みなさまは『臨床工学技士』という職種をご存知でしょうか?
臨床工学技士は昭和63年(1988年)に医療機器の高度化に伴い作られた病院内の医療機器を取り扱う専門職です。
医師の指示の下に生命維持管理装置(人工呼吸器、人工透析装置、人工心肺装置など)の操作・保守・点検を行うことを業としています。
近年、医療機器の進歩はめざましく、院内における臨床工学技士の需要が日々増しているのを感じています。
今回はハートチームにおける臨床工学技士の業務について説明します。
循環器内科領域における臨床工学技士の業務
心臓カテーテル検査室では心臓カテーテル検査・治療、カテーテルアブレーション、ペースメーカー埋め込み術、ステントグラフト内挿術などの検査や治療が行われます。
私たち臨床工学技士は心臓カテーテル検査・治療時は生体情報モニターの監視・記録業務、カテーテル介助業務、血管内超音波装置の操作業務を行なっています。
カテーテルアプレーション時は心内心電図装置の計測、3Dマッピング装置の操作業務、ペースメーカー植え込み術時はプログラマーの操作を行い、ステントグラフト内挿術時はデバイスの介助業務などを行い、業務内容は多岐にわたります。
心臓血管外科領域における臨床工学技士の業務
手術室では心臓・大血管手術、経カテーテル大動脈弁置換術、ステントグラフト内挿術などが行われます。
心臓・大血管手術時は心臓を停止させて手術を行うことがあります。
その時に心臓と肺の機能を代行する装置が人工心肺装置です。
臨床工学技士は人工心肺装置の操作、心臓を停止させる心筋保護液装置の操作、自己血回収装置の操作などを主に行なっています。
心臓を停止させない手術の時も循環動態の変化にすばやく対応できるように人工心肺装置のスタンバイを行なっています。
低侵襲心臓手術時(MICS)時の人工心肺業務
低侵襲心臓手術(MICS)では通常の開心術と比較し手術創が小さくなる為、術者に高い技術が必要となることは容易に想像できると思います。
我々が操作する人工心肺も操作技術の難易度が高くなり、特に術前準備が重要になります。具体的には人工心肺では血管にカニューレという管を挿入した後、カニューレと人工心肺装置を接続し、全身へ酸素化血を循環させます。
MICSでは先に述べたように創部が小さい為、通常の開心術よりも細い血管にカニューレを挿入しなければいけません。
細いカニューレを使用する問題点は、太いカニューレよりも血液を取りだしづらくなります(ストローで飲み物を飲む時に細いストローでは太いストローに比べ液体を吸い上げる時に強い吸引力が必要になるのと同じです)。
血液が取りだしづらくなると、全身への酸素供給が不十分になり、生命活動に支障をきたす可能性があります。
その為、カニューレ選択とカニューレの位置を適切に行う必要があります。
術前のCT検査所見から、どのサイズのカニューレが必要か?心臓血管外科医と協議し、カニューレ挿入時も経食道エコー装置で麻酔科医に位置を確認してもらいながら行います。
このようにMICSでは術前準備が特に重要になります。
東京ベイ・浦安市川医療センターでは2016年に約250症例の人工心肺症例を行いましたが、そのうちMICSは54症例(1/5はMICS症例)と豊富な経験があり、これは全国的にみても多い方だと思われます。
また、一症例ごとに省察(振り返り)を行い、よりよい人工心肺操作につなげられるように努力しています。
集中治療室における臨床工学技士の業務
心臓の機能が低下している時に心臓のサポートをする医療機器を補助循環装置と言います。
補助循環装置は主に大動脈内バルーンパンピング装置(Intra-Aortic Balloon Pumping:IABP)と経皮的心肺補助装置(Percutaneous cardiopulmonary support:PCPS)という2つの装置が使われます。
この2つの装置も臨床工学技士が中心に管理し、適切なサポートができるように医師、看護師などのハートチームで日々協議しながら治療をしています。
高いプロ意識を持ち『安全かつ確実』な医療技術提供ができるように
我々、臨床工学技士が扱っている医療機器は心臓の治療を行う上で、必要不可欠な装置ばかりです。
その為、日々責任の重さを感じながら、365日24時間対応できるように当直・オンコール体制で業務を行なっています。
また、常に最新の情報を得る為に、積極的に関連学会への参加と臨床研究の発表、学会が定めた専門認定資格を取得しています。
高いプロ意識を持つことで、『安全かつ確実』な医療技術提供ができるように心がけています。
私たち臨床工学技士は一人一人の患者さんに『安全かつ確実』な医療技術を提供することで、患者さんご本人はもちろんご家族の方にも安心していただける心臓病治療を目指して行きたいと考えております。