患者さんを守る適材適所の抗菌薬使用 ~細菌検査室と薬剤師のチームプレー~

こんにちは、細菌検査室です。私たちの体は新型コロナウイルス感染症のようなウイルスだけでなく、細菌からも攻撃される可能性があります。そこで今回は、細菌感染の話題です。抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team、以下AST)における当センターの細菌検査技師と薬剤師の連携について紹介します。

近年、グラム陰性桿菌の耐性菌であるESBL(Extended spectrum β-lactamases)産生菌やAmpC産生菌などに加えて、これらの耐性菌の切り札となる治療薬でもあるカルバペネム系抗菌薬が効かない腸内細菌科細菌(CRE:Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae)の世界的な増加が問題となっています。抗菌薬を適切に使用しないと、これらの耐性菌は増加していってしまいます。

このような状況の中、感染症の治療が適切に行われることに加えて、耐性菌を減らすことができるように抗菌薬を正しく使おうと作られたチームがASTです。
ASTは主に感染症専門医や薬剤師、臨床検査技師、看護師などから構成されます。
患者さんへの抗菌薬使用が適切か監視・管理を行い、必要に応じて主治医へ適切な抗菌薬の情報をフィードバックしています。

感染症の原因となる菌はかなり多くの種類があり、抗菌薬もさまざまです。状況に応じて耐性菌を考慮に入れて抗菌薬を選択しなければなりません。ASTからより適正な抗菌薬を、より多くの症例で主治医に提案できるように、細菌検査室では感染症専門医だけでなく薬剤師とも密接に連携を取っています。

それでは今から皆さんに、細菌検査室での細菌検査技師と薬剤師のやり取りを交えながら活動の一部を紹介したいと思います。

薬剤師
さてさて…おはようございます!入院中の患者さんの抗菌薬使用をチェックしていたら気になったので、今日は入院中のAさんの喀痰のグラム染色を確認しに来ました!菌は見えますか?
細菌検査技師
おはようございます。こちらがそのグラム染色になります。Aさんの喀痰には腸内細菌様のグラム陰性桿菌が多数みえます。他の菌はいなさそうです。細菌感染による炎症の指標となる白血球も多数みられるので起炎菌(感染症の原因となる菌)である可能性も十分考えられますね。
薬剤師
この患者さんは前回1カ月前の入院時に尿と喀痰からEnterobacter cloacaeが検出されているんですよね。今回グラム染色でみえている菌が同じ菌である可能性も否定できませんよね?
細菌検査技師
Enterobacter cloacaeは人と動物の大腸に常在している菌種の一つです。元気な人に感染症を引き起こすことは稀ですが、免疫が低下した患者さんに対して感染を起こすことがありますし、院内感染症の原因となる菌としても知られています。今回の患者さんも入院中ですし、下気道に炎症があると思われるので可能性はありそうですね。またこの菌は他の腸内細菌科細菌と異なり、いくつかの抗菌薬に自然耐性を持っている菌なのです。もし起炎菌であるなら抗菌薬の選択には注意が必要ですね。
薬剤師
なるほど!もしEnterobacter cloacaeであった場合、現在主治医の先生が選択している抗菌薬が効かない可能性があって心配だったんですよね。抗菌薬が変更できるか主治医の先生と検討してみようと思います。ありがとうございました!

2日後…

薬剤師
先日の喀痰グラム染色でグラム陰性桿菌がみえていたAさんの培養結果はどうなりましたか?
細菌検査技師
培養の結果ですが予想した通りEnterobacter cloacaeでした!
先日薬剤師さんが主治医の先生と相談して変更した抗菌薬にも感性(抗菌薬が効く)という結果が出ています!ちなみに、変更する前の抗菌薬には耐性でした。
薬剤師
ASTの介入によって検査から起炎菌を想定すること(検査技師の役割!)で適切な抗菌薬選択(薬剤師の役割!)を推奨することができ、我々の連携で患者さんの適切な治療に繋げることができましたね!
現在使用している抗菌薬は広域スペクトラム(多くの細菌に効果があるが、漫然と使用すると耐性菌を発生させる可能性がある)です。菌の情報が判明したので、さらに狭域スペクトラム(より狭い範囲の細菌にのみ効果があり、広域スペクトラムの抗菌薬に比べて耐性菌の発生を抑えることができる)の抗菌薬に変更できるか(De-escalationといいます)主治医と検討してみます。

このように地道な作業ではありますが、状況に応じながら適切なスペクトラムの抗菌薬選択を行っていくことで、病院内全体の耐性菌を減少させることにつながるのですっ!

以上が細菌検査室における我々のやり取りの一部です。ASTでは感染症専門医が中心となって活動を行っていますが、このように細菌検査技師と薬剤師が直接連携を取ることもあります。これにより当センターではより多くの症例で適正な抗菌薬を主治医に提案することができています。広域な抗菌薬を適切な抗菌薬に変更してもらう、また逆に効果がない抗菌薬を効果のある抗菌薬に変更してもらう。目の前の患者さんを守り、さらに長期的に耐性菌の発生を少なくして院内の全ての患者さんを守っていくために我々は今日も多職種と連携しながらASTで活動を行っているのです。

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