1.ペースメーカーとは?
心臓ペースメーカーとは、心臓のリズムを電気的に補充する器械です。徐脈性不整脈により一分間の脈拍数が30台になったり、長い間(5秒前後以上)心臓が止まったりすると、運動能力が落ちて息切れが起こったり、脳に必要な血液量を送れなくなります。結果として、頭がボーっとしたり意識を失ったりする症状が出現することがあり、時に生命にすぐ危険が及んだり重要臓器の障害を来たす場合もあります。自分の心臓の脈の調子が悪い場合、ペースメーカーを植え込むことで心臓に電気刺激を与え、最低限の心臓の拍出を保つことが可能となります。
2.ペースメーカーが必要になる不整脈
適応となるのは、徐脈性不整脈により失神やその他症状が出現する場合です。具体的には(1)洞不全症候群、(2)房室ブロック、(3)治療によりさらなる徐脈の悪化をきたす状況、の3つが主に考えられます。
3.ペースメーカー手術について
1. 初回手術
(1) 皮膚の切開
左または右の鎖骨近辺の皮膚を消毒します。局所麻酔剤を皮下に十分注射し、鎖骨の少し下にペースメーカーの大きさに応じた数cm程度の切開後、皮下にペースメーカーサイズのポケットをつくります。
(2)ペースメーカーリードの植込み、本体の接続および固定
鎖骨の下にある静脈から1本ないし必要があれば2本のリード(電極)を心臓の目的の位置に挿入し、電気的にリードが正しい位置にあるかのチェックの後、深呼吸や咳をしていただいて、リード先端の安定度もチェックと、電圧を上げても不快な症状が起きないかどうかを確認し、問題なければリードを糸で固定したのち、ペースメーカーとつなぎ皮下のポケットにおさめます。
(3)皮膚の縫合
切開部位を皮下で縫いあわせ、消毒し後日抜糸が不要なテープを皮膚表面に貼りガーゼを当てて終了です。場合により最適のリードの位置を決定するのに時間がかかることがありますが、普通1~2時間程度で手術は終了します。
(4)術後チェック
術後1週間前後で皮膚のテープをはがし、体外から測定器を使用し、リードやペースメーカー本体のチェックをし、必要があれば最適な条件に心拍数などを調節し、24時間心電図や心電図モニターでペースメーカーの動作状態を最終チェックします。
2. 2回目以降の手術
(1) 皮膚の切開
皮膚の切開は初回と同じです。
(2)ペースメーカー本体の交換
前回のリードの検査で問題がなければ、新しいペースメーカー本体を古いものと交換したうえでポケットに入れ、切開部位を縫いあわせます。皮膚切開からここまでの手技時間は30分~1時間前後で終わります。リードの交換が必要な場合、一般的には初回と反対側から同様の順序でリードの挿入をします。
ペースメーカーは電池で動く機械であるため、電池が消耗すれば新しいものと替える必要があります。電池の寿命は、各個人によって、ペースメーカーの作動状況によって異なりますが、概ね5~6年と考えられています。このため、ペースメーカー手術をされたあとは定期的に外来にて、作動状況・電池消耗状況をチェックさせていただきます。
4. ペースメーカー植込み後の注意点
ペースメーカー手術をされたあとは、日常生活に大きな規制はありませんが、下記のようにいくつかの注意点があります。
1. できるだけ人ごみを避けてください
ペースメーカーは精密電子機器ですので、他の磁気に影響される可能性があります。携帯電話は22cm離して使用すれば問題ありませんが、人ごみでは他人の携帯電話が予測せず接近し影響を受け、作動が狂うことがあります。安全装置はついていますが、人ごみは避けることをお勧めします。
2. ペースメーカー手帳を携帯してください
思わぬ事故や病気のときに、ペースメーカー植え込み後であることは極めて重大な情報です。ペースメーカー手帳は必ず携帯していただき、万が一紛失した際は当センターにご連絡ください。
3. MRI検査の際はご注意ください
医療機器のひとつにMRI検査(核磁気共鳴)という検査があります。強力な磁気が身体にかかるため、従来のペースメーカー植え込み後はこの検査は受けられませんでした。2012年10月より、条件つきMRI対応のペースメーカーが日本でも使用できるようになりました。
ただし一定の条件下でないと、撮影はできません。
(文責:奥村弘史)