ハイブリッド冠動脈治療:低侵襲手術とカテーテルのWin-Win治療法

ハイブリッドって何?


世間には様々なハイブリッドが存在します。ハイブリッドの語義は「雑種」や「異種のものを組み合わせたもの」と定義されています。例えば、イノシシと豚の組み合わせがイノブタです。馴染み深いとことですとモーターとエンジンの組み合わせによるハイブリッドカーが挙げられます。冠動脈の治療においても同様にハイブリッド治療法があります。本頁では当院で行っているハイブリッド冠動脈治療を紹介します。

冠動脈治療におけるハイブリッド


虚血性心疾患(心臓を栄養する冠動脈が閉塞する病気;心筋梗塞や狭心症が代表的)の治療方法として外科的手術(冠動脈バイパス術、心臓外科医が担当;詳細はこちら)とカテーテルを用いた方法(バルーン、もしくはステント留置、循環器内科医が担当)があります。冠動脈治療におけるハイブリッド治療とは小切開冠動脈バイパス術(MIDCAB;minimally invasive direct coronary artery bypass, 低侵襲直視下冠動脈バイパス術)とカテ―テル治療を組み合わせたものを指します。

ハイブリッドは双方の利点を活かし欠点を補完する治療


バイパス術の利点としては、内胸動脈(胸壁の裏にある血管)を用いたバイパス術はどの治療方法よりも血管が長持ちする点が挙げられます。欠点としては、胸骨を切開する従来の冠動脈バイパス術は切開も大きく体への侵襲はどうしても大きくなります。カテーテル治療の利点は、切開する必要がないので体への侵襲が小さい点です。ステントの進歩も目覚ましく、新世代のステント開存性は大伏在静脈(下肢の静脈)を用いたバイパス術と遜色ありません。欠点としては、血管の石灰化が高度な場合、複雑な形態、血管が複数カ所に及ぶ場合は治療が困難な場合があります。このようにバイパス手術とカテーテル治療には両者ともに利点、欠点がありますが、ハイブリッド治療は両者の長所を活かし、お互いの短所を補完できる治療方法です。

小切開の冠動脈バイパス術(MIDCAB;ミドキャブ)とは

通常の冠動脈バイパス術は胸部中心にある胸骨という骨を切開します。一方でMIDCABは胸骨を切開することなく、側胸部に小切開を入れ肋骨の間から手術を行います。ハイブリッド治療は先述したように通常の冠動脈バイパス術ではなくこの低侵襲手術のMIDCABとカテーテル治療を掛け合わせたものを指します。

MIDCABの特徴


MIDCABの利点としては創部感染が少ない、輸血量が少ない、創部痛が少ない、コスメティックに良い、入院期間が短い、社会復帰が早いなどの利点が挙げられます。一方でバイパスできる冠動脈が限られる(基本的に左内胸動脈と前下行枝の1本バイパス)、肺疾患(慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎など)、解剖的制限(胸郭変形、著明な心拡大など)を有する患者さんには不向きであることが挙げられます。手術の適応については冠動脈造影検査に加えて、CT検査、肺機能検査などを施行し、心臓血管外科医が診察した上で判断します。

ハイブリッド治療の実例紹介

地域の病院を受診された87歳女性です。患者さんは労作性狭心症、虚血性心筋症と診断されました。冠動脈は複数カ所に狭窄があり(3本の冠動脈すべて)、さらに心臓機能も著明に低下していました。(左室駆出率EF27%で健常な心臓の半分以下)。冠動脈の前下行枝(心臓前面を走行する最も重要な冠動脈)は高度に石灰化しており、この血管をカテーテルで治療するとなると危険性の高いカテーテル治療になることが予想されました。一方で患者さんは87歳と高齢であり、通常の胸骨を切開する冠動脈バイパス術だと侵襲が大きすぎると考えられました。この患者さんに対して、当院ハートチーム、ご紹介元の循環器内科医師と協議した上でハイブリッド治療を選択しました。

まず当院にてMIDCAB(前下行枝にバイパス術)を行い合併症なく術後7日で自宅に退院されました。その後、紹介元の病院にて残りの冠動脈狭窄(3本のうち2本)に対してカテーテル治療を行いました。87歳とご高齢でありましたが、胸骨切開を回避することで体力低下を来すことなく、かつカテーテル治療を組み合わせることで狭窄した血管すべてに対して治療を行うことができました。

治療する病院について;カテーテル治療を行っていない病院からのご紹介の場合は当院にて手術とカテーテル治療の両方を行うこともできます。

様々なハイブリッド治療方法

本項では冠動脈におけるハイブリッド治療法について説明しましたが、ハイブリッド治療には様々な可能性があります。当院で行っている弁膜症に対する低侵襲治療(詳細はこちらTAVI;タビ、MICS;ミックス、Mitraclip;マイトラクリップ)と合わせることで弁膜症と冠動脈疾患を併発している場合でも低侵襲治療ですべてを治療できる可能性があります。(適応に関しては当院ハートチームで十分に協議した上で決定します。必ずしも低侵襲治療のハイブリッドですべての患者さんを治療できるわけではありませんのでご留意ください。)

まとめ


冠動脈におけるハイブリッド治療法はバイパス手術(外科医担当)とカテーテル治療(内科医担当)の利点を活かし、それぞれの弱点を補完する新しい形の低侵襲治療法です。地域連携をしっかりと行っている当院ならではの病院間ハイブリッド治療法も可能です。ご興味、ご質問のある方はお気軽にお問い合わせください。

文責 伊藤 丈二

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