辞書を引くと、“動悸”とは「胸がどきどきすること。心臓の鼓動が平常よりも激しいこと。」とされています。動悸がすべて病気なのかと言うと、我々は緊張したり、体を動かしたりしても動悸を感じることがあり、経験的にこれらは病気でないことを知っています。しかし、確かに病気により動悸が生じている場合もあります。

一言に動悸と言っても、実はいくつかのパターンがあることに気がつきます。
あなたの感じている動悸はどのようなパターンでしょうか。




当センターで治療した患者さんを御紹介します。50代の女性の方でしたが、受診1年ほど前から動悸を認めるようになりました。当初は持続時間が1~2分程度でしたが、徐々に延長。海外旅行中に2時間ほど動悸が持続したことを機に当センターを受診されました。
突然始まり、突然止まるということ、明らかに頻脈(脈が早くなる)になることから不整脈による症状が強く疑われました。受診当時は動悸の頻度が2~3か月に1度ほどでしたので、1週間連続記録ができる特殊な心電図でも動悸時の心電図を記録することはできませんでした。
そのため、イベントレコーダーを用いたところ、動悸がの心電図が記録できました。解析の結果、『心房頻拍』の診断に至ることができました。その後さらに動悸発作頻度が増加したため、カテーテル治療(アブレーション)を予定しました。
一般的に不整脈では心臓内の電気の流れが異常になっています。この方の場合には、右心房の一部から異常な電気信号が起こっていることが頻脈の原因でした。さらにその場所は心臓内の電気伝導に大切で、通常通りの直接治療(異常発電部位の焼灼)では追加治療としてペースメーカーが必要になる危険性が高いことがわかりました。そこでこの患者さんには、対側にある血管の中から間接的に治療を行いました。この治療は無事に終了し、患者さんの動悸症状は消失しました。

辞書のように動悸を一括りにしてしまうと、その中には様々なものが含まれてしまいますが、それがどんな動悸なのか、もう少し詳しく観察してみると、それが病気なのか、そうでないのかを解くきっかけとなるのではないでしょうか。
2020年8月
東京ベイ・浦安市川医療センター 循環器内科 牧原 優