低侵襲心臓手術(MICS)のエキスパートがいます
当センター心臓血管外科顧問の田端 実は、2020年3月時点で750例以上のMICS(ミックス)執刀経験を持ち、大学病院や民間病院での手術指導や、学会等での講演なども行っております。MICS(ミックス)では麻酔や人工心肺も通常手術とは異なるため、それらの専門的知識と技術が求められます。また、MICS(ミックス)の最大のメリットである早期退院・早期社会復帰を実現するには、術後管理やリハビリの役割が極めて重要です。東京ベイでは、外科医・麻酔科医・内科医・集中治療医(ICU)・臨床工学技士・看護師・理学療法士(リハビリ)がMICS(ミックス)チームとして一丸となり、質の高い低侵襲心臓手術を行っております。
また、前述のようにMICS(ミックス)には欠点もあるため、慎重な適応選択が必要です。綿密な術前検査の結果をもとに、利点だけでなく欠点も十分に説明したうえで、それぞれの患者さんに最適な方法を選択しています。
・ハートチームで個々の患者さんにとってベストな手術方法を選択します
・外科医だけでなく、麻酔医や臨床工学技士、手術室看護師もMICSのエキスパートです
・90%超の患者さんが無輸血で手術を受けておられます
・MICS後専用のリハビリプログラムで最短術後3日での自宅退院が可能です(ほとんどの患者さんが6日以内に退院しています)
MICS(ミックス:minimally invasive cardiac surgeryの略)とは
多くの心臓手術は、胸骨をすべて切って行いますが(図1)、胸骨をまったく切らずに(図2)、あるいは半分だけ切って(図3)行う心臓手術がMICS(ミックス)です。創が目立たない、体への負担が小さく早期退院・早期社会復帰が可能(最短で術後3日目で退院、術後10日目で職場復帰が可能)、輸血が少ない(当センターの無輸血率は90%超)といった利点があります。なるべく創を目立たなくしたい人、スポーツや体を動かす仕事をしている人、早く職場に復帰したい人などに向いている手術です。ただし、この手術には利点ばかりでなく欠点もありますので、すべての人に適しているわけではありません。詳細を次ページから解説していきます。
右小開胸アプローチ:完全内視鏡下手術または直視下小切開手術
内視鏡下MICSの詳細は以下のリンクもご参照ください。
内視鏡下MICSサイト
メディカルノートの内視鏡下MICS記事
(1)右小開胸アプローチとは?
右胸部の肋骨の間から操作をする方法で(図2)、当センターでは主に僧帽弁の手術や心房中隔欠損症の手術で行っています。男性では、乳頭の下、女性では乳房下縁のしわにそって、皮膚切開を置きます。当センターでは、3~5 cmの切開+5 mmの孔数か所で(図4)、内視鏡(胸腔鏡)を用いて行う完全内視鏡下心臓手術を行っています。ほとんどの施設では金属製の開胸器で肋骨を広げて手術を行っており、骨折や疼痛の原因となりますが、当センターではビニール製のカバー(図5)を当てるのみで、肋骨を切らず、折らず、広げずに手術を行っています。(当センターでも体格や手術の難易度によっては、5cm以上の切開で開胸器を使用して手術を行うこともあります。)
当センターの完全内視鏡下心臓手術は、ダヴィンチを用いたロボット手術と創の大きさが同等あるいはさらに小さく、入院期間も同等かさらに短く(最短術後3日で自宅退院)、コストは格段に低いという特徴があります。

通常の心臓手術と同様に人工心肺を使用します。右頸部の静脈と、右または左脚の付け根の動脈・静脈に管を挿入し(図6)、人工心肺に接続します。静脈の管から血液を回収し、機械で酸素を与えた後、動脈の管を通して、血液を体に戻します。脚の付け根の動脈が細い場合などは、動脈に人工血管を縫いつけて管を接続することもあります。心臓内操作が終了した後に、心臓を再び動かし人工心肺を止めて、これらの管を抜き去ります。首や脚の付け根の創はしわの方向に合わせて切るため、傷跡は目立ちにくくなります。

(2)右小開胸アプローチの対象となる手術
・僧帽弁形成術(自分の弁を温存して僧帽弁を修復する手術)
・僧帽弁置換術(僧帽弁を人工弁に置き換える手術)
・三尖弁形成術(自分の弁を温存して三尖弁を修復する手術)
・メイズ手術(心房細動の手術)
・心房中隔欠損症の手術
・大動脈弁置換術(大動脈弁を人工弁に置き換える手術)
*大動脈弁置換術は、完全内視鏡下ではなく開胸器で肋骨を広げる直視下手術になります。
