「確実でスピーディな心臓手術」のチーム力〜東京ベイハートチームの手術室〜

「確実でスピーディな心臓手術」のチーム力〜東京ベイハートチームの手術室〜

当科のホームページに、「神の手や最先端機器よりも手術成功のカギはチーム力」という表題の下に3つのチーム力について書かせていただいています。今回は、その中のひとつである「手術室におけるチーム力」について紹介したいと思います。

心臓手術に関わるスタッフは、心臓外科医が2~3名、麻酔科医1~2名、看護師2名、臨床工学技士2名と10名近くが手術室の中でともに心臓手術を行っています。まず患者さんが手術室に入ると、名前や生年月日、術式などを確認のうえ麻酔科医が全身麻酔をかけて、気管チューブや動脈や静脈にライン(血圧測定や薬剤投与のための管)を留置します。これらの一連の行為を麻酔導入と言いますが、当センターの麻酔導入はとてもスピーディで、これは他の病院から手術見学に来る外科医がもっともうらやむ点のひとつです。麻酔科医のスキルが高いだけでなく、導入をサポートする看護師や臨床工学技士、そして心臓外科医が協力的で無駄のない動きで迅速な麻酔導入を実現しています。「ゆっくりやればいいでしょ」と思う方もいらっしゃるでしょうが、麻酔導入や手術のスピードはチームの実力を示す指標のひとつであり、またスムーズな麻酔導入はこれから手術を行う外科医にとって極めて重要なのです。外科医は(少なくとも私は)手術の細かい流れや時間配分、予定外の事態に対する対応まですべてをイメージして手術室に入ります。麻酔導入に時間がかかりすぎると、そのイメージやリズムが乱れることもあります。ロシアのプーチン大統領は相手のペースを乱して交渉を有利に進めるため会談にわざと遅刻するそうですが、そういう効果を狙っているのかもしれません。とにかく長く待たされることは良くないのです。

麻酔科医の仕事は導入だけでなく、手術中の輸液量や薬剤の管理、経食道心エコーによる心臓の観察など多岐にわたります。これらは、患者さんの術後状態に影響する重要な仕事です。これらを適切に行うには、麻酔科医が手術の流れや心臓の状態を的確に理解している必要があり、麻酔科医はモニターや術野を見て、また外科医とのコミュニケーションで必要な情報を得て、患者さんの血圧や心拍数、呼吸を安定させます。麻酔科医は手技の速さだけでなく、観察力や判断力、コミュニケーション能力も重要で、東京ベイの麻酔科医はいずれも長けており、我々心臓外科医が心から信頼できるパートナーなのです。

麻酔科医のほかに手術室で重要な役割を果たしているのは、臨床工学技士(ME)と手術室看護師です。MEは病院の医療機器を管理運営するエキスパートであり、心臓外科の手術室では主に人工心肺機器(患者さんの心臓や肺の代わりに全身に酸素化した血液を送るポンプ)や心筋保護機器(心臓を安全に停止させるための薬剤を投与するポンプ)などを操作します。その操作は手術の成否にかかわる極めて重要な仕事です。心臓外科医の後ろで人工心肺機器を操作するのですが、手術中に心臓外科医が最もよく会話をする相手はMEかもしれません。心臓の状態やポンプの流量、圧力、投与する薬剤などについて多様な情報を細かく共有します。心臓外科医とMEは、互いの高い技術を信頼のうえで、密なコミュニケーションを取ってサポートし合っているのです。当センターには外科医だけでなく多くのMEが見学に来ます。とくに低侵襲心臓手術(MICS, ミックス)は心臓手術の中でも人工心肺の操作に特別な技能を要するため、当センターMEの高い技術を学びに全国から多くのMEが訪れます。

手術室には、外科医に器械や糸を渡す器械出し看護師と周りから手術全体をサポートする外回り看護師がいます。器械出し看護師は、手術の流れをよく見ながら適切な道具を適切なタイミングで外科医に渡します。見学に来る外科医からよく出るコメントが、「言わなくてもパッパッと出てきますね~」というものです。「メス!」って大声で言わなくても出てくるのはデキる器械出しナースの証です。外回り看護師は、「汗!」と言うと拭いてくれるのですが、私は手術中に滴るほど汗をかくことがないので拭いてもらったことはありません。汗を拭くよりも、手術中に必要になった物品の準備や、麻酔科医や臨床工学技士の介助、手術の記録、ICUや病棟への連絡など、とても重要な仕事をしています。器械出し看護師も外回り看護師も心臓手術を安全かつスムーズに進めるうえで欠かせない存在です。東京ベイは総合病院であり心臓以外の手術も多く行っていますが、心臓手術に入る手術室看護師は限られており、彼ら彼女らはまさに心臓外科医が信頼する心臓手術のエキスパートなのです。

東京ベイ手術室でのチームワークを感じていただけましたでしょうか。心臓外科医だけでなく、麻酔科医ME手術室看護師が高度な知識と技術、さらには情熱を持ち、すべてのメンバーがチームとして機能することで質の高い心臓手術ができるのです。

心臓血管外科顧問 田端 実

◆ 東京ベイ・浦安市川医療センター ハートセンター

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