小さな傷で行う身体に優しい冠動脈バイパス術が始まりました〜低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)〜

1,冠動脈バイパス術とは

狭心症や心筋梗塞の治療には大きく2つあります。一つはカテーテル治療(ステント治療)です。細い管を手首の動脈から挿入して冠動脈の狭窄部位をバルーンで広げ、薬のついたステントを留置します。一方で心臓外科医が行う治療は“冠動脈バイパス術”です。冠動脈バイパス術は狭窄や閉塞した冠動脈の先に新しく血液が良く流れる迂回路を作る治療です。

日本循環器学会 / 日本心臓血管外科学会合同の安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018)では表の様に報告され、特に血管の動脈硬化が著しい方や糖尿病や血液透析を患っている方々、更にはステント治療における再狭窄の患者さんなど、多くの患者さんに推奨されております。

引用:日本循環器学会 / 日本心臓血管外科学会合同の安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018)

2,グラフトが大切です!

実際にどのような血管を使ってバイパスを作成するのかというと。
冠動脈バイパス術を行う場合の冠動脈の直径は約1.5mm~2.0mmです。ここに新しく血液の良く流れる迂回路を作ります。用いる血管は“グラフト”と呼ばれています。グラフトにはいくつかの種類がありますが、最も良いといわれるグラフトは内胸動脈(胸の内側、胸骨脇についている直径2~3mmの動脈)と前腕の橈骨動脈です。次に良いと考えられているグラフトは右胃大網動脈といい、胃の周囲にある動脈です。

これらの動脈グラフトのほかに、従来から使われている足の静脈(大伏在静脈)があります。近年では大伏在静脈を触らずに愛護的に採取(No touch採取法)した大伏在静脈(No touch 大伏在静脈)がとても長持ちするグラフトであると報告され、大いに期待されています。このように冠動脈バイパス術ではとても長持ちするグラフトを使ってバイパス(迂回路)を作成することが大切です!東京ベイ・浦安市川医療センターでは両側の内胸動脈や橈骨動脈などの動脈グラフト、更には最新のNo touch 大伏在静脈は内視鏡を用いて採取しており、これらのグラフトを使って冠動脈バイパス術を行っています。

▲図1:グラフト血管(赤色)を用いた冠動脈血行再建のイメージ

3,冠動脈バイパス術には大きく2種類あります

冠動脈バイパス術は人工心肺を使うか使わないかの2種類あります。
人工心肺という機械を装着して心臓を止めて行う従来からの方法(ONCAB)と、人工心肺を使わずに心臓が動いた状態でバイパス手術を行うオフポンプ冠動脈バイパス術(OPCAB)があります。

OPCABはより重症度の高い患者さんや経験豊富な心臓外科医が行うべき方法であり、更に常日頃からOPCABを行っていることが大切と報告されています。東京ベイ・浦安市川医療センターでは熟練のハートチームで安全性を高めており、標準術式として心臓を止めずに行うOPCABを行っております。

4,冠動脈バイパス術の更なる低侵襲化~低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)

ここからが本題です。
弁膜症ではMICS(低侵襲心臓手術)という右の胸の小さな傷により手術を行う方法を行っております。東京ベイ・浦安市川医療センターではこのMICSによる弁膜症の手術が標準術式として行われていますが、2022年の4月からは冠動脈バイパス術も左胸の小さな傷から行うMICSで行っています。低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG:Minimally Invasive Coronary Artery Bypass Grafting)と言います。

従来の冠動脈バイパス術は胸骨正中切開と言って胸の真ん中にある胸骨という骨を縦に切開して心臓に到達します(下図2の左)。そしてバイパス手術を行います。一方、我々が得意とする低侵襲のMICS CABGは下図2の右のように患者さんの胸骨を切らずに、左胸を小さく切開してすべての手術を行う方法です。

▲図2:従来法(左)とMICS CABG(右)による傷(赤線)の位置、大きさの違い

このように低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)では患者さんの胸骨を切らずに温存することで、胸を大きく切開する従来の方法と比べて、患者さんがもつ手術に対する恐怖心も少なくなり、更には術後の痛みも軽減します。輸血の必要性も低く、さらには術後の入院期間も短くなると報告されております。低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)は手術を必要とされる皆様に早期退院や早期の社会復帰をしていただくための新しい術式です。もちろん安全第一の手術ですので手術において起こりうる合併症などを限りなく少なくするための方法です。

