私たちが病気に気づくには『症状』が大切です。では症状が無い病気があるのかというのが今回の話題です。
心臓病の代表的な症状には動悸、息ぎれや胸の痛みなどがあります。このような症状は、
いつ
何をしている時
どんなふうに
どのくらいの強さと長さ
どのくらいの頻度
というように捉えることで、いくつかの病気を想定し、病気を絞り込むことができます。
例えば、健康診断で見つかる『不整脈』は、動悸の起こり方で初期診断が可能です。繰り返し気を失う病歴があれば危険度が高い不整脈を想定できますし、症状がなければ治療が不必要な場合もあります。
では症状が出たり消えたりしていたら、私達はどうすればいいのでしょうか。例えば『弁膜症』による『息ぎれ』は、長い時間をかけて波打ちながら悪化することが特徴です。初めは水泳などの強い運動で息ぎれがありますが、安静時には無症状です。次の段階では坂道昇降などで息ぎれを感じるようになり、さらに進むと自宅でトイレに行くだけでも、そして最終的には安静時も含めて常に息が切れるようになります。このような症状は、悪くなったり良くなったり波打ちながら数年かけて進行します。昨日はつらかったが今日は楽々、と感じても、それを繰り返すうちに次の段階に進んでしまうことがあるのです。
このような自覚症状は私達の活動性の影響を受けています。自宅でほぼ安静に暮らしていると症状が出ないこと、症状に気づかないこともあります。これは特に高齢者に多いパターンです。また、重症度に応じて症状が悪化しそうですが、例えば大動脈弁狭窄では重症でも症状がない患者さんが30~40%もいることがわかっています。その中には、経過を見ればいい場合から手術治療が必要な場合まであり、病院では様々な対応が求められています。
一口に『症状』といっても、患者さんの活動性や疾患の重症度など様々な要因が関連しているため、症状だけで治療方針を立てることはできません。無症状でも治療が必要になる場合があるからです。「機嫌良く暮らしていれば、それでいいじゃない」とばかり言ってはいられないのです。なぜなら「悪くなるって分かっていたら早く教えてよ」という声もあるからです。
では、私たちはどうすればいいのでしょうか。まず必要なことは主治医に聴診のような身体所見(しんたいしょけん)を診てもらうことです。無症状でも、たとえそれまでは高血圧だけで治療を受けていたとしても、時には主治医に胸の音を聴いてもらいましょう。無症状でも心雑音で見つかる弁膜症があるからです。また心エコー図検査(心臓超音波検査)を積極的に受けましょう。この検査で、ほぼ全ての弁膜症を発見できるからです。診察の時には主治医にその結果を説明してもらいましょう。弁膜症は有り無しではなく、重症度が大切だからです。
症状は私たちに病気の存在を教えてくれる重要なサインです。ただし、そこにはさまざまな因子が絡んでおり、それを唯一の指標とすることは危険です。是非、主治医に胸の音を聞いてもらい、積極的に心エコー図検査を受けましょう。東京ベイのハートセンターでも、そのお手伝いをしています。
この記事が心臓病の早期発見と治療につながり、皆様の健康に少しでもお役に立てれば幸いです。どうぞ、お大事に。