋白尿とは?
ところで尿潜血や蛋白尿とはなんでしょうか?
尿潜血とは、血液中の赤血球が尿中に出てしまっている状態のことを指します。
赤血球は、血液中の血球成分であり、赤い色調で血液が赤いことの理由にもなっている物質です。
出血などで血液中の赤血球が減ってしまうと貧血を呈することがあります。
その赤血球が尿中に出ているのですが、通常これが持続的に尿中へ出ることはありません。
それは前述した腎臓にあるろ紙のような糸球体でこし取られるためです。
糸球体の構造が壊れて赤血球が尿中へ流出してしまったり、糸球体を通過した尿になんらかの原因で赤血球が混じることで生じます。
蛋白尿とは、血液中の様々な蛋白質が尿中へ出ている状態のことを指します。
蛋白質は体内では色々な働きをしています。
血管内に血液が充満することを助けたり、ホルモンとして体の様々な臓器へ働きかけたり、細胞の中で情報伝達を担ったりと、蛋白質なしでは人間が通常の生命活動を行うことは不可能と言っていいでしょう。
この蛋白質が尿中へ出てしまっているのですが、これも前述の糸球体の働きにより通常持続的に出ることはありません。
Ⅳ. 尿潜血・蛋白尿と透析の関係は?
症状がない尿潜血が持続する場合、長期的には末期腎不全へのリスクになります2), 3)。
ただより透析が必要となるような末期腎不全と関連があるのは蛋白尿の方です。
蛋白尿が多いほど透析が必要となるリスクが高く4)、心筋梗塞や脳血管疾患などの血管合併症の発症も多くなってしまいます5)。
健診で指摘された10年後の末期腎不全の発症率を見てみると、3+の高度蛋白尿では約10%、2+の中等度蛋白尿では約5%6)といずれも非常に高い数字です。
尿潜血及び蛋白尿ですが、いずれも続く場合放っておくことは望ましくありません。
Ⅴ. 尿潜血が単独で陽性になったとき
尿潜血が陽性になる場合、まずそれが糸球体の異常による血尿なのか、それ以外の臓器からの血尿かが問題になります。
血尿の原因として以下(表1)のような病気の可能性が考えられます(非常に稀な疾患も含まれており、症状や年齢などを加味して考えなければなりません)。
表1 血尿の原因疾患
腎臓(糸球体性を含む)に起因 | 原発性・続発性糸球体腎炎 |
血管炎 | |
間質性腎炎 | |
嚢胞性腎疾患など | |
腎血管の異常に起因 | Nutcracker現象 |
動静脈瘻 | |
血栓症・塞栓症など | |
尿路に起因 | 腎盂腎炎 |
尿路結石 | |
膀胱炎 | |
前立腺炎、前立腺肥大症 | |
腫瘍など | |
血液凝固異常に起因 | 血小板や血液凝固の異常など |
まず尿潜血が認められた場合、数日後に再検査を行い、一過性のものかどうかを見ます。
一過性のものであれば概ね問題はありません。
持続していた場合、それが糸球体によるものか、上記のように他の臓器由来のものかを分け、何の病気なのかをはっきりさせるために種々の検査を行っていくことになります。
ちなみに通常検尿で尿潜血が陽性になっても目で見て赤い尿であることは多くありません。
赤い尿が出た場合、膀胱腫瘍などの腎臓を出た後の尿管、膀胱、尿道など尿路に起因する疾患の可能性がやや高まるとされます。
いずれにせよ健診で尿潜血が指摘された場合は医療期間の受診が望ましいと言えます。
Ⅵ. 蛋白尿が単独で陽性、もしくは尿潜血と蛋白尿がいずれも陽性になったとき
蛋白尿が陽性なる場合、以下の疾患の可能性を考える必要があります。
表2 蛋白尿の原因疾患
病的意義のないもの | 生理的蛋白尿 |
起立性蛋白尿など | |
糸球体性の蛋白尿 | 原発性・続発性糸球体腎炎 |
糖尿病性腎症など | |
尿細管性蛋白尿 | 尿細管・間質の障害 |
その他 | ミオグロビン尿症 |
多発性骨髄腫など |
まず健診の検尿で引っかかった場合、病的意義のない生理的蛋白尿や起立性蛋白尿を除外する必要があります。
その際朝一番で取った尿を検査して、蛋白尿が持続していないことを確認できれば特に問題はありません。
問題は蛋白尿が持続している時です。
その場合、血液検査や検尿の再検を行い、上記で挙げた病気のどれに当てはまるのかを調べることになります。
前述したように持続する蛋白尿は末期腎不全の発症に強く関与するため、しっかり調べて早期に治療を行う必要があります。
治療法を判断する目的で腎臓の組織を一部取って顕微鏡で見る検査(腎生検)などを行うこともあります。
検尿で3+といった高度の蛋白尿を認めて、全身のむくみを伴っている場合、ネフローゼ症候群という病気の可能性があります。
前述した通り、高度の蛋白尿が持続する場合、中等度以下の蛋白尿に比べてより早期に末期腎不全を発症する可能性が高く、早期に診断を確定して治療を開始することが重要です。
尿潜血と同様、蛋白尿が陽性になった場合も、やはり医療機関の受診が必要です。
Ⅶ. まとめ
今回は検尿、とりわけ尿潜血と蛋白尿についてお話ししましたが、いかがでしたでしょうか。
何となく受診せずに放っておくのではなく、将来の透析を未然に防ぐためにも、健診で指摘された場合は一度医療機関を受診することをお勧めします。
今回のお話のポイントを下に示します。
・慢性透析患者は増加しており、透析の必要な末期腎不全の発症を防ぐためには健診における尿潜血・蛋白尿のチェックが大切です
・持続する尿潜血や蛋白尿は、透析の必要な末期腎不全の発症リスクです
・健診で指摘された場合は、尿潜血・蛋白尿いずれも一度医療機関を受診しましょう
引用文献
1. 日本透析医学会. わが国の慢性透析療法の現況 2015年末
2. Iseki K. Kidney Int 1996; 49: 800-5.
3. Vivante A. JAMA 2011; 306: 729-36.
4. Iseki K. Kidney Int 2003; 63: 1468-74.
5. Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium. Lancet 2010; 375: 2073-81.
6. Iseki K Kidney Int 2003; 63: 1468-74.
文責:腎臓・内分泌・糖尿病内科 坂井 正弘