先のガイドラインからも冠動脈バイパス術を必要とする患者さんの多くは糖尿病を患っていたり、血液透析をされている方。また若くても重度の石灰化冠動脈病変の方やステント治療の再狭窄の方々が大勢いらっしゃいます。特に糖尿病を患う患者さんは傷の治りが悪く、場合によっては術後に胸骨骨髄炎(縦隔洞炎)を合併してしまうことがあります。低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)は胸骨を切開しないので胸骨骨髄炎の心配はありません。このように患者さんの術後における合併症を減らして安全に、また身体への負担を少なくして手術を受けて頂くことを可能とした最新の冠動脈バイパス術なのです。

もちろん低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)であっても通常の冠動脈バイパス術と同じ結果を出すことを目的として行っています。そのために胸骨正中切開で行う通常の冠動脈バイパス術と同じようにグラフトを使って、低侵襲手術であっても最良の安全と長期予後を得られるようベストを尽くします。そのために低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)でも両側内胸動脈、橈骨動脈や胃大網動脈、更には最新のNo touch大伏在静脈を用いて手術を行います。

小さな傷で安全に冠動脈へのバイパスを行い、早期退院や社会復帰・さらには長期の良好な経過を得るための最新の手術が低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)です。

5,手術の方法

MICS CABGでは写真の様に左の胸を小さく切開して行います。特殊な超音波メス(ハーモニックスカルペル)を使って両側内胸動脈、橈骨動脈や胃大網動脈を採取します。またNo touch大伏在静脈は内視鏡を用いて採取します。その後は冠動脈へのバイパスを行います。

MICS CABGでも人工心肺を用いないオフポンプで行います。小さな傷から心拍動下に冠動脈の縫合を行います。特殊な方法で心臓を脱転して目標とする冠動脈を露出します。その後は図のように特殊なスタビライザーなどを用いて冠動脈の吻合を行います。

もちろん小さな傷から心臓が動いたままで1~1.5mmの冠動脈に2~3mmのグラフトを縫合します。術中はどのようなときも麻酔科医との連携が大切です。心臓の傾きや押さえ具合で血圧の変化が起こらないように、一つ一つの確認をしっかりと声を出して行います。プロフェッショナルであるからこそ基本に忠実なのです。

また手術器械を出してくれる手洗い看護師とは何も言わずに必要なものが手渡される阿吽の呼吸です。無駄話がなく静かなピアノの曲が流れる中で集中して手術が進みます。もちろん手術への準備がしっかりと行われているからこそできる事です。日ごろからしっかりとトレーニングを行い意見を交わし毎日の手術に臨むハートチームなのです。

術後の経過

小さな傷で行うMICS CABGでは、輸血量を必要とする可能性が少なく、また多くの患者さんが術後5日~7日程度で退院となります。もちろん自宅に帰ってからもすぐにお仕事に復帰する方が多く、車の運転も退院後2週間で可能です(東京ベイ・浦安市川医療センターにおける結果)。

身体への負担が少なく早期の社会復帰を可能とした新しい冠動脈バイパス術が低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)です。

6,チームで方針を決定して治療を行います

東京ベイ・浦安市川医療センターのハートチームでは循環器内科医と心臓外科医がいつも話し合い患者さんの治療方針を決めています。多くの医療現場では“この患者さんには冠動脈バイパス術で”、“この患者さんにはステント治療(PCI)で”と患者さんごとに治療方針を決める病院が多いと思います。

私たちハートチームはさらに一歩先に進み、患者さんごとの治療ではなく冠動脈ごとの治療を行っております。“この冠動脈にはステント治療”、“この冠動脈には冠動脈バイパス術で”。と冠動脈ごとの最適な治療を循環器内科医と心臓外科医が一緒になって行っています(ハイブリッド治療)。皆様の体の負担が少なく、更に長期にわたり良好な結果が得られ、更には飲み薬も少なくする治療。小さな傷で身体への負担が少ないMICS CABGだからこそできる治療なのです。

おわりに

東京ベイ・浦安市川医療センターで行う冠動脈バイパス術は

  1. 大動脈を触らないOPCABで
  2. 動脈グラフトとNo touch 大伏在静脈を使って
  3. 低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)を標準術式としています。
  4. ハートチームでハイブリッド治療も積極的に行います

ハートチームで一丸となって、すべての皆様のために最も良いとされる治療法を組み合わせてオーダーメイドの治療を行います。
冠動脈バイパス術も東京ベイ・浦安市川医療センターにお任せください!

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