切らない大動脈瘤治療〜ステントグラフト内挿術〜

大動脈瘤とは?

心臓から血液を運ぶ血管を動脈と呼びますが、大動脈は心臓から押し出された血液が最初に通って行く最も太い動脈のことを呼びます。全身に血液を送る大動脈の中には高い圧力(血圧)がかかるので、動脈硬化などで弱くなった部分があると瘤ができやすくなります。大動脈の壁が大きく膨らむ病気が大動脈瘤で、胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤があります。

大動脈瘤の原因の多くは動脈硬化といわれ、その危険因子である高血圧、高脂血症、喫煙、糖尿病などが瘤形成に関係しています。

大動脈瘤ができてもほとんどの場合症状はありません。多くは別の理由での検査(レントゲン写真や超音波検査やCTやMRI)で偶然動脈瘤が見つかります。動脈瘤は大きくなるほど破裂する可能性も高くなり、破裂すると激烈な痛みが出現し、大量の出血を引き起こし死に至ることがよくあります。動脈瘤が破裂するおそれがあると判断した場合は手術治療が推奨されます。

治療法は?

胸部あるいは腹部を切り開いて大動脈瘤を切除し、人工血管を縫い付けて埋め込む手術(人工血管置換術)が一般的です。安全性・有効性が確認された治療法ですが、身体を大きく切開するため、全ての患者様がその手術に十分に耐えられるとは限りません。

人工血管置換術(開腹手術)

ステントグラフト内挿術とは?

人工血管置換術に変わる治療法として最近では、脚の付け根の血管から細い管(カテーテル)を挿入して人工血管を内側から患部に装着する『ステントグラフト内挿術』が普及しており、当院でも2014年から導入しています。ステントグラフトによる治療は傷を小さくすることができ、所要時間も短いので、身体にかかる負担が少ないのが特徴です。しかし全ての大動脈瘤にステントグラフト内挿術ができるわけではなく、動脈瘤や血管の状態によっては適応とならないこともあります。
ステントグラフト治療は比較的新しい技術であり、この治療を安全確実に実施できる病院は限られています。当院はステントグラフト内挿術の指導医が在籍する日本ステントグラフト実施基準管理委員会認定施設です。

ステントグラフト内挿術(カテーテル手術)
ステントグラフトの利点

1) 身体への負担が小さく、術後の回復が早い(術後3−5日で退院)
2) 創が小さく(約3cm)、痛みが少ない
3) 全身麻酔なしでも行うことができる

ステントグラフトの欠点

1) 長期の成績が不明
2) 造影剤を使用するため腎臓に負担をかける
3) 以下のような合併症が起こりうる
• カテーテルによる血管損傷
• ステントグラフトの位置ずれ(マイグレーション)
• エンドリーク(ステントグラフトと大動脈瘤の隙間に血液が流れ込むこと)による瘤の拡大や破裂

大動脈解離に対するステントグラフト内挿術

上行大動脈が解離するA型大動脈解離は緊急手術の適応ですが下行大動脈が解離するB型大動脈解離は従来保存的治療が選択されていました。近年、一部の急性B型大動脈解離にはステントグラフト治療を行うことで予後が改善されることがわかってきています。

ステントグラフト治療の適応

1) エントリーが下行大動脈にある症例
2) 破裂症例
3) 上腸間膜動脈や腎動脈など分枝血管に血流障害を有する症例
4) 疼痛のコントロールが不良な症例
5) 血圧のコントロールが不良な症例
6) 大動脈の拡大傾向を認める症例
以上のような症例にはステントグラフトによりエントリーを内側から塞ぐことで真腔の拡大と偽腔の縮小が得られ、臓器血流の改善が期待できます。当院でも大動脈解離に対するステントグラフト治療を積極的に行っています。

最新のデバイスを使用しより低侵襲で確実な治療を提供します

Medtronic: Valiant Navion (2020年〜)

・18Fr(約6mm)から22Fr(約7.3mm)の小口径のステントグラフト(従来は最大27Fr)
・大腿動脈や腸骨動脈の血管径が細い症例(高齢女性など)に適している
・ベアステントという金属のみの部分がない種類があり、大動脈解離治療に向いている

GORE: TAG active control system(2019〜)

・血管内に展開した後に位置と角度の微調整を行うことができる
・より正確な位置に、血管に沿った留置が可能
・大動脈の屈曲が強い症例に適している
・ランディングゾーンと言われるステントグラフトの接着部位が短い症例に適している

GORE: EXCLUDER Iliac Branch Endoprosthesis; IBE (2017〜)

・腸骨動脈瘤には従来内腸骨動脈を塞栓して外腸骨動脈にステントグラフトを留置していた
・内腸骨動脈を温存することができる腹部ステントグラフト
・腸骨動脈瘤の治療に適している
・腸骨動脈の血管径が大きい(25mm以上)腹部大動脈瘤治療に適している
・内腸骨動脈を塞栓した場合に生じる臀筋跛行の合併症が少ない
・内腸骨動脈を塞栓した場合に生じるインポテンツの合併症が少ない
・内腸骨動脈瘤を有する症例には使用できない

ステントグラフト内挿術後の再治療も行なっています

ステントグラフトが日本に導入されて10年以上が経過し、エンドリークによる動脈瘤の拡大のため再治療が必要な症例も増加しています。術後拡大傾向が続く症例には追加治療を行います。

カテーテル治療の適応

1) どこからのエンドリークか判明している症例
2) エンドリークの原因となる血管へアクセス可能な症例
3) 開腹手術のリスクが高い場合

開腹手術の適応

1) カテーテル治療が無効な症例
2) 瘤径が著明に拡大している症例(破裂のリスクが高く、カテーテル治療が無効なことが多い)
3) 開腹手術のリスクが低い場合

動脈瘤を切開し、動脈瘤内へ流れ込む出血を止血した後に縫縮することで、大動脈の遮断が不要で小さな傷で治療できます。

患者様の状態に応じて最適な治療を提供します

近年急速に普及し適応も拡大してきているステントグラフトですが、低侵襲である一方、再手術の可能性など欠点もあり、それぞれの患者様の耐術能やライフスタイル、動脈瘤の解剖学的形状に応じて最適な治療法を選択し、安全で確実な治療を行わなければなりません。当院は大動脈瘤、大動脈解離に対して開胸、開腹手術も多数行っており、患者様にとって最適な治療を提供することができます。

大動脈瘤は症状が現れにくく、知らないうちに病気が進行しています。当院では動脈瘤、大動脈解離の形状、大きさにかかわらず対応させていただきます。気になる場合はどうぞお気軽にご相談ください。

(文責:小谷 真介

メニュー