細菌検査室では感染症が疑われる患者さんの検体から起炎菌(感染症の原因となる菌)を見つけ名前を明らかにし、どの抗菌薬(菌を殺す、または増殖を抑制する)が効くのかを調べています。今回は患者さんより採取された検体からどのように菌の名前や効果のある抗菌薬を明らかにしているのか?検査開始から結果報告までの流れについて紹介します。
1 培養検査
患者さんから採取された検体(尿や喀痰など)を寒天培地(菌の発育に必要な養分を含み、寒天などで固められたもの)に直接塗りつけます。

孵卵器(菌を培養する為に内部を一定温度に保った装置)に寒天培地を24時間〜48時間入れてコロニーと呼ばれる菌の塊を発育させます。

培養によってできたコロニーを使って菌液を作りパネル(96個のウェルの中に菌の名前を決定する上で必要な生化学的項目と抗菌薬が含まれている)に分注します。パネルを自動測定装置に入れます。

2 同定検査
自動測定装置内で16〜42時間培養後、菌の名前が明らかになります。
菌がウェル内に含まれた炭水化物(GLU,SUC,SOR,RAF,RHA,ARA,INO,ADO,MEL)を発酵することで酸が生成されウェル内のPHが低下します。PH指示薬が反応して下の写真のように赤色→黄色に色調が変化します。

菌が産生する酵素によってアミノ酸(LYS)が分解されるとウェル内のPHが変化します。その結果PH指示薬が反応して下の写真のように無色→紫色に色調が変化します。

クエン酸(CIT)、マロン酸(MAL)などの基質を菌が代謝の炭素源として利用するとウェル内のPHが上昇します。その結果PH指示薬が反応して下の写真のように無色→青色に色調が変化します。

このように色調の変化を自動測定器が読み取り判定することで菌の名前が明らかになります。
ここでは菌の名前を決定する上で必要な生化学的性状の一部を例としてあげましたが、実際にはさらに多くの生化学的性状を調べており、様々な種類の菌に対応できるようになっています。
病気ごとに、検出頻度の高い菌というのは異なっているので、どのような菌が特定の病気を起こしやすいのか細菌検査技師は知っておくことが大切になります。
明らかになった菌の名前が感染症診断に大きく役立つので、菌の名前を正確に決定し臨床へ報告することが非常に重要となるのです。
私たちは検査結果をより正確に報告する為に日本臨床衛生検査技師会や機器メーカーが開催している外部精度管理に取り組んでいます。外部精度管理とはそれぞれの病院を対象に共通の課題や条件のもと検査結果を比較検討し、正確に検査がおこなわれているかどうか調査する取り組みです。
このような取り組みを行い、より正確な検査結果を提供できるよう努めています。
3 薬剤感受性検査
自動測定装置内で16〜20時間培養後、薬剤感受性(菌に対してどの抗菌薬が有効なのか、有効でないのか)が明らかになります。
下の黄色い枠で囲った写真のように抗菌薬の濃度が2倍ずつ希釈された系列が抗菌薬の種類ごとに設定されています。

菌の発育が阻止される抗菌薬の最小濃度を自動測定装置が読み取り、抗菌薬が有効であるのか、有効でないのかを判定します。
ウェルの底に白いかたまりが見られたものは発育ありとみなします。
下の写真は抗菌薬の最小発育阻止濃度が16となります。

菌の薬剤感受性を調べる事は感染症治療に貢献するだけでなく、耐性菌(抗菌薬が効かない細菌)を見つけ出すことにもつながります。耐性菌の検出を迅速に報告することで、報告を受けた医師や看護師は耐性菌が検出された患者さんに対して接触感染予防策や個室隔離などの感染対策を迅速に行えます。
このように細菌検査室では他職種と連絡を取り合いながら患者さんに安心な医療を提供しています。