ある日のハートチーム~多職種が一丸となって、1人1人の患者さんを治療するために~

心臓血管外科 中村 亮太

当院の心臓血管外科では、弁膜症、冠動脈疾患、大血管疾患、末梢動脈疾患といった様々な循環器疾患に対して、手術を中心とした治療を提供し、患者さんの皆様が元気に地域や社会で活躍できるようお手伝いをしています。科の特性上、命に関わる緊急疾患も多く、24時間365日フル活動している心臓血管外科医ですが、自分たちだけではこの高度で広範な医療を成り立たせることはできません。その背景には、「ハートチーム」として多くの職種と協働し、一人一人が支えあいながら一丸となって診療にあたることが非常に重要と考えております。

今回は、そんなハートチームの一員として、一人の心臓血管外科医の視点から、ハートチームのある一日をご紹介できればと思います。

ICU回診

朝8時15分。ICU(集中治療室)に一日のうちで最も多くのスタッフが集まり行われるのは、ICUで治療を受けている心臓血管外科の患者さんの回診です。回診はその日の治療方針を決めるきわめて重要な時間。中心となってプレゼンテーションをされるのは、集中治療科の先生方です。心臓血管外科の手術後は血行動態がダイナミックに変化し、きめ細かく綿密な診察と治療が必要となってきます。

ここでは心臓血管外科医は、手術中の様子や様々な指標を参考にからだの水分量の管理や機械や薬剤による心臓のサポートの調整を提案します。集中治療科の先生方はそれを参考にしつつ、さらに複数のプロブレムに対して多角的にアプローチを考えます。神経、呼吸、腎臓、消化、免疫、血液…データを網羅しつつ、次々とアセスメントされる様子を見ると、これは我々心臓血管外科医だけでは決してできない、集中治療科ならではの芸当だと毎回感心してしまいます。

「その薬はワーファリンと相互作用があるので減量が必要です」

途中で声をかけてくださったのは薬剤師さんです。特に多くの薬を使う診療科である関係上、薬同士の相互作用や副作用で悩まされることも多いのが心臓血管外科。しかし、薬のプロフェッショナルである薬剤師さんに速やかにご提案いただくことでこの日は血液をサラサラにする抗凝固薬に伴う出血性合併症のリスクを回避できました。

その他にも、管理栄養士さん、理学療法士さん、言語聴覚士さんといった複数の専門職種が回診に参加し、術後のより早い回復に向けた栄養やリハビリの提案をいただきます。

また、心臓血管外科では腎機能が低下しており人工透析を必要とされる患者さんもいて、その場合は腎臓内科の先生方も回診でディスカッションに参加していただいています。このように他科専門医とも密に連携をとることで、患者さんに専門的で最適な医療を提供できています。

毎朝各職種が様々な意見を出しあい、熱い議論が交わされるのが東京ベイの心臓血管外科ICU回診の特徴であり、治療方針が練り上げられていく様はハートチームとして治療にあたるうえでの醍醐味の一つと感じています。

外来

回診の後、午前は外来担当日。術後のフォローアップはもちろんのこと、地域の先生方が紹介してくださる患者さんも多く受診されます。そんななか、PHSに着信があります。

「先生、外来で診られる●●さん、僧帽弁に可動性のある構造物が見られますが…」

連絡をくださったのは心エコー図検査を担当する検査技師さん。このように、担当医による迅速な判断が必要とされる所見に関しては、密に細やかに連絡をくださいます。高い技術と知識をもった検査技師は、心臓血管外科医にとっては大変頼れる存在です。

手術

外来が終わると間もなく手術です。この日は僧帽弁閉鎖不全症という弁膜症に対する弁形成術。手術室には心臓血管外科医の他にも、麻酔科の先生方、看護師さん、そして臨床工学技士さんがいらっしゃいます。術中に心臓を停止させて人工心肺という機械を使用するという特徴がある心臓手術ですが、多数の機材を使用し細かな調節が必要になることから、これらの職種の助けなしでは我々は仕事になりません。心臓血管外科の手術というと、ドラマ等で静かにモニターの音だけが鳴っている印象もあるかもしれませんが、実際は多くの会話がやり取りされ大変賑やかです。

「麻酔科の先生、エコーでは弁の動きはどうですか?」「ポンプ(人工心肺)のフローは2リットルです、薬はこちらからいきますね」

手術の成功のためには、術者個人の技術だけではなく、このような円滑なコミュニケーションが欠かせません。東京ベイのハートチームのスキルの高さは手術中のコミュニケーションを通じて特に実感できます。

病棟

手術が終わって病棟に戻ると、歩いている後ろから理学療法士さんや管理栄養士さんに声をかけられます。

「先生、▲▲さんは360m歩行しても血圧問題なかったです。階段の上り下りをトライするので、クリアすれば週末退院できますよ」
「■■さんは今度奥様がいらっしゃる日に合わせて栄養指導を実施しますね」

心臓手術後は、もともとの弁膜症や冠動脈疾患に加えて、手術により体にかかる負担で一時的に血圧や脈拍が不安定になります。早期に離床することが予後を改善することはわかっていても、リハビリを行う際には細心の注意が必要です。当院の心臓血管外科は早期退院・早期社会復帰が強みの一つですが、理学療法士さんはその強力なパートナーとなってくれています。

また、退院後の生活指導においては「食事は何を気を付ければいいの?」というのが最も多く患者さんから頂く質問です。そのため、管理栄養士さんによる栄養指導が、心臓血管病の術後コントロールにとって非常に大きな役割を担っています。

ハートチームカンファレンス・手術検討会

毎週火曜日、木曜日の夕方にはそれぞれハートチームカンファレンス・手術検討会という形式でハートセンター内カンファレンス(話し合い)を行っています。私たち心臓血管外科医は、ついつい手術による治療に偏ってしまいがちですが、薬剤やカテーテル治療といった内科的治療、あるいは経過観察ということも選択肢に含めて、患者さんにとって最適な治療を模索することが何よりも重要です。

このカンファレンスに参加される循環器内科の先生方の正確な診断力と治療技術に、心臓血管外科は絶大な信頼を寄せています。互いに治療で難渋した患者さんがいれば内科と外科それぞれが垣根を超え、情報共有と議論を重ねた上で、「患者さんにとっての最善」となるような治療方針を検討する。それがこのカンファレンスの意義です。

こうして心臓血管外科医の一日は、多くの職種とのつながりの輪の中で過ぎていきます。
東京ベイの心臓血管外科が目指す一流の治療・一流の手術は、一流のハートチームの存在と切っても切ることのできないものです。

繰り返しになりますが、我々の診療を助けてくださるすべての診療科、すべての部署の皆が大きなハートチームの輪の一員と日々痛感しております。コロナ禍でその連携が一時は脅かされましたが、オンラインカンファレンス等を駆使して、我々は進化しさらにその連携を深めています。

忙しい日々を送る心臓血管外科医ですが、皆様のサポートに対する感謝をひと時も忘れたことはありません。この場を借りて深くお礼申し上げます。
今後も、一人一人の患者さんをハートチーム全員の力で治療するべく邁進してまいります。皆様、これからも東京ベイが誇るハートチームを何卒よろしくお願い申し上げます。

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