(3)右小開アプローチの利点(通常の胸骨正中切開と比べて)
・創が目立ちません。
・創部の痛みが軽減されます。(ただし痛みは個人差があります)
・術後に胸骨が感染する恐れがありません。
・出血量や輸血量が少なくなります。
・術後の回復が早く、早期退院・早期社会復帰が可能です。
(4)右小開アプローチの欠点(通常の胸骨正中切開と比べて)
・手術時間が長くなります。
・脚や頸の血管は胸部の血管より細いため、人工心肺のカニューレで動脈または静脈を損傷する合併症が起こる可能性があります。
・動脈硬化が強い場合、脚の血管から血液を送ることで脳梗塞のリスクを高めることがあります。
・手術中に心臓が見えにくいこと、あるいは合併症対応が困難なことがあります。
※合併症が生じた場合、迅速かつ確実に対応するために、執刀医の判断で創を延長するあるいは胸骨を切開することがあります。また、心臓が見えにくい場合も同様です。手術の安全性を第一に考えて、常にこのような対応ができる体制を取っています。
(5)小児患者さんのMICS手術
心房中隔欠損症(二次口欠損タイプ)の患者さんは、中学生以上で体重40kg以上であればMICS手術が可能です。血管サイズが極端に小さい場合や他の先天性心疾患・血管奇形などを伴う場合は、MICS手術ができないこともあります。詳細はこちらをご覧ください。
(6)手術の費用
すべての手術に健康保険と高額療養費制度が適用されます。
☆完全内視鏡下手術 vs ロボット手術
創が小さいこと、肋間を広げないことなどはどちらも同じで、低侵襲度はまったく変わりません。ロボット手術が最も良いというような誇大PRもありますが、ロボット心臓手術が内視鏡下や直視下のMICS手術に比べて成績が良いというデータはありません。手術ロボットは人間の手首よりも複雑な動きが可能ですが、手術にとって極めて重要な触覚がなく、術者が心臓や血管の固さや弾力を感じることができません。
胸骨部分切開アプローチ
(1)胸骨部分切開アプローチとは?
胸骨を上半分または下半分のみ切開する方法で(図3)、当センターでは主に心室中隔欠損症の手術で行っています(弁膜症手術や心房中隔欠損閉鎖術などはほとんど内視鏡下右小開胸アプローチで行っています)。胸の真ん中に6-9 cmの皮膚切開を置きます(創の大きさは体格によって変わります)。右小開胸アプローチに比べると、美容的メリットはそれほどありませんが、骨を全部切る手術に比べると、創も小さく術後の骨の安定性が高くなります。内視鏡は使用せず、外科医が直接心臓を見ながら行います。
通常の心臓手術と同様に人工心肺を使用します。人工心肺の管は、胸部の大動脈と脚の付け根の静脈に入れます。静脈の管から血液を回収し、機械で酸素を与えた後、動脈の管を通して、血液を体に戻します。心臓内操作が終了した後に、心臓を再び動かし人工心肺を止めて、これらの管を抜き去ります。通常の心臓手術と同じく大動脈から血液を送ることもできるため、動脈硬化が強くても、脳梗塞のリスクを高めることがありません。
(2)胸骨部分切開アプローチの対象となる手術
・大動脈弁置換術(大動脈弁を人工弁に置き換える手術)
・僧帽弁形成術(自分の弁を温存して僧帽弁を修復する手術)
・僧帽弁置換術(僧帽弁を人工弁に置き換える手術)
・三尖弁形成術(自分の弁を温存して三尖弁を修復する手術)
・心房中隔欠損症の手術
(3)胸骨部分切開アプローチの利点(通常の胸骨正中切開と比べて)
・術後の呼吸機能がより安定します。(変わらないという報告もあります)
・術後に胸骨が感染するリスクが低くなります。(変わらないという報告もあります)
・出血量や輸血量が少なくなります。
・術後の回復が早く、早期退院・早期社会復帰が可能です。
(4)胸骨部分切開アプローチの欠点(通常の胸骨正中切開と比べて)
・一般的には手術時間が長くなります。(当センターではほぼ変わりません)
・手術時間が長くなります。
・創の目立ち具合や創の痛みはさほど変わりません。
・手術中に心臓が見えにくいこと、あるいは合併症対応が困難なことがあります。
※合併症が生じた場合、迅速かつ確実に対応するために、執刀医の判断で創を延長するあるいは胸骨を全切開することがあります。また、心臓が見えにくい場合も同様です。手術の安全性を第一に考えて、常にこのような対応ができる体制を取っています。
(5)手術の費用
すべての手術に健康保険と高額療養費制度が適用されます。