治療困難な硬い石灰化にも負けないハートチームの固い絆

心臓の血管が石灰化すると何が困る?どう治療する?

循環器内科 野口 将彦

こんにちは。循環器内科の野口です。
突然ですが、“心臓の血管(冠動脈)の石灰化”という言葉を聞いたことがありますか?
簡単にいうと、心臓の血管である冠動脈が“石”のように硬くなることを指します。

心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしており、このポンプが動くために必要な酸素や栄養を心筋へと送る働きをしているのが“冠動脈”と呼ばれる血管で、心臓の周りを取り囲むように走行しています。動脈硬化などによってこの“冠動脈”と呼ばれる心臓の血管の柔軟性や弾力性が減少し、血管が狭くなったり・詰まったりすることによって心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患が引き起こされます。

動脈硬化の原因となるプラークと呼ばれるものは、最初はコレステロールが主成分なのですが、時間とともにカルシウムを主成分とする固い石灰に徐々に変化し、この石灰に変化した状態を“冠動脈の石灰化”とよび、動脈硬化が比較的進行した場合にみられます。

わたしたち循環器内科では、狭くなったり・詰まってしまった心臓の血管である冠動脈をカテーテルを用いて治療する経皮的冠動脈形成術(PCI)と呼ばれる治療を得意としています。しかし、この“冠動脈の石灰化”はPCI治療を行う上で問題となります。PCI治療では、通常バルーンをふくらませることで狭窄した血管を拡張し、さらに拡張した部分にステントと呼ばれる金属製の網状の管を留置し、血管をさらに十分に拡張して治療を終了します。

しかし、硬い石灰化があると、血管が拡がりにくく、また無理に拡げすぎると血管が損傷したりなど、治療の合併症が起こりやすく、PCI治療の成績が通常の病変(石灰化の少ない病変)と比較すると悪いことが知られています。

ここで重要となってくるのが、石灰化をきちんと評価し、石灰化病変に特化した機械で治療することです。

“石灰化をきちんと評価する”血管内イメージングの活用

冠動脈の石灰化は、血管内イメージングとよばれる特殊なカテーテルを用いて、血管の断面をリアルタイムで見ることができます。血管内イメージングとしては、超音波を用いる血管内超音波(IVUS:intravascular ultrasound)と光干渉断層法(OCT: optical coherence tomography)があります。IVUSとOCTにおける同一の冠動脈の石灰化病変の比較例を以下に示します。この病変では、2時から4時方向に石灰化を認めます(*)。

図. OCT(パネルA)とIVUS (パネルB)との比較

EuroIntervention. 2021;17:e105-e123.

このような血管内イメージングを用いて、冠動脈の石灰化を適切に評価し、カテーテル治療に活かすことができます。

“石灰化に特化した機械で治療する“ アテレクトミーデバイスの使用

血管内イメージングの評価の結果、石灰化が高度のため通常の方法の治療(バルーン拡張→ステント留置)ではうまくいかないと予想される場合、アテレクトミーデバイスとよばれる石灰化を切削する特殊な機械を用いて治療を行います。当院で使用できるアテレクトミーデバイスにはロータブレーターとオービタルアテレクトミーシステムがあります。

ロータブレーターは、先端に小さなダイヤモンドの粒を装着した丸い金属を高速に回転させることで石灰化病変を削る治療です。オービタルアテレクトミーシステムとは、従来からのロータブレーターに加えて、最近本邦にて使用可能となった高度石灰化病変に対する治療器具です。ダイアモンドでコーティングされたクラウンと呼ばれる部分があり、この部分が高速回転することで石灰化を削ることができます。病変の形態に応じてロータブレーターとオービタルアテレクトミーシステムを使い分けて、あるいは併用することでより安全な石灰化病変の治療を心がけています。

このように冠動脈の石灰化に対するカテーテル治療に際して、血管内イメージングやアテレクトミーデバイスを活用して治療を行なっております。この治療を効果的かつ安全に行うには、医師のみならず、看護師や臨床工学技師、放射線技師などの協力が不可欠であります。

東京ベイには、多職種スタッフからなるハートチームがあり、強力な連携が取れております。今後とも患者さんに適切で安全な治療を提供できるよう、さらなるチームプレイの向上を目指して引き続き努力を重ねてまいります。

厄介な石灰化病変、チームの力を合わせてどう立ち向かうか?〜臨床工学技士の視点から〜

臨床工学室 臨床工学技士 山本 達也

<石灰化病変とOCT>

冠動脈疾患の治療においては、造影剤を用いた冠動脈造影の他に、血管内エコー法(IVUS)や光干渉断層法(OCT)などのイメージングデバイスを用います。イメージングデバイスを用いることで、冠動脈造影では得ることができない病変部の血管性状や病変長などの情報を得ることができます。

石灰化病変の観察においてIVUSは病変部でのエコー輝度が高く、石灰化病変の厚さを計測することが困難です。一方のOCTでは石灰化病変の厚さや輪郭まで観察することができます。そのため石灰化病変の治療の際はOCTを用います。

<OCTを使用する際の臨床工学技士の役割>

OCTを使用する際は医師が冠動脈内にOCTカテーテルを挿入し病変部まで持っていきます。カテーテルを接続したコンソールの操作と得られた画像の解析を臨床工学技士が行います。石灰化病変の場合、病変部の石灰化の厚み、石灰化の角度、石灰化の病変長さを臨床工学技士が測定し、医師に伝えることで治療方法の選択に活かします。

<石灰化病変への治療>

高度な石灰化病変の場合、血管が硬くてバルーンでの拡張ができません。その為、ダイヤモンドバックやロータブレーターを使用し、病変を削ることで石灰化した部分に亀裂を入れ、その後バルーンで拡張します。これらの機器の操作も医師が行い、臨床工学技士が準備、設定、治療中のモニタリングを行います。

治療中は病変を削ったカスによって冠動脈の血流が低下し、徐脈や血圧低下などを起こすこともあります。その際はテンポラリーペースメーカや循環補助デバイスの準備を行います。

<常に当事者視点でお互いに助け合うハートチームを目指して>

カテーテル室では医師、看護師、放射線技師と一緒に臨床工学技士が働いています。臨床工学技士としては機器の準備や操作、デバイスの物出しを行いますが、それには医師の行っている治療内容を理解し先を読んで行動、準備を整えておくことが重要です。

夜間の緊急治療など、人手が不足している状況では、自ら進んで他職種の手伝いもできるように、普段から看護師や放射線技師の業務も把握し、常に当事者視点でお互いに助け合えるようなチームづくりを心がけています。

メニュー