病気の原因はどんな細菌?〜顕微鏡でのぞいてみよう!ミクロの世界〜

細菌検査室の検査技師です。今回は3症例を写真とともにクイズ形式で紹介します!我々細菌検査室は検査をする上で、ただ検査をするだけではなく、医師からの患者さんの詳細な情報があるとさらに良い検査ができる可能性があります。その様子を当センターの感染症内科織田医師とのやりとりを交えて、感じてもらおうと思います。

こちらで紹介する顕微鏡写真はグラム染色により細菌を染めたものです。グラム染色とは細菌検査の代表的な染色方法です。青い色素と赤い色素で染め分けることで色の違いによって菌を大きく2種類に分けます。青色に染まった菌をグラム陽性、赤色に染まった菌をグラム陰性と呼びます。さらに菌の形によって2種類に分かれ、球状の形をしているものを球菌、棒状を桿菌と呼びます。

ではさっそくですが、グラム染色でどんな菌が見えるのか?検査技師の私と感染症内科の織田医師とのやりとりを覗きながら、皆さんも一緒にお考えてみてください!

Case 1〜発熱を伴う右上腹部の違和感〜

Dr.織田
1週間前からの発熱と右上腹部の違和感が出てきた60代男性の検体です。症状の原因を調べるために腹部CTを行ったところ、肝臓に5cm大の膿瘍がありました。臨床的に疑っている病気は肝膿瘍、ということです。ちなみに、感染症は原因となる菌を突き止める作業が大事なのです!CTをジッと見ていても何もわからないので、膿を針で刺して取ってきて、菌がいるかどうかを検査するのが一番大事なのですっ!
…ということで、私のような1感染症内科医では肝臓の膿を採取できないので、その道のプロフェッショナルのスーパーDr.Fにお願いして、患者さんの肝臓に針を刺してもらって取ってきた貴重な膿なのですよ。
検査技師
菌の名前とどの抗菌薬に効くのかを調べるために、培養検査をするのですが、最終結果が出るまで2-3日はかかります。ですので、検査を出した当日にそもそも菌がいるのか?菌がいた場合にはどのような菌が推定されるのか?を知りたい場合に威力を発揮するのがグラム染色なのです。「迅速性」が1番の武器なんですね。
Dr.織田
肝膿瘍なので、グラム染色では例の「アレ」が見えることが多いはずなんですね。グラム染色を見る前に、ある程度想定しておくことが大事です。それぞれの病気ごとに、頻度の高い菌というのは異なっていて、どのような菌がそのような病気を起こしやすいか、医者は事前に勉強しておかなきゃダメなんですよ。じゃないと感染症を診る臨床力は身につかないわけで…(ブツブツ…)
検査技師
(被せ気味に)やっぱりアレですよね、はい。肝膿瘍は確かにアレが見えることが多いですね。どうぞ、先生お先に見てください(笑)。
Q1 グラム染色の写真
検査技師
ずんぐりしたグラム陰性桿菌が見えます。
Dr.織田
やっぱり、ほらっっっ!これはアレだ、肺炎桿菌に違いないっっっ!
検査技師
ですね。きっとアレ(肺炎桿菌)だと思います。
Dr.織田
これで、この菌を狙った抗菌薬を選ぶことが出来ます!いつもありがとうございます!
検査技師
じゃあ、後日培養で確認したらご連絡しますね(あ、もう去っていった…せっかちだなあ…)
A1
検査技師
例の「アレ」(正解)は、肝臓に感染した過粘稠性のKlebsiella pneumoniae(クレブシエラ・ニューモニエ、肺炎桿菌)でした!この肺炎桿菌は肝膿瘍の原因菌として一番多いとされています。その他にも肺炎、胆嚢炎・胆管炎、尿路感染症などを起こします。
コロニー(菌が集簇した白い盛り上がり)の写真→このネバネバ感が特徴的です。このネバネバの正体は細菌が分泌する莢膜多糖体という粘液物質です。莢膜多糖体の粘稠性が菌の病原性と相関すると言われているので、細菌検査室では写真のように菌の粘稠性の確認をしています。
Dr.織田
あ、このネバネバしている奴の中にすごい悪い奴がいて、肝膿瘍を作るだけじゃなく、脳や眼など全身の臓器に感染が拡がって、最悪命に関わることもあるんです。肝膿瘍+「ネバネバクレブシエラ」は要注意!です。

