その症状、もしや梅毒!?〜手の平、足裏のブツブツ、陰部のデキモノを見てしまったら〜

その症状、もしや梅毒!?〜手の平、足裏のブツブツ、陰部のデキモノを見てしまったら〜

1.はじめに

こんにちは、感染症内科の織田 錬太郎です。
梅毒という病気、一度は耳にしたことがあると思います。詳しくはわからないけど、梅毒ってかかったら何となく嫌な病気だな〜、くらいに感じているはずです。
「梅毒ってそもそも何ですか?」
「梅毒は昔の病気でしょ?」
「今何も症状ないのに梅毒!?」
「梅毒で仕事しても大丈夫ですか?」
「一回治ったら大丈夫ですよね?」・・・
実際に、このような質問を受けることがあります。このように梅毒をしっかりと理解している人、多くないのです。(実は我々医者も・・・)今、日本で梅毒は少し厄介なことになっています。ですので、今回は梅毒について簡単にご紹介しようと思います。

なぜ梅毒なのか?というと、実は今、日本で急増中なのです。昔は多く報告されていましたが、近年の梅毒患者数は年間約500〜800人で推移していました。しかし、2013年を境に国内の梅毒患者数は1000人を越え、2016年は5000人近く、2017年は中間報告で5000人を越えています。(図参照)

このように国内で梅毒患者数が激増しているのには何か理由があるのでしょうか?今のところ何か一つの大きな要因は定かではなく、複数の要因が関連して梅毒患者数の増加をきたしているものと考えられています。しかし、厳然たる事実として我が国が梅毒の猛威にさらされており、日常の中で誰もが梅毒になる可能性はあるのです。梅毒といえばかつては男性の病気というイメージがあったかもしれませんが、最近では若い女性の梅毒患者が増加しているという報告もあり、老若男女問わず梅毒という病気を正しく理解しなければなりません。
特に感染症内科医として私が皆さんに必ず知っておいてほしいポイントは、若い女性が梅毒に感染した場合の妊娠の問題です。妊娠中に梅毒に感染していると、適切に治療されない場合はもちろん、適切に治療したとしても妊娠の経過に悪影響が出たり(流産、早産など)、産まれてきた時点で赤ちゃんが梅毒に感染しているなんて悲劇も起こり得ます(先天梅毒)。このように梅毒は、現代日本において再び勢いを取り戻して問題となっている恐い感染症なのです。

2.梅毒はどんな病気?

次に、病気の詳しい話をしていきましょう。梅毒はTreponema pallidum(トレポネーマ・パリダム)という菌が、主に性行為によってヒトに侵入して発症する性行為感染症の1つです。一般的に日常生活では性行為以外ではうつりません。感染者と性行為を行うことで、感染します。

①最初は、性行為で直接侵入した部位に病気ができる!(1期梅毒)
まずは性行為の数週間後に、感染部位(多くは陰部や口の中)にしこりや潰瘍ができます。「そんなのできたら病院に行くでしょ!」・・・と思うかもしれませんが、梅毒のデキモノは痛くも痒くもないので、放置してしまうことが多く、しかもそれで自然と良くなってしまいます(受診契機を逃す不幸)。また、デキモノができているこの時期には、鼡径部(太ももの付け根)のリンパが腫れることもありますので、太ももの付け根にしこりを見つけたら要注意です。

②侵入したら、菌は全身へ!(2期梅毒)
しばらくすると、菌は血液の中に入り全身に広がるので、熱やぶつぶつが出たりします。「ぶつぶつも出たら病院に行くでしょ!」・・・と思うかもしれませんがこの全身のぶつぶつも痛くも痒くもなく、自然と治ってしまいます。病院を受診しても、これらの症状(発熱、皮疹、リンパ節腫脹など)は他の感染症や薬の副作用などでも出るので、医師が診断できない場合もあります。(残念ながら、梅毒をしっかり診れる感染症専門の医師は多くありません・・・)ただ、このぶつぶつが手のひらや足の裏に出るのは比較的特徴的であり、梅毒を疑うきっかけとなります。(写真参照)

③症状は無くなるけど、感染はしている状態へ!(潜伏梅毒)
これらの時期が過ぎると、無症状でも感染しているという状態になります。手術の前の血液検査などで偶然診断されることはありますが、症状がないので病院に行くきっかけがなく、診断するのが難しい時期です。その後、長い経過(数年〜数十年)で、認知症のような症状、手足の麻痺、動脈瘤などの合併症を起こすことがあります(晩期梅毒)が、近年では遭遇することは稀です。

このように、梅毒は治療しないと早期梅毒(1・2期梅毒)→潜伏梅毒→晩期梅毒という経過で病気が進んでいきます。診断につながる症状があり、合併症の少ない早期梅毒の時に診断して治療するのがベストであることがわかりますね!

3.梅毒はどうやって診断するの?

