進化する心不全治療薬を正しく知り、正しく使う~ずっと心臓を助け続けてくれる薬だからこそ~

薬剤師 藤井 聡

心不全は、心臓のポンプ機能が破綻した状態のことであり、簡単には「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」とされています。高齢化の影響もあって「心不全パンデミック」と呼ばれるほどに心不全患者さんは増えており、日本においても2020年時点で120万人もの心不全患者さんがいるとの推計が出ています。

どれほど健康な方でも加齢に伴って心臓の機能は低下していきます。特に支障なく日常生活を送れる方がほとんどですが、生活習慣や心臓もしくは心臓以外の病気などが心不全発症のきっかけとなることもあります。その後は、息切れやむくみが改善したと感じても元通りの心臓に戻ることはありません。良くなったり、悪くなったりを繰り返して、さらに間隔も短くなって苦しい思いを何度もすることになります。

心不全をしっかり治療していく意義は、長く生きること、心不全悪化による入院(悪化を繰り返すことで心臓がだんだん弱っていく)を予防すること、苦しい症状を改善することの3つになります。この助けとして「薬」が非常に重要な役割を持っています。

薬のお話の前にひとつだけ心不全の分類を紹介します。それは心臓の左心室の駆出率、つまり心臓の収縮機能に基づく分類です。これは、収縮機能が保たれている心不全(heart failure with preserved ejection fraction: HFpEF)と、収縮機能が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction: HFrEF)のふたつに大きく分類されるものです。心不全治療薬の歴史は長く、ここ数年でも新しいものが発売されています。しかし、残念ながらHFpEFの治療薬で確立したものはありません(よいかもしれないと言われているものもあります)。

HFrEFの治療薬の基本は、①レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を阻害する薬、②β遮断薬、③ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬になります。さらに、2021年にはSGLT2(sodium-glucose cotransporter 2)阻害薬も加えた4つが推奨されるようになりました。もちろん、これらに加えて利尿薬や他に病気があればそれに関わる薬が必要になります。心不全や治療薬については次回記事で村石医師がより詳しく解説してくれますので、ぜひそちらをご覧ください。

病院や薬局でもらうお薬説明書には、「血圧を下げる薬です」や「血糖を下げる薬です」のように万人向けのことが書かれています。

図1 薬剤情報提供書(お薬の説明書)

そのため、低血圧なのに降圧薬を、糖尿病でないのに血糖降下薬をのむの?と疑問に持たれる方も多いです。しかし、実は心不全入院を抑え、長生きするようにという目的があります。ここはぜひ知っておいてください。もちろん、ふらつきやめまいのような症状があれば降圧薬を減らすなどの検討が必要なので教えてくださいね。

さて、私はいろいろな心不全患者さんと関わってきました。難しいと感じることが多いのは、心不全は症状がないと治療薬や生活習慣の改善などが重要だとなかなか理解してもらえないことです。よくなったらやめられるかと質問される方、忙しくて飲み忘れてしまう方、外出中トイレに行きたくないから利尿薬を飲まないという方もいました。たくさんの薬を飲み続けるのは大変ですし、金銭面も気になりますよね。しかし、途中で止めると心不全増悪につながってしまうので、基本的には生涯継続になります。

心不全の治療目標はいろいろありますが、大切なのは患者さんにとっての「暮らしの目標」を達成することです。これは患者さんご自身とご家族の病気・治療への理解と自宅での生活(薬の服薬管理を含めた)によるものが大きいです。私は薬剤師なので飲み忘れない工夫もそうですし、治療に関心をもってもらうにはどうしようかなどといろいろ考えています。ちょっとしたことや世間話が目標達成の重要なきっかけになることもありました。いままで通りの生活を長く続けていくために、ずっと付き合うお薬だからこそ、まずはお話しからはじめませんか?

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