Case 2~尿道から出た白い膿の正体~

Dr.織田
こんにちは。今日は男性の尿道から出た白い膿を持ってきました。患者さんは20代男性で排尿痛も伴うようです。
検査技師
今日の検体は尿道からの膿ということですね。
Dr.織田
はい、病気としては尿道炎を疑っております。尿道炎の原因となる菌は、あの2つが有名です。病気ごとに、頻度の高い菌というのは異なっていて、どのような菌が特定の病気を起こしやすいか、医者は勉強しておかなきゃダメなんですよ。じゃないと感染症を診る臨床力は身につかないわけで…(ブツブツ…)。
検査技師
(あ、この前と同じこと言ってる…)なるほど、わかりました。今回もまずグラム染色をやってみましょう。疑っている2つの菌のうち、片方はグラム染色で見えて、片方は見えないはずですね。
Dr.織田
さすがです。あと、保存するときには冷やさないように、でしたよね?
検査技師
そうですね!常温で保存しておきましょう。では先生、顕微鏡を覗いてみてください。
Dr.織田
おおっ、見えるっ!見えるぞっ!!!これで原因菌がわかりました。ありがとうございます!治療してきますっ!
検査技師
(また行っちゃった…)
Q2 グラム染色の写真
A2
検査技師

この写真では、赤くて丸いグラム陰性球菌が見えますね。

正解は、尿道に感染したNeisseria gonorrhoese(淋菌)でした!そら豆状と表現される球菌が2つ連なった形が特徴的です。写真では菌が白血球の中に観察されています。これは貪食と言って微生物などの病原菌を白血球が取り込み、分解し殺菌している様子です。淋菌は冷所に弱い菌なので、疑っているときには、冷やして保存するのは避けなければなりません。

Dr.織田
尿道炎を起こす有名な2つの菌は、淋菌とクラミジアです。淋菌はグラム染色ではこの様に赤くて丸い菌として確認でき、クラミジアはグラム染色では見ることができません。この2つは共感染といって2つ同時に存在していることも稀ではないので、片方を診断したら一緒に治療するのが原則ですね。今回もグラム染色で迅速な診断ができました。

Case 3~微熱が続いて咳と痰が目立ってきたら~

Dr.織田
おはようございます。今日はですね、1ヶ月くらい前から微熱と食欲低下がある70代男性がですね、咳と痰が増えてきて、内科の先生の外来に来たようで相談されたんです。その痰のグラム染色を見て欲しいんですよ。何か嫌な予感がしましてですね、ハイ。レントゲンの影がちょっとね…ここは日本ですからもしかするとあの菌が原因かもしれません。
検査技師
(ここは日本ですから??えっ、日本特有の病気?どういうことだろう?)先生の嫌な予感はあたりそうで怖いですね…。わかりました。やってみましょう!
Dr.織田
グラム染色で菌が見えるといいんだけどね…逆に見えなかったら嫌なんだよね…。
検査技師
??…なるほど。ちょっとじっくり見てみましょうか。
Dr.織田
お願いします!
Q3 グラム染色の写真
あれ?菌がみえません、しかし染色色素が抜けた所に桿菌のようなものが見えます。
検査技師
先生、グラム染色では菌が見えませんね。
Dr.織田
あー、やっぱり…じゃあ、例の所見は見えますか?例のやつ。
検査技師
顕微鏡でまるで幽霊のように色素が抜けた形ですか?
Dr.織田
さすが!そう、その幽霊。
検査技師
…幽霊いますね。結構いますね。これはチールネルゼン染色を追加しましょう。
Dr.織田
くっっっ…やはりここは日本だな…。
検査技師
いや、当然ここは日本じゃないですか…(あ、また行ってしまった…)
A3
検査技師
正解は、肺に感染したMycobacterium tuberculosis(結核菌)でした!
結核菌はグラム染色では染まらない為、染色色素が抜けた桿菌が観察されます。このように染まらない桿菌が幽霊を連想させる為、Ghost mycobacteria と言われたりします。 チールネルゼン染色という特殊な染色を行うと結核菌は赤く染まり顕微鏡で観察できるようになります。
チールネルゼン染色の写真
結核菌が赤く染まって見えます。
Dr.織田
さて、ここは日本だな…の意味ですが、残念ながら日本は先進国の中では結核が多い国なのです(中蔓延国とされています)。肺結核で、痰の中に結核菌がいる状態だと、人に結核菌を移してしまう危険性があり、公衆衛生上も重要な病気なのです。特徴的な症状に欠けるため、診断が難しいことが多く、知らず知らずのうちに移してしまうリスクがあるので、早期診断が重要です。早期診断のために、医師が疑えなくても今回のように細菌検査技師さんがグラム染色で「幽霊」を発見して発覚することもあります。感染症内科医として本当に助かります。

おわりに〜検査技師の視点から〜

顕微鏡でのぞいたミクロの世界、いかがでしたでしょうか。細菌検査室の日常を、少し感じていただけましたでしょうか。
普段の検査ではなかなか気づかないことを医師の違った視点から指摘をもらって気づかされることもありますし、逆に臨床の視点では気付きにくかったことを顕微鏡所見から指摘できることもあります。そのためには日頃から臨床医と検査技師が密にコミュニケーションをとり、ともに知識を高め合うことが重要です。
これからも、より良い医療が提供できるように当センターでは多職種が連携して1人1人の患者さんの検査、治療にあたって参ります。

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター  臨床検査室

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