より良いゴールを目指すために〜ICUにおける多職種カンファレンス〜

以前のweb通信でICUでは毎朝多職種が集まり回診を行い、その日のゴールを決定していくというお話をいたしました(2017.10.23掲載)。今回のweb通信は、その日の短期的な方針だけでなく、中長期的な方針を決定する多職種カンファレンスについてお話しします。

多職種カンファレンス〜患者さんにとって最適の医療を提供するために〜

当センターでは、入院などの患者さんに関わる医療多職種チームが集い、患者さんにとって最適の医療を提供するためにどのように協力できるかを話し合っています。我々ICUでも、患者さんに関わる主治医科の医師、集中治療医、看護師、リハビリ療法士、薬剤師、栄養士、MSW、臨床工学士などにより多職種カンファレンスを行い、患者さんにとってより良いゴールを提供できるように話し合っています。

病状がよくなっていく時には、患者さんやご家族、医療者たちの目標とするゴールが同じ方向を向き、スムーズに方針を決定できますが、残念ながら、ICUには良い経過をたどる方ばかりが入室しているわけではありません。突然発症した予期せぬ重症疾患によりICUに入室した場合や、予定手術でも元々のリスクが高いなどで以前の生活には戻ることが困難なことが予想されるケースも、しばしば経験されます。またICUに入室する患者さんの中には、人工呼吸器管理や鎮静薬の投与により自分の意見を周りに伝えることが難しい方が多くいます。このような場合、患者さんやご家族の希望されるゴールと、実際に達成できるゴールに相違が認められたり、また治療に関わる医療者間でも目標とするゴールに若干の相違が生まれてきたりします。

「臨床倫理4分割」を用いた患者-医療者間の治療ゴールの共有化〜「本人の意向」が最重要〜

我々のICUでは、Jonsenらが示した「臨床倫理4分割」を用いて、それらのギャップを埋め、最終的に患者さんにとって最適の医療を提供できるように努めています。

簡単に「臨床倫理4分割」を説明すると、「医学的適応」「患者の意向」「QOL」「周囲の状況」という4つの項目の検討を行います。「医学的適応」では、主に医師から現在の医学的状況および今後の病状についての見通し、新たに治療をすることで受けられる恩恵や成功しないリスクについて情報が提供されます。「患者の意向」では、特に患者さん自身の現在の状況の理解、意向に加え、それが確認できない場合には、それまでの生きてきている中でどのように治療方針を決定することが本人らしいと言えるかという情報がないかなどを話し合います。

「QOL」は現在の状態における生活の質はどうか、治療を行うことにより得られる生活の質の改善や今後も続くであろうと考えられる生活の質の悪化など、現時点で介入ができることについて話し合います。「周囲の状況」では、ご家族の意向や受け止めが方針決定の要因となるか、医療者側の要因はあるか、財政的などの問題はどうかなどについて話し合います。

特にこの中で最重要と考えられるものは、「患者の意向」です。ICUという環境ではなかなか全患者さんにご自身の意向をしっかりと話していただくことは困難ですが、ご家族などからのお話やこれまでに接してきた医療者からのお話から、ご本人の意思を推定しています。その上で他の3要素にある情報を集め、その時点で考えられる患者さんにとって最適の医療についての方針を話し合い決定します。その方針をもとに、患者さんやご家族と再度お話をすることで最終的にみんなが良いと思うゴールを決め、それに向け治療を進めていきます。

残念ながらICUに入室する前のような生活に完全に戻ることが困難な場合でも、できることはまだ残されています。「全力を尽くして治療を続けたい」、「コミュニケーションが取れるのであれば頑張りたい」、「十分頑張ったので、これ以上は苦痛を伴う治療はせずに自然に任せたい」。どういった治療方針を選んだとしても、患者さん、ご家族、医療者全員ができるだけ同じゴールを向いて、最適の医療を提供できるようにしています。

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科(集中治療部門)
◆ [東京ベイweb通信より] 毎朝ベッドサイドに全職種全員が集まる!〜東京ベイICUの回診スタイル〜

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