一般的に、感染症の原因となっている菌を我々はどうやって捕まえて診断しているかというと、感染している場所から検体を採って、培養します。例えば、肺炎の人であれば、適切な痰を培養して、菌が生えてくればこれが肺炎の原因菌である、というようになります。しかし、梅毒を起こすTreponema pallidum(トレポネーマ・パリダム)という菌は、この培養検査で直接捕まえにくい菌なのです。
そこで、梅毒は主に診断は血液検査で行います。具体的には症状に加えて、2種類の血液検査(トレポネーマ検査:TPLAなど、非トレポネーマ検査:RPRなど)の結果の組み合わせで感染時期や活動性を判断します。しかしお話した通り、直接感染症の原因菌を捕まえているわけではなく、菌と人体の免疫反応を間接的に見ているものなので、判断が難しい時もあります。これが梅毒の診断を難しくしている1つの原因でもあります。(ココがややこしくて、お医者さんですら混乱します・・・)

4.梅毒ってちゃんと治るの・・・?

診断がついたら、倒すべき敵は菌(Treponema pallidum)なので、抗菌薬で治療します。

ちなみに脱線しますが、風邪に抗菌薬は効きません。
「ええッッッッッッッッ!?」なんて言わないでください…。風邪は「ウイルス」が引き起こす病気なので、菌(細菌)を殺す抗「菌」薬は効かないのです。日本ではこれまで歴史的に病院に行くと抗菌薬を処方すること、されることが当たり前の文化がありました。その中にはもちろん抗菌薬が必要な状況もありましたが、そうでない状況も多く含まれていたのです。しかし、これらの抗菌薬の乱用というツケによって、現在抗菌薬の効かない耐性菌が問題になっています。抗菌薬は適切な感染症に使用するべきであるという正しい理解が必要であり、医療者側も患者側も変わるべき時が来ています。

脱線しましたが、梅毒の治療の話に戻りましょう。繰り返しますが、梅毒は菌なので抗菌薬で治療します。具体的には、ペニシリンで治療します。
「ぺ、ペニシリン・・・!?」
そうです。皆さん聞いたことありますよね? 世界で一番有名といっても良い抗生物質、あのペニシリンです。ペニシリンは1928年にイギリスの細菌学者であるフレミングが発見した最初の抗生物質です。こういうと意外と多くの患者さんが「えっ?そんな昔の古い薬で大丈夫なんですか?」と言いますが、ご安心ください。ペニシリンは現代でも実用性のある素晴らしい抗菌薬です。そして、梅毒は世界ではペニシリンの筋肉注射を1回または2回で治療できます。
そんな簡単に治療できるのか!!と思いますよね。でも・・・世界では、です。
無いのです、日本にはその薬が。
つまり、治療実績のある薬で、日本では梅毒が治療できないのです。このような状況なので、日本では代わりにペニシリン系抗菌薬の飲み薬(アモキシシリンなど)で治療します。飲み薬は1日3回、しかも長く(2週間〜1ヶ月くらい)・・・。さらに状況によっては、入院で点滴2週間です。世界では外来で1回筋肉注射するだけで治療できるのに、日本では最悪入院までしなければならないのです。このような日本の治療状況も、梅毒の増加に関連しているかもしれません。1日3回、多い錠数の薬を2週間飲み続けるのって、意外と大変ですから・・・

5.梅毒は治療して終わり、ではダメ! 〜何度でもかかる梅毒〜

治療が終わっても油断してはいけません。なぜなら、梅毒は何度でもかかります!
避妊具を使わないようなリスクの高い性行為を避けるのも重要ですが、梅毒が疑われたら自分だけでなくパートナーも受診して、検査をすることが非常に重要です。梅毒の検査が陽性であれば、同時に治療が必要になります。そうしないと、片方は治療したけど、また片方からもらって、また治療して、またもらって・・・なんてことになりかねません。
また、性行感染症は複数の病気が同時に存在している可能性もあるので、梅毒以外の検査(クラミジア、淋菌、HIV、肝炎ウイルスなど)も合わせて行うことも重要です。

6.まとめ〜日本人のための梅毒の見つけ方と治し方〜

以上、簡単ですが近年日本で急増している梅毒について代表的な症状と見つけ方、治療法についてご説明させていただきました。なんとなく、イメージがついたでしょうか?

最後に、梅毒を早期発見、治療するために知っておいてほしい4つのポイントをまとめます。

ポイント1) 実は多い!?国内患者急増中
梅毒は日本で急激に増えています。

ポイント2) 痛くも痒くも無い!?気づかず放置するリスク
症状がなくても人にうつります!
症状があるうちに診断・治療するのが大事です。

ポイント3) どんな症状!?こんなデキモノ見たら要受診
陰部のしこりや潰瘍、手のひら・足の裏のぶつぶつは梅毒かも?痛くも痒くもなくても、放置しないように受診を。

ポイント4) どんな治療!?飲み薬だけの通院治療でOK
ほとんどの梅毒は飲み薬だけで治ります。でも、何度でもかかります。梅毒と診断されたら、パートナーも一緒に受診して治療を。

「こ、このブツブツ・・・陰部にデキモノ・・・梅毒かも!」
と思ったら、しっかり梅毒を診断、治療できる感染症内科医にご相談してください!

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター 感染症内科

メニュー