患者さんの「歩ける暮らし」を守るために〜東京ベイフットケアチームの流儀〜

「歩くと足が痛いです」「足の傷がなかなか治らないです」

循環器内科 小島 俊輔

今回は、下肢の血管の話をさせていただきます。
早速ですが、下記に患者さんの例を紹介いたします。どう思われますか?

患者 A さん:70 歳男性 高血圧の治療歴、喫煙歴がある方です。数年前より右下肢の歩行時の疼痛を認めており、近医受診し、”腰部脊柱管狭窄症”疑いにて鎮痛剤のみでフォローとなっていました。しかし症状は徐々に増悪し、当センター受診となりました。いくつかの検査をしてみると下肢の血管が複数箇所、完全に詰まっておりました。医学用語では、「末梢血管疾患(PAD)」と言います。

末梢血管疾患(PAD)とは、どんな病気でしょうか

下肢の血管に動脈硬化が生じて、血管の狭窄や閉塞を生じ、十分な血流が保てなくなり生じる病気です。一般的に、透析中、糖尿病、高血圧、喫煙などがリスクとされています。症状は、歩行時のみ下肢の疼痛を認める方(間欠性跛行といいます)から、足趾の潰瘍を認める症例(重症下肢虚血といいます)まで様々あります。

すでに示した、Aさんの症例以外にも以下のような症状で困っている方がいらっしゃいます。いずれも、当センターでの実際の症例であり、最終的にはPADに伴う感染、足壊疽の診断となり治療し、治癒した方々です。

【実際の症例】

  • 数年前から左下肢の歩行時の疼痛を認めていたが、数ヶ月前から増悪傾向であり、足の先の冷感を自覚するようになってきた。
  • 数ヶ月前から、透析をしばらくしていると、下腿がつるようになっていた。一週間前に下肢に潰瘍を認め、熱感を伴うようになった。漢方と鎮痛剤が処方され、経過をみていたが、創部症状の増悪を認め、38度もあり、総合内科受診となった。
  • 一年前に下肢の血行再建を施行してステントを留置した。症状が改善したため、外来のフォローを自分でやめてしまった。昨日突然治療した下肢の疼痛と色調不良を認め、救急外来受診となった。
  • 糖尿病にて近医かかりつけであった。半年ほど前からの感覚鈍麻、数ヶ月前に巻き爪部分の小さな傷を認めた。「“糖尿病性潰瘍”でしょう」と言われ経過をみていたが、徐々に拡大し黒色壊死してきた。蜂窩織炎として当センターで紹介となった。
末梢血管疾患(PAD)では、どのような検査をしますか

まずは、病歴を改めて確認させていただき、下肢の各部位の脈の触知や、冷感の有無、傷・潰瘍の有無などを評価します。PAD には他部位(心臓や脳の血管)の疾患を有することが多いため、胸部症状や神経学的所見の診察も合わせて行います。検査としては、上腕と下肢の血圧を測定し、下肢の血行障害の重症度を評価(ABI: ankle-brachial index)したり、皮膚微小循環の評価(SPP: skin perfusion pressure)したりします。その他、下肢の血管エコーやCT, MRI 等の画像の検査も組み合わせて評価します。

何よりもまずは、PADを疑うことが重要であり、適切な問診、身体所見、検査により早期の発見、治療が可能となります。当センターでは、多くのPADの症例を治療しており、いかに早期に治療介入するかを意識した治療フローで対応しております。

末梢血管疾患(PAD)は、どのような治療をしますか

症状が軽度であれば、運動療法や薬剤療法をまず行います。これらの治療で症状の改善がない場合や、症状や病態がより重症の場合は、血行再建術を行います。血行再建術には、血管内治療(カテーテル治療)や外科的治療(内膜摘除術やバイパス手術)があり、個々の症例により適している治療を選択します。

以前は、バイパス手術が施行されることも多かった領域ではありますが、現在はより体に負担の少ない、低侵襲な、カテーテル治療が有効な治療となってきています。具体的には、鼠径部(足の付け根)や上腕などから、細い管を挿入し、狭くなった/詰まった血管の拡張やステント留置を行います。

Aさんの治療例を紹介いたします。図a は、CT 画像ですが、右の大腿部の血管が完全に閉塞しています。図b, c はカテーテルの画像です。図 b は治療前ですが、造影剤が流れず、血管が詰まっている部分があります(黄色い点線)。治療用のバルーンで病変を拡張し、血管の内側に薬剤を塗布し、足の先に向かって血流が良好に再開しているのが分かります(図c)。

