みなさん、こんにちは。救急集中治療科(集中治療部門)医師の三反田です。
今日はハートチームの心臓病治療に焦点をあてて、患者さんがICUに入室してから一般床に移るの治療の様子をお話したいと思います。
心臓血管外科術後にICU入室するというのは、あまりイメージが湧かないと思います。入院したことはあっても、集中治療室に入ったことのある患者さんはほとんどいないと思いますので、それも当然です。
今回は架空ですが、術後の順調なケースをご紹介します。
集中治療室に入る時点では手術中の麻酔の影響で覚えていません。まずは体にいろいろなモニターが付けられます(モニターというのは、体の中で発生している電気信号などを数字にしたもので、多くはシールや指にはめるクリップです。時に数字の上がり下がりをみて薬の変更などの治療方針が変わることがあります)。その後すぐに手術のために待機していた家族と面会しています。流石に面会時にはまた覚醒することはありませんので覚えていないかと思います。面会が終わるとすかさず心エコーの検査です。これは超音波を用いて心臓を外から観察します。術後すぐは手術の影響でやや見えにくいので、入室中に数回に分けて検査を繰り返して心臓の様子を観察することになります。最初の数時間はモニターの観察や薬や点滴の調整であっというまに過ぎていきます。
概ね3時間くらいすると、だんだんと目が覚めてきます。目が覚めた時には口に管が入っていて喋れません。この管は麻酔中に呼吸を助けるために人工呼吸器とつながるために必要な管です。また、混乱して口の管や心臓の脈を助けるための管を突然抜いたりしないようにしっかり覚醒するまで手が自由に動かせません。覚醒の度合いを見るために、「手を握ってください」「目を開けてください閉じてください」などの声が頻回にかけられるかもしれません。また、覚醒がある程度進んで頷いたりできれば、「痛いですか?」などのYes/Noで答えられる質問がされます。
覚醒がしっかりできれば、人工呼吸器のための口の管が抜かれます。ここから先は人工呼吸器の助けがなくなるので、しっかり自分で深呼吸をしたり、咳をして溜まった痰を出すことになります。口の管を抜いた直後は口が乾燥して喉が乾く感じと声がかすれる感じがあります。飲水については麻酔の影響や喉の奥に管が入っている影響ですぐに水を飲むとむせてしまいますので、概ね3時間様子を見てから少しずつ飲めるようになります。声のかすれは時間が経てば自然に良くなってきます。夜間も採血(採血のための管が入っているので針を刺されるわけではありません)や尿量、血圧や脈拍のチェック、薬の投与、心エコーなどのため頻回に看護師や集中治療医が訪れるかもしれません。主に困ることは痛みでしょうから、その都度声をかけて対応してもらうことになります。
夜が開けると、朝8時過ぎには回診で多くの人間が自分の前に集まって一番良い治療方針について議論します。これは重症度に関わらず行われるので、自分が重症だと気にする必要はありません。午前中には早速リハビリが開始されます。ベッドで寝ている時間が長いと筋力がすぐに低下するので、大手術の翌日ですが早速ベッドから起き上がる訓練が開始されます。手術の傷が痛む事が多いので早々に痛み止めの内服と点滴が開始されます。昼になれば昼食が開始され、点滴や薬剤などの多くが終了となり、午後には手術中に寝ている間に連続で血圧を直接観察するために手に入った点滴や、心臓の動きを観察するための首の管を抜いてもともといた3階南の部屋に戻ります。
もともとの心臓の具合や他の病気の兼ね合いなどで日数は大きく変化しますが、このケースではかなり順調で手術の翌日にはもうベッドから起き上がって、食事もして集中治療室を去るケースでした。半数以上のケースがこのタイムコースになりますので、これがイメージの助けになれば幸いです。
