大動脈瘤手術:出血や合併症を減らすスピーディな人工血管置換術

胸部大動脈瘤

1.手術の目的と概要
大動脈瘤が大きくなると破裂の危険が高くなります。大動脈瘤はいったん破裂してしまうと救命が困難な場合が多くなります。大動脈瘤の部分を人工血管に置き換えて、未然に破裂を防ぐのが一番の目的です。万が一破裂した場合は緊急手術で出血を止めて、人工血管に置き換えます。
大動脈瘤の部位や形状によっては、胸を開かない血管内治療(ステントグラフト手術)を行うこともあります。胸を開く手術とステントグラフト手術を組み合わせて行うこともあります。

2.人工血管について
大動脈手術に使用する人工血管はポリエステルでできています。サイズは様々なものがあり、患者さんの正常な大動脈径に合わせて選択します。また、形も色々なものがあり、まっすぐな筒状のもの(ストレート)や枝が付いているもの(1分枝または4分枝など)などを手術する部位によって使い分けます。
人工血管の耐久性は優れており、人工血管が瘤になったり破れたりすることはほぼありません。ただしつなぎ目の自分の血管が瘤になったり、つなぎ目が破れたり、人工血管にバイキンがついたりすることがまれにあり、そのような際は再手術が必要になることがあります。

3.手術の方法
大動脈瘤の部位によって術式が変わり、以下のような術式があります。大動脈瘤が広範に及ぶ場合は、これらを組み合わせた手術を同時に行ったり、2回以上に分けたりすることもあります。

大動脈基部置換術
心臓から出てすぐの大動脈基部を人工血管に取り換える手術です。大動脈弁を人工弁に置き換える方法と大動脈弁を温存する方法(自己弁温存大動脈基部置換術、デービッド手術やヤクー手術など)があります。大動脈弁が正常あるいは弁形成術で修復可能な場合は、自己弁温存大動脈基部置換術を行っています。人工弁に置き換える場合も弁を温存する場合も、心臓に血液を送る冠動脈を一度切り離して、再び人工血管に縫い付けます。

上行大動脈置換術
冠動脈の上から脳に血液を送る1本目の血管(腕頭動脈)の手前までの上行大動脈を人工血管に置き換える手術です。胸の真ん中を切開して、人工心肺を使用して心臓を止めて行います。腕頭動脈のぎりぎりまで血管を取り換える場合は、体温を25度から28度に冷やして一時的に身体の循環を止めて血管を縫います(低体温循環停止法)。循環停止中は、脳から血液が戻ってくる静脈(上大静脈)から逆向きに脳へ血液を送り(逆行性脳潅流法)、脳を保護します。

弓部大動脈置換術
大動脈がUターンする部分を人工血管に置き換える手術です。弓部大動脈には脳へ血液を送る血管が3本(腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈)出ています。これらの血管を一度切り離して、再び人工血管に縫い付けます。胸の真ん中を切開し、人工心肺を使用して心臓を止めて行います。体温を25度から28度に冷やして一時的に身体の循環を止めて血管を縫います。循環停止中は、脳へ血液を送る3本の血管それぞれ別個に血液を送り(選択的順行性脳潅流法)、脳を保護します。

下行大動脈置換術・胸腹部大動脈置換術
Uターンした後の大動脈を人工血管に置き換える手術です。横隔膜の上のみを置き換える場合は下行大動脈置換術、横隔膜を超えて下まで置き換える場合は、胸腹部大動脈置換術となります。胸の左側を切って、肋骨の間を広げて行います。瘤の前後を遮断して、瘤に血液が流れないようにしたうえで、瘤を切開し人工血管と正常な血管を縫い合わせます。遮断した先の血管に血液を送るために人工心肺を使用しますが、多くの場合は心臓を止める必要はありません。心臓を止めたり、体温を冷やしたりして循環を一時的に止めることが必要な場合もあります。
これらの手術で重要なことは脊髄への血流を保つことです。術前の検査で脊髄へ血液を送る血管を探しだし、これらを一度切り離して人工血管に縫い付けることもあります。胸腹部大動脈置換術の場合は、腸や腎臓へ血液を送る血管を一度切り離して、再び人工血管に縫い付けます。

急性大動脈解離
心臓から出てすぐの上行大動脈が解離している場合(A型解離といいます)は破裂の危険がきわめて高く、緊急手術が必要になります。基本の術式は上行大動脈置換術ですが、解離の入口(血管が避け始めた部分)が弓部大動脈や大動脈基部にあったり、それらの大動脈が拡大したりしている場合は、弓部大動脈置換術や大動脈基部置換術を同時に行います。
これらの手術はいずれも人工心肺を使用して、心臓を止めて行います。また、血管を吻合する際に、体温を25度から28度に冷やして、一時的に身体の循環を止める低体温循環停止法という方法を用います。循環停止中に脳を保護することがきわめて重要で、選択的順行性脳潅流法(脳へ行く血管それぞれに血液を送る)や逆行性脳潅流法(脳から戻る静脈から逆向きに血液を送る)などの方法で脳に酸素と栄養を送ります。
解離が上行大動脈に及んでいない場合(B型解離といいます)は、緊急手術ではなく血圧を下げる治療になることが多いですが、すでに破裂していたり、破裂寸前である場合、臓器の血流障害がある場合、痛みが続く場合などは手術(下行大動脈置換術やステントグラフト手術)が必要になります。

腹部大動脈瘤
1. 手術の目的
大動脈瘤が大きくなると破裂の危険が高くなります。大動脈瘤はいったん破裂してしまうと救命が困難な場合が多くなります。大動脈瘤の部分を人工血管に置き換えて、未然に破裂を防ぐのが一番の目的です。万が一破裂した場合は緊急手術で出血を止めて、人工血管に置き換えます。

2. 手術について
11.手術には従来の開腹手術と、ステントという金属の網が付いた人工血管(ステントグラフト)を血管内に挿入して治療するステントグラフト手術があります。開腹手術では全身麻酔下におなかの真ん中を切開します。動脈瘤の前後で血管を遮断し、一時的に血流を止めて、その間に動脈瘤を切開し人工血管を縫い付けます。人工血管はポリエステル製で、まっすぐな筒状のものや枝分かれしたものを部位によって使い分けます。
一方、ステントグラフト手術では、足の付け根の動脈を露出し、ここからステントグラフトを収納したカテーテルを挿入します。大動脈瘤の位置まで運び、ステントグラフトをカテーテルの外に放出すると、動脈瘤の内側に張り付いて、動脈瘤の壁に血圧がかからなくなるので、破裂の心配がなくなります。ステントグラフト手術は従来の開腹手術に比べ、身体にかかる負担は少ないですが、部位によっては困難なことがあります。
また、従来の手術で使用する人工血管と比べて、長期的な耐久性は明らかでありません。まれにステントグラフトがずれたり、ステントグラフトと大動脈瘤の隙間に血液が流れ込んだりすること(エンドリークといいます)があるので、定期的なCT検査が必要となります。

(文責:平岩伸彦、田端実)

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