図a: 下肢CT画像:右の大腿の血管が閉塞している(白い点線)
図b: 治療前のカテーテル画像。血管の閉塞を認める(黄色い点線)
図c: 治療後のカテーテル画像。血流が良好に流れている。

末梢動脈疾患(PAD)に最善の治療をするためには、「全身の血管の病」に対するチーム医療が必要です

さて、患者Aさんのその後ですが、まず下肢の血管病変に対して治療をしましたが、話には続きがありました。よくよく話を伺うと、以前より「階段昇降時に胸部の圧迫感」があったことが判明しました。精査してみると、心臓の冠動脈という血管にも高度狭窄があり、「不安定狭心症」の診断にてカテーテル治療施行となりました。現在は、術後1年以上経過しておりますが、幸い経過は良好です。

このように、PAD は全身の血管が障害を受けている可能性があります。したがって、下肢の症状だけであっても、他の部位の血管(脳の血管や心臓の血管など)の狭窄を見逃さないように注意深く、病歴や身体所見をもとに必要に応じた検査をしていく必要があるのです。

以上、末梢血管疾患(PAD)について紹介させていただきました。PAD は、並存するその他の病気も多く、他科にまたがるチーム(例:血行再建を行う循環器内科や、創傷を管理する整形外科・皮膚科、フットケア指導士、皮膚・排泄ケア認定看護師、併存疾患含めた管理を担当する総合内科、感染症科、内分泌科、腎臓内科など)としての管理が必要となります。

当センターではこのような理念のもと、チーム体制を整え治療を行っております。何か気になる症状などあれば、いつでも相談に来ていただければと思います。

患者さんの足を守るために~東京ベイフットケアチームの流儀~

循環器内科 診療看護師 有阪 光恵

私たちが出会う患者さんの創は、創ができる場所や創の大きさ、深さも様々です。「最初は小さい創だったのに、全然治らなくてどんどん悪くなってしまった。」と話される患者さんが多くいらっしゃいます。創ができたきっかけは、靴擦れや深爪などの日常のよくある‘ちょっとした創’から始まります。前述の小島医師の内容にもあるように、下肢への血流が悪いためにできてしまった創がいつまでも治りません。創を治すためには、悪くなった血流を改善させること、感染を制えること、栄養状態も含めた全身状態を改善させることが必要です。

そこで私たちフットケアチームは、主に循環器内科医・腎臓内科医・総合内科医・皮膚排泄ケア認定看護師・理学療法士といった多職種が一つのチームとして結束して、患者さんの足の血流や創部の状態、血糖のコントロールの経過、リハビリの状況、栄養管理、感染管理などについて、毎週カンファレンスで情報を共有し患者さんの足を守るため日々奮闘しています。

嬉しいことに、私たち東京ベイのフットケアチームを頼って遠方より来てくださる患者さんもいらっしゃいます。患者さんやご家族の思いに応えるべく、それぞれのエキスパートが力を発揮しています。

*フットケアカンファレンスの様子

しかし、どんなにみんなで手を尽くしても、残念ながら100%救肢できるわけではありません。‘もう少し早く病院にきてくれたら’と悔しい思いもすることがあります。病棟でフットケアチーム回診を週2回行い、できる限り‘患者さんの大切な足’が残せるように、血行再建や創の処置(デブリードマン)のタイミングを図りながら、創の状態や患者さんの全身状態をみて創の治癒を促すために陰圧閉鎖療法の併用や、皮膚科医師と協働で植皮術を行っています。今までのような、またはそれに近い生活ができることを目指しています。

下肢の安静時の疼痛、潰瘍・壊疽を呈する重症の状態を放置すると、1年後の下肢切断率は30%、また亡くなる可能性は25%と言われる重病です。患者さんは、「こんなに悪くなると思わなかった。」と言って外来にいらっしゃいます。誰もが‘まさかこんなに!?’と思っているのです。そこが、血管病の怖さなのかも知れません。大切な足が手遅れになってしまう前に、ぜひ足の冷たさや色調の変化、痛みや創など気になる症状がありましたら、循環器内科までご相談ください。
「いつまでも自分の足で歩ける暮らし」を目指して、私たちと一緒に足を守りましょう!

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