ハートチームにおける集中治療医の役割
どんなに簡単に見える問題にも何かしら複雑な要素を抱えています。何か困難な問題があったとき、多くの、そして特性の違う人がチェックすることで、新しい問題点やその解決法が出てくると思います。医学でも同様の事が言えます。心臓に問題を抱える患者さんに、“心臓以外“もまんべんなく診る集中治療医は、ハートチームの中で別の視点の提供をしています。
当センターの集中治療科には米国および日本で専門医を取得した則末部長の元、スタッフ2名、フェロー(卒後6年目以上経過した集中治療科専属の医師)3名、NP1名、その他当センターの外科・救急科・内科からの研修医師が常時滞在しています。患者さんの全身診察と管理を通じて、長期的に心臓を守っていけるように24時間365日サポートしております。
当センターで集中治療科は何をしているのか?
当センターでは心臓血管外科での手術後や循環器内科で緊急カテーテル治療後も、重篤な患者さんはICUに入室することがあります。例えば、心臓血管外科の術後を例に取ってみましょう。
術後すぐは、麻酔の影響で眠っている状態が数時間ほど続きます。この時、呼吸を助けるために人工呼吸器を装着したまま手術場からICUへと入室します。入室後に集中治療科の医師は麻酔科および心臓血管外科から手術の内容や使用した薬剤、ICUでの管理で注意して欲しいポイントなどの申し送りを受けます。そして術後の採血の結果を確認したり、人工呼吸器の設定を患者さんの覚醒の度合いに応じて変更したり、術後の心臓の動きをエコーでチェックしたり、必要な点滴の内容や薬剤を状態に応じて数分おき〜数時間おきに追加・変更していきます。
また、心臓血管外科医とも協力して問題点があればすぐに報告し、事前にトラブルが起きるのを未然に防ぐように注意を払います。朝になると心臓血管外科医や循環器内科医を交えて回診を行い、その日の夜間に起きた出来事やその時点の問題点を通じて、今後の治療方針をどのように組み立てていくかを皆で協議して決定します。いろいろな科の医師や職種を交えて行うこの朝の回診はときに2時間程かかることもあります。
患者さん自身の目標、例えば家に帰って自立した生活がしたい、家族のイベントに出たい等の術前の希望に向かってディスカッションすることに妥協はありません。入院するとあまり我々は目立たないかもしれませんが、治療の中心である患者さんを、後ろからそっとサポートさせて頂いています。
集中治療科とは?
集中治療科はその歴史が浅く、専門医制度が始まったのも1994年からで、日本での専門医は2013年度の時点ではまだ1000人弱しかいません。また、集中治療科という科が厚生労働省に認められた標榜医として認められておらず、必然的に目にする機会が少なくなっているのが現状です。ほとんどの患者さんが集中治療科と聞いて何を診療しているのかイメージが湧きにくい科だと思います。
例えば、循環器は心臓を見てくれる、消化器科なら胃腸や肝臓を診療しますが、これらは臓器別診療科といって、“臓器”を専門に見てくれる科です。平たく言えば、困っている場所を診てくれる科と言っていいでしょう。腹が痛くなれば消化器内科や外科、頭が痛くなれば神経内科や脳神経外科…といった感じでしょうか。
一方、脳梗塞後で高血圧と糖尿病があって、腎臓も悪いと言われている患者さんが肺炎をきっかけに心不全を起こしたという状況にしばしば遭遇することがあります。治療としては肺炎と心不全の治療をしつつ、腎臓がこれ以上悪くならないような管理もしつつ、血糖値や血圧にも目を配って、、、という治療はどこの“臓器“を専門とする医師が診ることになるでしょうか?こういったケースは、最も集中治療科などの総合的に診療する医師の得意とする所です。ICU(集中治療室)はあれど、専門とする人がいないので集中治療科がない病院というのは多く存在します。集中治療医が診療に携わる、または主治医となるICUは、集中治療医のいないICUと比較して、院内での死亡率が20%程低く、科学的な根拠に基づいた診療を受ける傾向があると報告されています1)。
集中治療科や総合診療科、救急科は臓器横断診療科といって全身の診療を行う科です。こちらも平たく言えば、“なんでも診ます“という科といって良いでしょう。なぜこんな科が必要なのかというと、高齢化とともに複数の問題を抱えた患者さんが増えているからです。
参照文献:1)Crit Care Med 2013; 41:2253–2274